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 ←『ハリケーン』 -前編- 
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「忙しい人たちへ(掌編集)」
忙しい人たちへ②

『ハリケーン』 -後編-

 ←『ハリケーン』 -前編- 
 私たちの席は二階の一列目。リングからは少し遠いが、一階の後ろのほうなんかよりずっと試合が見え易い席だった。
 さすがに「今最も熱い」と銘打っているだけあって、試合開始の三十分前に会場は満席となった。
 第一試合の始まりがアナウンスされると、胸が高鳴り始めた。いよいよという気持ちは、試合の開始と久しぶりに娘の姿を見ることに対してだ。
「赤コーナー、128パウンド……三好~富美花~!」
 アナウンサーにコールされ、青地に金色の稲妻模様の入ったユニフォームを着た富美花が姿を見せる。もちろん、入場曲など流れない。それでも多少は人気があるらしく、拍手と声援が起こる。時折「富美花コール」も聞こえてくる。
 ロープをジャンプで乗り越え、リングに上がった富美花は、両手を振ってファンの声援に応えている。
 その姿は、私の知っている富美花ではなかった。人一倍目立つことを嫌う彼女があんなことをするなんて、以前なら考えられなかった。
 体もホームページの写真よりずっと大きく見える。
「続きまして青コーナー、155パウンド……柴崎~忍~!」
 黒地に赤い炎の模様のついたユニフォーム。肩で風を切って歩く姿には、格闘家としての貫禄が充分だ。軽やかにロープを飛び越えた富美花とは対照的に、一本目のロープを右腕で持ち上げて二本目との間を潜るといったリングへの上がり方は、その腕っぷしの強さを見事に物語っている。
 身長は富美花とあまり違いはなさそうだが、体は一回り大きく見える。襟足を刈り上げ、髪全体を尖らせた、そのヘアスタイルはまるで男だ。
「おい、1パウンドって何キロだ? 母さん、知っているか?」
 周りの客に聞き取られぬようヒソヒソと、尋ねる。
「約450グラム。つまり相手のほうが富美花より10キロ以上体重が上ね」
「おお、そうか」
 リングで富美花と柴崎選手が睨み合っている。あんなに鋭い目をした富美花を見るのは初めてだった。
 パフォーマンスであって欲しいと思う反面、浮わついた気持ちでは勝てないだろうし、何より怪我に繋がるということは、容易に察しがついた。
 ゴングが鳴った。いよいよ試合開始だ。
 始めはどちらも相手との距離を取り、お互いの様子を伺っている感じだ。
 富美花がジャブで牽制するボクシングスタイルなのに対して、柴崎選手はやや腰を落とし、両手を広げる柔道やレスリングのような構えをしている。
 二人とも相手の顔を見ながらリングを回る。腕を伸ばしては引き、一旦距離を取るを繰り返す。
 観客席から「行け!」や「攻めろ!」という声が上がる。一方、リングサイドからは、「焦るな!」、「相手をよく見ろ」の声。
 私と妻は、黙ってその動向を見守る。
 先に攻撃を当てたのは富美花だった。ジャブが顔面に二発、立て続けにヒットした。
「よし!」と、思わず叫んでしまう。
「今のは当てたうちには入らないわ」
 意外にも妻が冷静なコメントをする。
「わかっているよ。つい声が出てしまっただけだ」
 その後も富美花がジャブを何度か当てただけで、これといった進展がなく第一ラウンドは終わった。
「なかなか当たらないものだな」
「篠崎選手のほうがパワーがあるからね。捕まって力比べになったら勝ち目はないわ。だから富美花は間合いを広く取っているのよ」
「なるほどな」
「それに富美花はリーチも長いわけじゃないから」
「リーチってあと一つで上がりだろ? 時間制限なんてあるのか?」
 私の質問に妻が首を傾げる。麻雀のリーチとは似ても似つかぬものらしい。
「すまん。リーチって何だ?」
「腕の長さのことよ」
「そういうことか……お前、随分詳しいな」
「あなたと違って勉強したのよ」
 妻の言葉に私は小さくなる。
 なかなかキツい一言だ。
「とにかく今のままじゃ勝てないわ」
 そう言っているうちに第二ラウンド開始を告げるゴングが鳴った。
 両選手がリングの中央へと足を進める。
 第一ラウンドと同じ、お互い適当な距離を取り、相手を牽制する試合展開が続く。
 一分が経過する頃、再び富美花のジャブが柴崎選手の顔面を捉え、続けて右フックが炸裂した。柴崎選手がよろめく。試合開始後、初めての有効打だった。
「うまく当てたもんだな」
「そうね」
 またしばらく様子見が続いた後、今度は左フックを当てた。
「第一ラウンドより間合いが詰まってかていないか?」
「確かにね」
「いい感じに自分のペースに持ち込めたな」
 私の言葉に対して、妻は何も答えなかった。
 リングサイドからも「富美花、前に出過ぎるな!」という声が聞こえる。
 どうも私が考えているほど単純ではないらしい。
 富美花にはその声が届いていないのか、先程と同じように前へと踏み込む。ジャブが当たり、もう一度右フックが炸裂。
 そう思ったが、柴崎選手に上半身を下げられ、フックは空振り。
 フックを避けた柴崎選手のタックルが富美花を襲った。
 そのまま持ち上げられるような形で、富美花はコーナーポストに背中を叩きつけられ、自然と上を向いた。柴崎選手がすかさず隙のできた富美花の首を締め付ける。体が宙に浮き、爪先がマットから離れる。
 柴崎選手はこれを狙っていたらしい。距離を詰めていたのは富美花ではなく、柴崎選手のほうだったのだ。
 先程までこんなふうに試合を分析する役目をしていた妻が打って変わって「富美花!」と、絶叫に近い声を上げている。
 富美花の悲痛に歪む顔を見ていると、そう言いたくなる気持ちもわかった。
 レフェリーが富美花の傍により、何か話し掛けている。富美花が首を横に振る。
 恐らくギブアップかどうかを尋ねているのだろう。
「早くギブアップしなさい!」
 聞こえるはずはないが、妻が立ち上がって必死に叫ぶ。
 そんな妻を見て、私だけは冷静でいられるように努める。
「あの子が進みたい道なら応援したい。そう言ったお前が諦めてどうする」
「でも……」
「あの子はか弱くて、守ってやらなくちゃならない。それは私たちが勝手に決め付けていただけなんじゃないかな?」
 ピアノの発表会の時、最後まで上手に弾けるかを心配していた私たち。
 そんな心境をよそに、富美花は一度も失敗することなく演奏を終えた。
「確かに私たちは、嫌なら辞めてもいいとか、危ないから止めなさいとか、そんなことをよく言った。しかし言われた通り、すぐにやめたことがあったか? あの子がギブアップするのは、いつも本当にどうしようもなくなってからだ」
 それまでは泣きながらだって続けた。
「あの子は決して弱くなんかない。本当の強さは、必ずしも勝つことで証明されるとは限らないんじゃないか?」
 興奮し、立ち上がっていた妻がゆっくりと席に腰を下ろす。
「そうね。見せてもらうわ。あの子がどれだけ強いか」
 幾度となく繰り返されるレフェリーの問いかけにも、富美花は首を横に振り続けた。そして長い第二ラウンドが終わった。
 どうにかゴングに救われ、私も妻も胸を撫で下ろす。
 コーナーポストの前で椅子に腰掛ける富美花の表情は、お世辞にも余裕があるようには見えなかった。
 勝って欲しい気持ちはあるが、それ以上に怪我がないことを願わずにはいられなかった。
 最終ラウンド開始のゴングが鳴った。
 富美花はやや疲れたような足取りで前に出た。
 先程までと比べると、腰を随分低く落とし、タックルを警戒しているように見える。ジャブで様子を見るボクシングスタイルはやめ、 柴崎選手と同じ、両手で構えるレスリングスタイルに切り替えたようだ。
 さすがに柴崎選手も前のラウンドのように容易には突っ込めない様子だったが、やがて痺れを切らしたらしく、富美花に向かって タックルを繰り出した。
 富美花は俊敏な動きでそれをかわす。
 残り時間が僅かということもあってか、観客も、セコンドも、会場全体が沸き立っていた。
 再び向き合うリング上の二人。
 柴崎選手がまたタックルを仕掛けるが、先程と同じで富美花はヒラリとそれをかわす。そのまま同じ光景が何度か繰り返される。
かわしてばかりじゃ勝てない。どうする、富美花。
「おい、闘牛やってるんじゃねえぞ! さっさと攻めろ!」
 後ろから汚いヤジが飛び、私は反射的に立ち上がって後ろを睨みつけた。
「あなた!」と、妻が私の腕を引っ張る。
 視線をリングに戻すと、富美花が柴崎選手の後ろに回り込んでいた。上体を低く落とし、柴崎選手の腰を両腕で締め固めると、頭を柴崎選手の脇の下に潜り込ませた。
「ああっ!」
 私と妻が叫ぶと同時に、富美花は柴崎選手を抱え上げ、そのままブリッジの要領で勢いよく後ろに反り返った。
 柴崎選手の上半身が叩きつけられ、マットが激しく弾む。
 富美花の豪快な技に歓声が上がる。
 格闘技に関しては素人の私でも、この技は知っている。
 バックドロップだ。
 あんな技ができるなんて……。
 私の体は興奮で震えていた。
 しかし相手も自らを追い込み、肉体を鍛え上げた者だ。
 柴崎選手はふらつきながらも、すぐに立ち上がった。ただし、ダメージは大きかったらしく、動きにキレがなくなっている。
 そこで富美花が左右のパンチの組み合わせで、ラッシュをかける。
「行け! 富美花!」
 私も声を上げずにはいられなかった。
 左のボディブローが入ったところで、富美花が後ろへ下がる。項垂れた柴崎選手に向かって左回し蹴りを繰り出す……が、離れすぎで届かなった。
 思わず落胆の声が漏れそうになった瞬間、富美花の体がくるりと回転し、宙を舞った。
 目にも止まらぬ早業で、富美花の華麗な右後ろ回し蹴りが柴崎選手の頭に炸裂した。
 柴崎選手はマットに派手に倒れ、そのまま動かなくなった。
 今までで一番大きな歓声が上がる。
「富美花の必殺技、旋風脚よ」と、妻が得意げに言う。
 そうか。空振りだと思った最初の蹴りは反動をつけるためのものだったのか。
 レフェリーが柴崎選手に駆け寄り、彼女の顔を除く。肩を叩くが反応がない。
 レフェリーは立ち上がって両手を大きく振り、富美花のそばに近付いた。彼が富美花の右手首を高らかに持ち上げると同時に、場内アナウンスが入った。
『勝者~! 三好~富美花!』
 待ち詫びた瞬間が訪れた。
 会場全体が沸き立ち、拍手と共に富美花コールが起こる。
 富美花はリングの中央に立ち、時計回りで順に観客席に向かい、手を振り、頭を下げていく。
 私と妻のいる席の方角が一番最後だった。
 富美花がキョロキョロと周りを見回している。
 ひょっとすると、私たちを探しているのかも知れない。
 チケットを手配したあの子なら、私たちがどの辺りの席か、ある程度検討をつけているだろう。
 私は妻に「手を振ってやろう」と促し、二人で手を振った。
 しばらくして、富美花がそれに気が付いたらしく、私たちに向かって右手を振り返した。やがてその手は握り拳に変わった。
 勝利のガッツポーズだろう。
 私がピースサインで応えると、富美花が笑った。
 久しぶりに見るあの子の笑顔は、子供の頃と何も変わっていなかった。
 まるでお人形さんのよう……いや、もうお人形さんなどではない。
 女王様……それも世界で一番強くてかわいい女王様だ。

<了>
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~ Comment ~

本当の強さ 

勝つことだけが本当の強さではない。
そうですよね。
子供だって立派な一人の人間。
自分の考えで行動できる力は十分にあります。
本人の強い意志で最後まで貫く・・・例え失敗してもそれは負けではありません。
家族の絆がより一層深くなったと思います。

私も子供の力を信じて子育てをしたかったなぁ。
ついつい、手を出したり自分の考えを押し通したり。

素敵なお話をありがとうございます♪

読ませていただきました 

試合の様子が 臨場感あふれて目の前に展開しました
一瞬一瞬 手に汗握り ハラハラしながら堪能しました
親の思いも すごくリアルに伝わってきます
心配、信頼、突き放して見守る気持ち、でも案じて祈る気持ち
いくつになっても 子が成長しても 親のこの思いは それぞれに真実だと
切ないほどに感じました
とてもよかったです

kotanさんへ 

> 勝つことだけが本当の強さではない。

 これがこのお話で伝えたかったことです。
 そしてもう一つは親が考える道が必ずしも正しいとは限らないということですね。

 私は子育てまだまだこれからですが、自分自身にとってもいろいろと考えさせられました。

 こちらこそお付き合い、ありがとうございました。

椿 まこさんへ 

試合風景は描くのがとても難しかったです。
あっさりしすぎてはダメだし、迫力が必要ですから。技の一つ一つがちゃんと伝わっていたのか不安です。

親って本当にすごいですし、ありがたい存在ですよね。
私自身も子にとってそうでありたいです。

読んでいただきありがとうございました。
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