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 ←『公衆電話の向こう側』 -最終回- →『ハリケーン』 -後編-
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「忙しい人たちへ(掌編集)」
忙しい人たちへ②

『ハリケーン』 -前編-

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『今、最も熱い格闘技! その名もハリケーン!』
 ホームページの一番上に、大きな赤色の文字が踊る。
 自ら進んで格闘技のホームページを見るのは初めて……ではなく、これで二度目だ。
 右端には『注目の選手』と書かれ、何枚かの女性の顔写真が並んでいる。
 そのうち一枚をクリックすると、ページが切り替わった。
 彼女のプロフィールが表示され、写真は全身のものになった。
 私の知っている彼女とは随分と見た目が違う。肩の辺りまであった髪の毛はバッサリと耳の上で切られ、見るからにひ弱そうだった体つきも、ガッチリとした筋肉質なものになっていた。キッとこちらに向けられた視線は力強く、男である私でさえ圧倒されそうになる。
 初めてこのホームページを見た三年前には、まさか彼女がここで紹介されるだなんて思ってもみなかった。

「私、格闘家になろうと思っているの」
 娘の富美花が突然そう話したのが、三年前。
 子供の頃から気が弱く、誰かとケンカをしてもいつも泣かされてばかり。
 優しさが彼女の一番の長所で、将来は動物病院の先生か花屋になるというのが口癖だった。
 現に短大を出た後は、地元のフラワーショップに就職した。「覚えることがたくさんあって大変だけど、毎日がとても充実している」と聞いていた。
 決して派手さはないが、彼女らしい生き方だと、私は思っていた。
 もし他に望むとすれば、そう遠くはない将来に結婚して、子供を産んでもらうことくらいだった。
 それがなぜ格闘家なのか。
「この前ね、友達と一緒に格闘技の試合を見に行ったの」
 私と妻を椅子に座らせ、富美花が穏やかな口調で話し出した。
「そんなの全く興味がなかったんだけど」
 私もそう思っていた。妻だってそうだったはずだ。
「どうしてもって言うから、今回限りのつもりで付き合ったのね」
 押しに弱い彼女なら、断るに断れなかったのもわかる。
「格闘技だからきっと体の大きな、汗臭い男の人同士が闘うものだと思っていたし、私、そういうの苦手だから、正直嫌だなって思っていたのよ」
 それもまた想像に難くない。
「だったらなぜ」と聞きたくなる。
「それが全然違ったのよ。お父さん、お母さん、『ハリケーン』って知ってる?」
 竜巻のことだろうと思ったが、そんな当たり前のことをわざわざ尋ねるはずもないため、私は「知らない」と答えた。妻も同じようだった。
「女性だけの総合格闘技で、最近、男女問わず人気が出始めているらしいのよ」
「その『ハリケーン』の試合を見たわけね」
 先に彼女の話を前向きに聞こうとしたのは妻のほうだっだ。
「そうそう。凶器を使わなければ、何でもオッケーの格闘技の中の格闘技よ」
 格闘技の中の格闘技。
 そんな台詞を富美花の口から聞くとは思わなかった。
「想像以上に面白くて、とても興奮したのよ。感動したって言ってもいいかな。女性って綺麗とかカワイイとかだけじゃなくて、強くて、カッコ良くもなれるんだって思ったわ」
 思った……それで終わりでいいではないか。
「お前がその『ハリケーン』とやらに興味を持ったのはよくわかった。だからってなぜ選手になる必要があるんだ?」
「なぜって私は……」
「お前が考えているほどあの世界は甘くはないぞ。怪我だってするだろうし、場合によっては死んでしまうことだってある」
「言われなくても……」
「そもそもお前は本当にそれがしたいのか?」
「あなた……そんなふうに」
 間に割って入ろうとする妻を相手にせず、私は言葉を続けた。
「どうせ、一時の感情でそう思って」
「いい加減にして!」
 富美花が大声を出し、テーブルを叩いて立ち上がった。予想もしない展開に私は怯んだ。
「どうして私がしようとすることを頭ごなしに否定するの? 少しくらい話を聞いてくれてもいいでしょ!」
「私はお前のことが心配なだけだ。その体で格闘技なんて無理に決まっている」
「別にこのまま試合に出るなんて言ってないじゃない? トレーニングだってしなくちゃならない。そんなの当たり前でしょ」
「体だけじゃない。精神的なこともだ。気の弱いお前にできるとは思えない」
「だからこそよ」
 富美花が打って変わって、優しい表情になる。
「私は今まで危ないことや嫌なことから逃げてばかりいたわ。いじめられたり、ケンカしたりしたらいつもお父さんやお母さんに守ってもらった」
 富美花の言うとおりだ。そしてそれは彼女の意思ではなく、私や妻の意思からだ。
「危ないからやめなさい」
「嫌ならやめてもいい」
「誰にいじめられたんだ?お父さんがその子に文句を言ってやるから」
 富美花は私たちの言葉に逆らうことなく、従ってきた。
「お前にとって迷惑だったのか?」
「そんなことは言ってない。大切に育ててくれて、二人にはすごく感謝している。でもね、私、もう子供じゃないから。強くなりたいの」
 娘の自立心には敬意を払うが、「格闘家になりたい」というのは理解できなかった。
「さっきも聞いたが、だからってなぜ選手になる必要がある。強くなりたいのなら、ジムにでも通って体を鍛えればいいだろ。わざわざ危険を侵す必要はない」
「そうやって逃げ道を作っていたら、いつまで経っても強くはなれない」
「お前は強くなりたいって口癖のように言うが、最終的な目標は何だ? チャンピオンになることか?」
「そのつもりよ」
 富美花の真剣な表情を見ても、私には馬鹿げたこととしか思えなかった。
「無理だ。なれるわけがない」
「どうしてそんなことが言えるの?」
「お前がチャンピオンになっている姿が想像できない」
「何、それ……」と、富美花が呆れ顔で笑う。
「つまり私には、お父さんが思い描ける将来像しかないってこと?」
「そこまでは言ってない」
「言ってるじゃない」
 このままでは二人の会話は平行線を辿る一方だと思ったため、ずっと黙っている妻にも意見を聞いてみることにした。
「母さんはどう思う?」
「私は……」と言って、妻は富美花のほうへ視線を移す。目と目で会話をする。そんな感じだ。
「この子がそう言うのなら応援してあげてもいいと思ってる」
 お前までそんなことを言うのかと、すぐそこまで出ていた言葉を飲み込んだ。
「この子がこんなふうに積極的に何かをやってみたいって言ったことがあった?」
「ピアノや書道は楽しそうにやっていただろう」
「始めるキッカケを作ったのは私たちだったわ。それが偶然合っていただけ。自分からやりたいと言ったのは初めてのことよ」
 妻に言われて、改めて思い返してみる。確かにそうかもしれない。
「この子は私たちの人形じゃないし、守ってやらなければいけないほどもう子供でもない。自分の進みたい道を歩かせてやるべきよ」
 富美花と妻、二人が私の顔をじっと見る。私の口から自然と溜め息が溢れた。
「わかった。いいだろう」
「ありがとう。お父さん」
 富美花が微笑む。
「良かったわね」と、妻も笑顔を見せる。
「ただし、三年だけだ。その間にそれなりの成果を上げられなければ、潔く辞めてもらう」
 富美花はしばらく考えるような表情を見せた後、「わかったわ」と答えた。
「それからもう一つ。独り暮らしを始めること。そして三年間は家に帰ってくるな」
「あなた、いくらなんでもそれは……」
 妻が遠慮がちに口を挟む。
「逃げ道を作らないと言ったのは富美花自身だ。そのくらいの覚悟がなければ、格闘家になんてなれない。そうだろ? 富美花」
「確かにお父さんの言う通りね。わかった。その条件に従う」
 格別厳しい条件だとは思わなかった。「どうせ、すぐに音を上げる」と、決め付けていたからだ。

 しかし私の予想通りにとはいかなかった。
 三年が経った今、富美花は一度も帰ってきていない。休日どころか盆正月でさえ顔を見せなかった。
 彼女がどうしているのか、気にならないわけではなかった。
 近況報告はいつも妻を通して行われた。トレーニングがキツくて毎日クタクタだとか、有名選手の付き人をやりながら技の勉強をしているとか、試合で勝った、あるいは負けたとか。
 本音を言えば、「たまには帰って来い」だった。しかし私にも意地があった。
 怪我や病気をしていないことに安心だけしていた。
 妻は試合に呼んで欲しいと何度か頼んだらしいが、「まだ見てもらえるものじゃない」と、断られてばかりだったようだ。
 そして先日。
 娘から二枚の試合のチケットが送られてきた。 手渡しではないところがあの子なりの意地だろう。今になって試合に招待したのも、三年という時が過ぎるのを待っていたからに違いない。その辺りは私によく似ている。
 テーブルの上に置いたチケットには、ファイティングポーズをとった二人の選手の写真が映っていて、第三試合と書かれている。恐らくこの試合がその日のメインだろう。
 残念ながら、どちらの選手も富美花ではない。
 富美花は第一試合。所謂前座というやつだろう。対戦相手は「柴崎忍」とある。富美花と同じで名前が記されているのみなので、どんな選手かはわからない。気になるので検索しようとすると、ちょうど妻が着替えを済ませてやってきた。
「あなた、そろそろ支度しないと間に合わなくなるわよ」
「もうそんな時間か」
 パソコンを仕舞い、チケットを揃えて妻に手渡すと、着替えをするために二階に上がった。
 今日がその試合の日なのだ。

 試合会場である県立体育館へは、車で一時間ほどだ。道中は妻も私もほとんどしゃべらなかった。自分が出場するわけではないのだか、やはり緊張せずにはいられない。
 富美花の初めてのピアノ発表会を思い出す。
 ピンク色のドレスに、頭には花飾り。「まるでお人形さんのよう」とは彼女のために用意された言葉だと思うほどカワイかった。
 しかしいざステージに上がると、そんなことよりも、富美花が最後までうまく弾けるかが心配で堪らなかった。
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~ Comment ~

今年もよろしくお願いします♪ 

ちょっぴりお久しぶりです。

新作もやはり自分と重ねてしまいますが、親ってそうですよね~。
いや、もちろんある程度厳しさも必要ですが、ついつい私も手を出し、口を出してしまいますよ。。
選択肢という名の逃げ道を与えてしまうというか、ですね。

私のブログも1か月以上更新していないので、広告がついてしまいました。
早く更新しなくちゃ!

続きを楽しみにしています~♪

kotanさんへ 

こちらこそよろしくお願いします。

なかなか子供に厳しくなるのは難しいのかなって、最近よく思います。
ですが、それが愛の鞭ならば必要ですね。

女の子が格闘技なんて言うと、やっぱりとても心配ですよね。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

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