スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←『公衆電話の向こう側』 -3- →『公衆電話の向こう側』 -最終回-
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png 作品紹介
もくじ  3kaku_s_L.png 上手な別れ方
もくじ  3kaku_s_L.png 空と海
もくじ  3kaku_s_L.png 地球の軌跡
もくじ  3kaku_s_L.png 夏に恋して
もくじ  3kaku_s_L.png お礼参り
もくじ  3kaku_s_L.png 遠くの隣人
もくじ  3kaku_s_L.png 道連れ
もくじ  3kaku_s_L.png 美しき幕引き
もくじ  3kaku_s_L.png 別れたら
もくじ  3kaku_s_L.png 願い集うとき
もくじ  3kaku_s_L.png 相方よ
総もくじ  3kaku_s_L.png 忙しい人たちへ(掌編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png 重要な選択
総もくじ  3kaku_s_L.png 未来(あした)が見たら
総もくじ  3kaku_s_L.png 親愛なるあなたへ
総もくじ  3kaku_s_L.png 赤い糸をたどって
総もくじ  3kaku_s_L.png 独り言(雑記)
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【『公衆電話の向こう側』 -3-】へ
  • 【『公衆電話の向こう側』 -最終回-】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

公衆電話の向こう側

『公衆電話の向こう側』 -4-

 ←『公衆電話の向こう側』 -3- →『公衆電話の向こう側』 -最終回-
 翌週の水曜日。
 私は先週の電話の後も気掛かりだったことを尋ねてみた。
「この前少し話したけど、御主人とは本当にうまく行っているの?」
『うん。行っているわよ。どうして?』
 前回とは違い、迷いのない答え方。
 やはり前回のは冗談だったのか。
「うまく行っていないから僕みたいな若い子と電話してるって言っていたのが、何となく心配になって」
『ゴメンね。深い意味はなかったんだけど……でも、寂しいから誰かと話がしたいっていうのは嘘じゃないわ』
「友達と会ったり、電話したりは?」
『私、人付き合いが得意なほうじゃないから、友達も多くはないのよ。それに皆、結婚して子供もいるし、やっぱり家族が優先になるもん』
「ミハルさんのところに子供は?」
 この件はとてもデリケートな部分で、歳を重ねた今ならもう少しマシな尋ね方をしていたと思う。
『いないし、作る予定もない』
「どうして?」
『主人は子供が嫌いだから』
「ミハルさんは?」
『私は好き。でも子供って、産むのも育てるのも夫婦が協力しないとダメだから』
「それで諦めているんですか?」
『うん』
「結婚前から御主人の子供嫌いは知っていたの?」
『いいえ。結婚したら子供を産むのは当たり前だと思っていたから、改めて確認もしなかったわ』
 生涯独身や子供を持たないという選択肢が世間的に認知されたのは、ごく最近のような気がする。あの時代ならミハルさんが言っていることもおかしくはなかった。
「子供でもいれば、少しは寂しさがまぎれると思ったんだけど、ダメか」
『そうね。残念だけど』
 ミハルさんの苦笑いが容易に想像できた。
「ご両親や兄弟は?」
『兄弟はいないし、両親も遠方に住んでいるから簡単に会いにはいけないのよ』
 もはや八方ふさがりだった。
 後はペットくらいか。
「犬や猫を飼ったらどうか」を提案しようとすると、ミハルさんが先に質問をしてきた。
『直人君に兄弟は?』
「四つ上の姉がいます」
『どんな人?』
「サバサバしていて男みたいな性格です」
『直人君の苦手なタイプじゃない?』
「まあ、恋人にはならない人なんでそこは気になりません。むしろ、頼りになって助かります」
『それはそうね』
「まあ、恋人になる人はそれなりの男じゃないとダメだろうな」
『付き合っている人はいないの?』
「休みの度に出掛けているから。いそうな感じはするけど」
『聞いたりしないんだ』
「それを聞くと、『あんたはどうなの?』って聞かれるのは目に見えてるから」
『じゃあ、相談に乗ってもらったりはしないんだ』
「しません。『攻めろ、攻めろ』ですぐに結果を求めてくるから嫌なんです」
 ミハルさんが明るい笑い声が聞こえる。
 そんなに楽しそうなのは、何だか久しぶりのような気がする。
『本当に男っぽい人なんだ』
「そう。これで見た目がゴリラみたいだったらお仕舞いだけど、一応女っぽいので助かってるかな」
『一応って、ヒドイわね。そんなふうに言いながら、結構美人なんじゃない?』
「身内贔屓になりそうだから、僕の口からは何とも言えないな」
『微妙な答えね。でも完全に否定はしなかったわね。だからそれほど悪くはないと見た』
「想像にお任せです」
『ねえ、ご両親はどんな方?』
「親父は頑固で、ちょっと変わってますね。普段は物静かですけど、怒ると怖いです」
『それは私の父も同じ。でも本当は優しいでしょ?』
「そうですね。叱られた記憶自身はあまりないです」
『お母さんは?』
「母はとにかくおしゃべりで、時折面倒臭いときもありますね。この話、いつまで続くんだろうって」
『贅沢な』
 ミハルさんが突き放すように言う。
『話を聞いて欲しいときに誰もいないことのほうがよほどツライのよ』
「うーん、まあ……そうなのかな」
『直人君は友達にせよ、ご両親やお姉さんにせよ、いつでも話を聞いてくれる人がいるからそう思うのよ』
「でもミハルさんにもご両親はいるじゃないですか。遠方って言っても、海外やよその星に住んでいるわけじゃないんでしょ?」
 いつか読んだ小説で、隣に引っ越ししてきた気のいい男が実は異星人だったというのがあった。
『もちろん、日本に住んでいるわよ』
「だったら会いにいけばいいじゃないですか。電話するだけでもいいし。きっと喜びますよ」
 私の言葉にミハルさんはしばらく何も言わなかった。
 まずいことを聞いてしまったのかと慌てていると、「実はね」とミハルさんが口を開いた。
『私と主人は両親に賛成されて結婚したわけじゃないの。駆け落ちっていうのかな』
「えっ……」
『その時はただ彼と一緒にいたいって思っていたから、何も考えずに家を飛び出した感じ。だから両親には頼ることは愚か、電話で話すのも難しいかな』
 予想もしない彼女の打ち明け話に、私は唖然とした。
『今じゃ軽率だったって後悔しているけど……』
「家を出たのはいつ?」
『七年前』
「それから連絡は一切なし?」
『何度か電話しようと思ったけど、気が引けて、結局そのまま』
「謝ればいいじゃないですか」
『許してくれるかな』
「そんなに融通の利かないご両親なんですか?」
『いいえ、両親じゃなくて主人がよ』
「御主人?」
『そう。結婚に反対されたことをずっと根に持っているのよ』
「だからってミハルさんが自分のご両親と仲直りするのを許さないっておかしいじゃないですか」
『そうよね。おかしいわね』
 ミハルさんの口調はまた平然としたものだった。
「でも仕方がないわ。両親より彼を選んだのは私なんだから」
「本当にそれでいいの? ミハルさん は後悔していないの?」
『後悔なんてしてない』
「だったら、前に僕が言った『結婚できて良かったですね』って言葉に素直に頷かなかったの? 私にもわからないって、そう答えたよね」
『あれは……ちょっとした冗談よ』
「また冗談? いったい何が冗談や嘘で、何が本当なの?」
 私の問いかけに、ミハルさんはすぐに答えず、黙り込んでしまった。本当に幸せなら、そんな必要はないはずだ。
「どうなの?」
 恐ろしいほど長いと感じられる沈黙の後、ようやくミハルさんが口を開いた。
『私はあの人に飼われている、カゴの中の鳥と変わりがないのよ』
「カゴの中の鳥?」
『あの人の許可がないと何もできない』
「例えば、どんなこと?」
『買い物。私が自由に買うことが許されているのは、食料品と日用品と下着。それと古本くらい。ウィンドウショッピングが趣味だって言ったけど、そうするしかないからなのよ』
 ようやく本当のことを話してくれた感じだった。
『外出も同じ。どこへ、誰と行くのか、何時に帰ってくるのか、全部確認してもらってから』
 夫婦間のコミュニケーションというような甘いものではなさそうだった。
「ダメな場合もあるんですか?」
『オッケーが出るほうが珍しいわ。だんだん聞くのが嫌になってきて、諦めている状態』
「その分御主人が旅行なんかに連れて行ってくれるとか」
『ないわ。日帰りの旅行どころか、外食ですらごくたまによ。あの人の気が向いたときにね』
 話を聞いているだけでも息が詰まりそうだった。
『他にもあるわ。隣の御主人と話していただけで、お前アイツとできてるのかって言われたり。店員さんや単なる通りすがりの男性に道を尋ねられただけでも、色目を使っただろって』
「冗談でしょ?」
『直人君、さっきどこまでが冗談なのって私に尋ねたでしょ? 今、話しているのは全部本当のことよ』
 自分の理解できないことだったため、つい疑いの言葉を言ってしまった。
「嫉妬深い人なんですか?」
『そんな生易しいものじゃなくて異常よ。自分以外の男と仲良くされるのが嫌だから。それが、主人が私を働きに出したくない本当の理由』
「それはミハルさんを誰にも渡したくないからで……」
 ミハルさんが「ふふっ」と優しく笑う。
『本当に直人君は純粋なのね。彼はそんな人じゃない。どうして私が毎週水曜日の夜に電話ができるかわかる?』
「なぜですか?」
『他の女のところへ行っているからよ』
「嘘でしょ?」
『答えはさっきと同じ。嘘でも冗談でもないのよ』
「自分は浮気しているのに、ミハルさんが他の男と話すだけでも許せないんですか?」
『そうね』
 その男の身勝手さに、私もしだいに腹が立ってきた。
『時折ね、殴られたりもするの』
「えっ……」
『男の人の件以外でもね。まあ、大抵私が悪いんだけど』
「悪いって、何をしたの?」
『些細なこと。例えば、お味噌汁が少し辛かったり、頼まれていたことができていなかったりとか』
 ミハルさんはそう言って笑ったが、私は笑えなかった。
「そんなことで?」
 私の父も気が短く、些細なことで腹を立てたり、機嫌を損ねたりする人間だが、母にも、私たち子供にも絶対に手をあげるようなことはしなかったからだ。
『でも私が悪いんだし』
 それを「自分が悪い」で片付けているミハルさんの気持ちもわからなかった。
『少し時間が経つと、謝ってくるし。泣きながら「ゴメンな」って土下座することもあるし。そこまでされたら許せないって言えないでしょ?』
「それは……それは違うよ」
 彼女には見えないが、私は激しく首を横に振った。
「どんなに謝ったとしても、女性に……ましてや自分の奥さんに暴力を振るうなんて、絶対に許されるべきことじゃない」
『でもね』
「ねえ、ミハルさん。なぜそこまでされてその人と一緒にいる必要があるの? やっぱり好きだから? お金のことが不安だから? それとも何か弱味を握られているから?」
 私は男の傲慢さと調子の良さに対して、頭に血が昇っていた。そしてそんな男から離れようとしないミハルさんに対しても腹を立てていた。
『それが……私にもよくわからないの』
「わからないってどういうことだよ! ミハルさんの人生だろ! もっと自分を大切にしろよ!」
 私は、家族以外の年上の者に対して、そんな物言いをするような人間ではない。その時はもはや見境がなくなっていた。
『直人君、私……』
 ミハルさんはそこで言葉を詰まらせたきり、何も話さなくなった。
 電話が切れてしまったのかと疑うほど静かな時間。
 サーッという音に紛れて、ミハルさんの鼻をすする音が聞こえてくる。
『そうだよね。間違っているよね。直人君の言う通りだよ』
 しゃくり上げ、途切れ途切れになりながらも、ミハルさんは懸命に言葉を紡いでいく。
『もっと……自分を大切にしないとね。ありがとう』
「これ以上はしゃべれそうにないから」と、ミハルさんは電話を切った。
 未だ興奮の冷めない私は、大きく息を吐き出してから電話ボックスを出た。
スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png 作品紹介
もくじ  3kaku_s_L.png 上手な別れ方
もくじ  3kaku_s_L.png 空と海
もくじ  3kaku_s_L.png 地球の軌跡
もくじ  3kaku_s_L.png 夏に恋して
もくじ  3kaku_s_L.png お礼参り
もくじ  3kaku_s_L.png 遠くの隣人
もくじ  3kaku_s_L.png 道連れ
もくじ  3kaku_s_L.png 美しき幕引き
もくじ  3kaku_s_L.png 別れたら
もくじ  3kaku_s_L.png 願い集うとき
もくじ  3kaku_s_L.png 相方よ
総もくじ  3kaku_s_L.png 忙しい人たちへ(掌編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png 重要な選択
総もくじ  3kaku_s_L.png 未来(あした)が見たら
総もくじ  3kaku_s_L.png 親愛なるあなたへ
総もくじ  3kaku_s_L.png 赤い糸をたどって
総もくじ  3kaku_s_L.png 独り言(雑記)
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【『公衆電話の向こう側』 -3-】へ
  • 【『公衆電話の向こう側』 -最終回-】へ

~ Comment ~

大きな問題 

これはちょっと怖いな・・・
一歩間違えると大変な事態にもなりそう。
彼女の夫は自分に自信がないのか。
何かトラウマとか問題を抱えているとか。
単純に嫉妬深いだけじゃなくて、う~ん、難しいな。

救えるのか、救うのか。
全く別の方向へ行くのか・・・

kotanさんへ 

彼女の夫は、自信とか嫉妬がどうこうとかよりちょっと病的かもしれませんね。
今までこういうDVのようなものを扱った作品はなかったので、ちょっと斬新かも。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【『公衆電話の向こう側』 -3-】へ
  • 【『公衆電話の向こう側』 -最終回-】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。