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公衆電話の向こう側

『公衆電話の向こう側』 -3-

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『この前の続きだけど、直人君の趣味って何?』
「趣味ですか……実はこれと言って特に……」
 自分でも声が小さくなったのがわかった。胸を張って「これが趣味だ」と言えないことに多少なりとも後ろめたさは感じていたからだ。
『えー、若いのに無趣味? 休みの日は何してるの?』
「ゲームをしたり、友達と遊びに行ったりです」
『遊びに行くってどんなところ?』
「ボウリングにカラオケ、それにゲームセンター。後はファミレスでドリンクバー。皆、僕と同じでこれといった何かがない奴らばかりです」
『探せばいいのに』
「食わず嫌いじゃないですけど、やってみようかなって思えるものが見つからないんですよね」
『そっか。でも探すことは続けて欲しいな。若いうちしかできないことも多いしね』
「ミハルさんだって若いじゃないですか」
『そうかもしれないけど、やっぱり結婚すると、色々制約があるから』
「そうなんですか? 結婚って嫌なもんですね」
『そうね』
私としては冗談のつもりだったのだが、ミハルさんの口調はそう聞こえなかった。
『でも勘違いしないで、あくまで私の意見だから。大抵の人は結婚して良かったと思っているはずよ』
 確かに私の両親も結婚したことを後悔しているようには見えなかった。
 ミハルさんが「結婚っていいものよ」 と言えないことには、何か深い事情 がありそうだったが、その時の私にはまだ尋ねる勇気はなかった。
「ミハルさんは何かやってみたいこととかあるんですか?」
『世界一周』
『スケールが大きいですね』
 突拍子がなくて吹き出してしまった。
『直人君はしてみたくない?』
「そりゃ、してみたいですね」
『でしょ?』
「でもお金が……」
『それならヨーロッパ一周とか全米制覇ならどう?』
「うーん。それでも結構お金が掛かりそうですね」
『じゃあ、イギリスだけとかアメリカのロサンゼルスだけとか』
「それなら何とか行けそうかな」
『じゃあ、卒業までにお金を貯めよう』
「貯まるかなあ……」
『カラオケとか買いたいゲームを我慢すればいいのよ』
「我慢って言葉は嫌いだな」
『カラオケなんていつだって行けるし、ゲームだっていつでも買えるわ。お金は貯めればいいけど、時間は貯められないからさ。使えるときに使わなきゃ。結婚したり、働き始めたりしたら、海外なんて簡単に行けなくなるわよ』
「そうですよね……あれ? いつの間にか僕が海外に行く話になっていますよね。確か始めはミハルさんの世界一周の話だったのに」
 ミハルさんは話をすり替えるのがうまい。
「ミハルさんも世界一周はともかく海外旅行くらいなら行けるんじゃないですか?」
『私は……無理よ』
「じゃあ、北海道とか沖縄とか」
『場合によっては海外より高いわよ』
「そうなんですか? 知らなかった。それなら近場の温泉に一泊二日は?」
『うーん。そうねえ……』
 どうにも歯切れが悪い。
「日帰りにしますか?」
 これでダメならいったいどこなら行けるんだろう。残っているのは、近所の大衆浴場くらいだ。
「何が問題なんですか? お金ですか?」
『主人が連れていってくれるかなって……』
 消え入りそうな声。
「そんなことですか。別に一人で行ってもいいじゃないですか」
『私、車とか乗らないから』
「電車で行けばいいです」
『電車か……』
僕に対してはあれこれ「やってみたら」と言うのだが、自分のこととなると、妙に消極的だ。旅行に行けない理由は、「結婚しているから」だけではない気がした。
「ミハルさん、ひょっとして……」
『何?』
「どこかに監禁されてるとか」
 私が真面目なトーンでそう言うと、ミハルさんが大声で笑い始めた。
『そんなわけないじゃない。それなら初めて電話した時に助けを求めてるって』
「もちろん、わかってます。ただ、あまりにも自由がないようなことばかりだから、冗談で言ってみただけです」
『なんだ……冗談か。そりゃ、そうよね。直人君は免許は持ってるの?』
「今、教習場に通っているところです」
『じゃあ、直人君にどこかに連れて行ってもらおうかな』
「いいですよ。その代わり生命保険への加入が条件ですけどね」
『怖い怖い』
 その後しばらくはドライブの行き先についての話が続いた。
 もちろん、本当に行くつもりはなかった。ミハルさんだってそのはずだ。
 その時はそう思っていた。

 ミハルさんは単なるユーモアのある女性というだけではなく、気配りの利く優しい人でもあった。
 電話の度に「体は大丈夫?」や「ご両親から怒られていない?」と尋ねてくれた。
 酷いフラれ方をしたことに関してもとても心配してくれていて、「何でも相談してね」と言っていた。 幸いなことに、私をフッたあの子はあれからすぐにバイトを辞めた。
『直人君の好きな女性のタイプってどんな人?』
「男勝りだったり、ハキハキしゃべる子は苦手です。ちょっと大人しいくらいがいいかな」
 あの子もそういうタイプだと思っていたが、その期待は見事に裏切られた。
 あるいはそう言わざるを得ないほど、私が彼女を追い込んだのだろうか。
「それから下品な子は嫌いです。下ネタを平気で言えるような子とか言葉遣いが悪い子とか」
『それはそうよね』
 親父女子とか毒舌とか、今はそれを売りにしている女性もいるが、私には正直理解できない。
「だからと言って無口過ぎるのも困る。ミハルさんみたいに話をしていて楽しい人がいいです」
『ありがとう。ねえ、見た目に関しては?』
「見た目にはこだわるなって言ってたじゃないですか?」
『全く気にするなとは言ってないわよ』
「そうですか……えっと、色白で、髪は肩の辺りまで。体形はちょっとぽっちゃり。二重瞼で、笑窪のできる人」
 ミハルさんがぷっと吹き出す。
『それはこだわり過ぎ』
「あくまで理想ですよ。夢見るのはタダだし」
 もちろん、この条件を全て満たす女性には、未だに出会ったことがない。
『私に当てはまるのは、色白と二重瞼くらいかな。髪の毛はショートだし、笑窪もない。体形はぽっちゃりからは程遠いわね』
「痩せ過ぎのほうですか?」
『直人君、わざと言ってる?』
「あっ、いえ、そんなつもりは……でも本人が気にしているほど、太っていない場合もありますよ」
『どうなんだろう。自分ではぽっちゃりよりぼっちゃりのほうが近い気がするけど……まあ、そこは想像にお任せね』
「じゃあ、ストライクゾーンで想像しておきます」
 私の中で、勝手なミハルさんのビジュアルができあがりつつあった。
『年齢の条件は?』
「そうだな、気の合う人ならあまりこだわらないかな」
『それが十二歳年上でも?』
「十二歳? 随分はっきりとした数字ですよね?」
 ミハルさんが自分のことを言っているのだというのは、すぐにわかった。
「もちろん、大丈夫ですよ」
 彼女の冗談に私も乗る。
『本当に大丈夫? 真面目な話だけど』
 声のトーンがいつもと違う。
『私は十二歳年下でも大丈夫だよ』
 これは冗談抜きなのか。
 もちろん、十二歳も年上の女性との交際など、それまで考えたことがなかった。同世代の女の子でさえ、付き合った経験がないというのに、少しハードルが高過ぎた。
 胸が高鳴った。「はい」と返事をしてもいいんだろうか。
 しかし三十二歳と言えば、姉よりも年上だ。
 果たして「恋人」という関係が成り立つのか。
 私が黙り込んでいると、ミハルさんがアハハハと笑い始めた。
『ゴメン、ゴメン。ちょっと度が過ぎたわね。まさか直人君がそんなに真剣に悩むなんて思ってもみなかったから』
「からかっていたんですか?」
 腹立たしさと恥ずかしさで体中が火照る。
『ホンの少しのつもりだったんだけど』
「切っていいですか?」
『ちょっと待って。怒っちゃった?』
 ミハルさんの口調はひどく慌てたものだった。
「当たり前でしょ」
『本当にゴメン。私が悪かったわ。だから機嫌直して。ねっ、お願いだから』
 やがては泣きそうな声を出した。
「なんて、嘘です」
『えっ、嘘なの!』
「全然怒っていません」
『本当に? もしかして冗談なの?』
「はい。さっきのお返しです」
 今度は私が笑う番だったが、ミハルさんは笑ってくれなかった。
『もう一度聞くけど、本当に怒ってない?』
「怒ってないって言ってるじゃないですか」
『良かった………』
 ミハルさんが心底安心したというような息を漏したのがわかった。先に騙されたのは私のほうだったのだが、お返しをしたことが悪く思えてしまう。
『ゴメンね』
「もういいですよ」
 このままではいつまでも謝られてしまいそうな気がしたので、話を続けることにした。
「今度はミハルさんの好きな男性のタイプを教えてください」
『あっ、そうね……優しくて、思いやりがあって、私を信頼してくれて、必要としてくれる人』
「見た目は?」
『こだわらない』
「理想でいいんですけど」
『キレイ事じゃなく、本当にそうなのよ。今挙げた内面的な条件を満たしている人なら、顔が悪くても、デブでも、チビでも構わないと思ってる』
「ミハルさんの御主人は?」
『見た目はとてもいいわ。でもそれだけ。それ以上はない』
 突き放すような言い方だった。
「もしかして御主人とうまく行っていないんですか?」
『うまく行っていたら、こんな時間に見知らぬ若い男の子と電話なんてしてないわよ』
 私は彼女の言葉に、疑うことなく頷けてしまった。
 なんと答えるべきだろう。
『あっ、ゴメン。今のも冗談。主人とはうまく行ってるわ。直人君って真面目だから何でも真剣に考えてくれるから、こういう冗談はやめたほうがいいわね』
「そうしてくれると助かります」
『今日は何だか余計なことばかり話した気がする。そろそろ切るね』
「はい。それじゃ、また来週」
 最後に「おやすみなさい」と言って、その日の電話は終わった。
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~ Comment ~

自分に重ねて 

年下の男性と話していると、なんだか頼られているような気持ちになって、どんな悩みでも解決してあげられるように思いました。
母性本能なのかなぁ。
でも、年上の男性との会話ではそうはならなくて。
甘えたい、頼りたい・・・そんな気持ちになりました。

大昔の話ですけどねぇ。。

作品を読むたびに、いつも自分の思い出と重ねてしまいたくなるんです。

kotanさんへ 

 恐らくこれが逆の立場、女性の方が年下で男性のほうが年上だったら、きっと男は純粋に相談じゃなくて、違う方向へ行ってしまう気がします。
 根本的に男と女の考え方の違いでしょうかね。

 不思議な生き物です。人間ていうのは。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

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