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公衆電話の向こう側

『公衆電話の向こう側』 -2-

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『そっか。でもそんな相手の気持ちも考えられないような子なら、フラれても良かったじゃない』
「フラれていいことなんてないですよ。やっぱりショックはショックです。相手がどうであれ、自分が受け入れなかったことに変わりはないですからね」
『そうよね。良かったなんて言ってゴメン』
 ミハルさんの口調がしんみりとしたものに変わる。
「いや、気にしないでください。ミハルさんの意見もごもっともですし……でもね、恥ずかしい話ですけど、僕は今まで女性と付き合ったことがないんです」
 中学から高校、大学に至るまで、所謂共学に入った私には、決して女性と接する機会がなかったとは言えなかった。
 ただ、女性と話すのがとても苦手だった。相手を異性として意識し過ぎてしまい、「いい格好をしよう」や「失敗したくない」といったことばかり考えるのだ。それが緊張に繋がり、うまく話せなくなる。
『けど、今は普通に話せているじゃない』
「最近ですよ。まともに話ができるようになったのは」
『だったらいいじゃない。これからが始まりなんだし。それに直人君の歳で女性と付き合ったことがなくても、何も恥ずかしいことなんてないわよ。今はまだそういう人と出会っていないだけ』
「これから出会えたらいいんですけど」
『もちろん、出会えるわよ。でも一つだけ直人君にはお願いがあるの』
「お願い?」
『そう。さっき、「僕は見た目もよくないし」って言っていたけど、見た目以上に大切なことがあるから、それを見失わないで欲しいなってこと』
「要は中身ですよね?」
『若い頃は皆、見た目から入ってしまいがちだからね。歳を重ねたり、結婚したりすると、見た目がそれほど重要じゃないってわかるようになるわ。いつか出会えるその人のために、自分磨きをしっかりして欲しいな』
 優しい慰めの言葉に、本当に感謝したくなる。
「そうですよね。ありがとうございます」
 私は受話器の向こうにいる、見えない相手に頭を下げた。
「ゴメンなさい。そろそろ帰らないと。親に何も言わずに出てきたもんだから」
『そうなんだ』
「はい。まだ脛をかじっている立場ですから、あまり勝手はできないです。それに心配しているといけないので」
『直人君のご両親ならきっと素敵な人なんでしょうね』
「仲はいいみたいです」
『何よりじゃない』
「そうですよね……それじゃ、そろそろ……」
 私が話を切り上げようとすると、ミハルさんが「ちょっと待って」と、それを遮った。
『良かったらさ。また話さない?』
 意外な申し出だった。
『毎週水曜日の夜八時半頃に、この電話に掛けるから。どうかしら?』
 私としては、別に悪い話だとは思わなかった。彼女と話していると退屈ではなかったし、そんな秘密のような付き合いに、どこか胸が弾んだ。
「いいですよ。でも、もし誰かが使っていたら?」
『そのときは中止。翌週に持ち越しね』
「どちらかに用事があるときは? 僕からは連絡できないんですけど」
『私は大抵暇だから問題ないわ。電話を鳴らして直人君が出ないときは諦めるようにする』
 そう言われると、むしろ「なんとか来なければ」という気持ちになる。
「通話時間も決めておきませんか? 他に使いたい人がいるかもしれないし」
『直人君って本当によく気が利く子なのね』
 ストレートに誉められてしまい、照れ臭くて耳が熱くなる。
『じゃあ、十五分から二十分でどう? 九時前には終わるから、ご両親にもあまり心配を掛けずに済むでしょ?』
「それはいいですけど、番号は覚えているんですか? 適当に押したって言っていましたけど」
『大丈夫。適当っていっても、好きな数字を選んだから』
「それじゃまた、来週の水曜日に」と言って、私たちは電話を終えた。

 小

 翌週の水曜日。
 午後八時十五分頃に私はあの電話ボックスに向かった。せっかく掛けてくれたのに、取れなかったでは申し訳ないので、早目に家を出たのだ。
 実際に電話が鳴るまではそわそわして落ち着かなかった。
 腕時計が午後八時半を過ぎると、待っていたかのように電話が鳴り出した。
 私はすぐに受話器を上げた。
『直人君?』
 その声を聞いてとても安心した。
「そうです」
『こんばんは。ミハルです。良かった。ちゃんと来てくれたんだ』
「実は僕も本当に電話が掛かってくるのか、少し不安でした」
『じゃあ、お互い同じことを心配していたわけね』
 ミハルさんはとても楽しそうに笑った。
『今日バイトは?』
「休みです。スーパーのバイトだからシフト制なんです」
『何売り場?』
「肉です。畜産コーナー」
『へえ、さばいたりするの?』
「まさか。品出しとか商品をラップでくるんだりとか、値引きシールを貼ったりとかです」
『そっか。ねえ、バイトと学校、どっちが楽しい?』
「バイト。勉強はハッキリ言って退屈だし、大学は男子に比べて女子の割合がたった一割なんです。だからお近づきになるのも簡単じゃありません」
『競争率高いんだ』
「そう。僕みたいな地味で、不細工な奴は特にね」
『またそうやって自分を卑下するんだから……ダメよ』
「ゴメンなさい」
 なぜか素直に謝れてしまう。
『バイト先には女の子が多いの?』
「そうですね。歳の近い、レジ打ちの子が結構います。それに小さな店なんで接する機会も多いです。だからと言って、付き合うところまでいけるわけじゃないですけどね。あっ、またネガティブなこと言っちゃったかな?」
『そうそう。ダメって言ったばかりでしょ』
 もちろん、ミハルさんは本気で怒っているわけではない。
「ミハルさんは何かお仕事されているんですか?」
『いいえ。専業主婦。結婚したばかりの頃は、要領悪くて何するのも時間掛かっちゃったけど、今はもう慣れて退屈なのよ。主人の帰りも遅いし』
「パートにでも行ったらどうですか?」
『それができないのよ』
「どうして?」
『主人と約束してるから』
「約束って?」
 いったい何の約束なんだろうと、私は首を傾げた。
『働きには出ないって約束』
 子供ながらに妙な話のような気がした。
「働きに行け」と言う旦那は多いだろうが、その反対がいるとは思わなかった。
『主人の見栄よ。私が働いていると、自分の稼ぎが少ないと思われるから……だって』
 私は吹き出しそうになった。
「だったら世の中の大半の男は稼ぎが少ないですよね」  
「そうでしょ?」と、ミハルさんも一緒に笑う。
『まあ、理由はそれだけじゃないけどね』
「えっ?」
『ううん。何でもない』
 彼女の言う「他の理由」がとても気になったが、あまり深く追及するのもまずい気がしたので、それ以上は尋ねなかった。
「じゃあ、趣味はないんですか?」
『読書とテレビドラマ。後はウィンドウショッピング』
「読書って何を読むんですか?」
『小説。ジャンルは色々だけど、家族愛とか、心温まるようなのが好きかな』
「へえ、そうなんですか。じゃあ、ドラマもそっち系ですか?」
『そうね』
「女性ってやっぱりそういうのが好きなんですか?」
『それは人によるわね。私がそうっていうだけ。アクションが好きな子もあるし、コメディが好きな子もいる。だからデートで映画に誘うときは気を付けてね』
「いくら僕でもそのときは好みを確認しますよ」
『そうよね。それは失礼しました』
「ウィンドウショッピングって、要するに見るだけで終わりでしょ?」
『そう言われると、愛想がないわね。見るだけでも得るものがたくさんあるのよ』
「例えば?」
『商品知識が増えること。どんなものが今流行っているのかとか、この商品は何でできているのか、とかね。後、一般的な価格もわかるかな』
「他に得るものは?」
「忍耐力」
『どういうことですか?』
「買いたい衝動を抑える力が身に付いて、買わなくても満足できるようになる」
 ミハルさんの言葉で今度は僕が笑った。
 本当に面白い人だ。
「ミハルさんみたいな人が増えると、日本経済が活性化しなくて困りますね」
『少しは経済学部らしいこと言うじゃない?』
「真面目に勉強してますから」
『さっき勉強は退屈だって言ってたくせに』
「あっ、覚えてました?」
 彼女との会話はとても楽しかった。同年代の女の子と話すのとは違い、余計な気を使う必要がなかったからかもしれない。
「ミハルさんって面白いですよね」
『それって褒められているのかしら。女性としては微妙な言葉なんだけど』
「もちろんですよ。言い換えるなら、親しみ易いかな」
『それならいいか』
「男性からもモテるんじゃないですか?」
「そりゃ、もうモテモテよ」なんて冗談で返してくれるものだと思っていたが、彼女は少しも笑わなかった。
『実はね、私も直人君と同じで、なかなか男性とお付き合いできなくて悩んでいたほうなの』
「そうだったんですか」
『うん。直人君には見た目より中身が大事なんて言ったけど、誰よりも見た目を気にしているのは、私かな』
 ミハルさんの口調はどこか寂しげだった。ひょっとすると、私以上に見た目で嫌な思いをしてきたのかもしれない。
「でも良かったじゃないですか。ちゃんと結婚できたんだし」
 私にとっては慰めのつもりだった。
『良かったか……どうなんだろうね』
 彼女が時折口にする、含みのある言葉がとても気になった。
「そうでもないんですか?」
『さあ、私にもわからない』
 思い切って尋ねてみたが、はぐらかされてしまった。
『今日はこのくらいにしておこうか?』
 ミハルさんに言われて腕時計を確認すると、午後八時四十二分だった。
 私はもう少し話していたい気分だったが、私よりも彼女のほうが、事情が複雑だろうと思ったので、これで終わりにすることを了承した。
「それじゃ、また来週の水曜日に」
 そう言って受話器を下ろした。
 ほんの十分少々だか、とても充実したひとときだった。
 たった今、電話を終えたばかりだというのに、私はもう次の水曜日が待ち遠しくなっていた。
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~ Comment ~

微妙な関係 

直人君にとっては助言をくれる年上の女性・・・
ではミハルさんは彼をどのように思っているんだろう。
ただの話し相手?時間つぶし?淋しいから?

年上の女性って、話しやすいのかな。。
私も以前の職場では年下の男性によく話しかけられていました。
異性を感じない、気軽な相手だなぁと思うのかしら??

顔が見えない相手との会話って、意外と本当の事を話せますよね。
少し前に流行ったBBSみたい。

この先の二人の関係が気になりますねぇ、やっぱり♪

kotanさんへ 

年上の女性って話しやすいと思います。
ましてやこれだけ年が離れているとそうですね。
変に気取らなくてもいいと言うか。kotanさんの仰る通りだと思います。

ミハルさんからすると、ただの話し相手って感じかな。

一応、後三回を予定しております。
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