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公衆電話の向こう側

『公衆電話の向こう側』 -1-

 ←『未来を変えろ』 →『公衆電話の向こう側』 -2-
公電

 大学生の頃、バイト先の大人しそうな女の子をデートに誘った。
 私はどちらかと言えば控え目な性格だったため、そんな彼女となら性格的に合いそうな気がしたからだ。
 と言っても、まだ好きという感情を抱くまでには至っておらず、「見た目が気に入ったから」という段階だった。
ある程度打ち解けたであろう頃を見計らってから、デートの約束をすることにした。
「今度の日曜日にさ、どこか行かない? もちろん、予定が空いていればだけどさ」
 その子は少しの間考えるような表情をしたものの、結果的には「別にいいですよ」と答えてくれた。嬉しさで胸が踊ったが、あくまでその場は平静を装った。
「行き先とか時間とか、詳しいことを決めるのに電話したいから、番号を教えてくれる?」
 彼女はそれを拒まなかった。
 電話番号は、尋ねるのも教えるのもなかなか勇気がいる。
「社交辞令では終わらない」と、今以上の関係を望んでいることを相手に示すようなものだからだ。
 つまり彼女もそうなんだと、私は浮かれていた。
 
 その日の午後八時過ぎ。
 私は自宅の近くにある電話ボックスに向かった。当時はまだ携帯電話などなく、電話と言えば、自宅の電話か公衆電話だった。
  わざわざ外へ出ることを選んだのは、彼女との会話を両親や姉に聞かれたくなかったからだ。特に男のように勝ち気な性格である姉に限っては、うまくいかなかった場合にお説教されることさえ予想された。
 携帯と違って本人に直接繋がるわけではないため、掛ける時間帯にも気を使う。
七時だと夕食中の可能性があるし、九時だと寝ていないにしても遅いイメージがある。その間の八時がちょうどいい時刻だったというわけだ。
 子猫の写真がプリントされたテレホンカードを入れて、番号を押す。電話ボックスのところどころにある隙間から、時折冷たい冬の風が入り込んできて、体がぶるっと震える。
 コール音を耳にしながら、胸が高鳴るのを感じていた。
 親父が出て「ウチの娘とどういう関係なのかね?」と凄まれたらどうしよう。 気の小さい私は、そんなふうにビビっていたのだ。
 しばらくして『もしもし?』と女性の声で応答があった。
 とりあえず親父ではなかったことに安心する。声色から察するに、彼女本人でもなさそうだ。
 母親、もしくはお姉さんか。彼女に姉妹がいるかどうかはまだ知らないことだった。
「夜遅くすみません」と一言言ってから自分の名前を告げ、彼女を呼んでもらいたい旨を伝えた。
『ゴメンなさい。あの子、今お風呂に入っているの』
ホンの一瞬だが、彼女がシャワーを浴びている姿を想像した。
 良からぬことをしてしまったと思い直し、すぐに頭を横に振る。
「そうですか。それではまた改めさせていただきます」
そう言って受話器を戻したものの、もう一度掛け直すのは気が引けた。
仕方なしにその日は諦めて帰ることにした。

 直接話をするほうが早いかと思ったのだが、翌日は彼女のバイトが休みだった。
 家に帰り、昨日とほぼ同じ時間に電話をしてみたが、やはり入浴中だった。
 思わずあのアニメのヒロインが頭に浮かんだが、時間的に風呂に入っていてもおかしくはなかった。
 電話口の女性に「掛け直させましょうか」と聞かれたが、家に掛けられるのは避けたかったので、そこは遠慮した。
 運悪く、その次の日も彼女はバイトが休みだった。
それならばと、少しだけ時間を遅くして電話を掛けてみた。
 確か、八時十分か十五分。その程度だった。
いつもの女性が電話に出て、『お待ちください』と答えた。
保留音のメロディにどこか安堵する。
『もしもし?』
 彼女だ。ようやく声が聞けた。
「ゴメンね。夜遅く」
『はい』
「今度の日曜の件だけど」
『はい』
 何だか反応が悪い。気のせいだろうか。
「どこか行ってみたい所とかある?」
『ゴメンなさい。その日は急に用事ができて無理になりました』
 コツンと拳で頭を軽く殴られたような感じだった。それほど痛くはない。
「そうなんだ。じゃあ、別の日にする? いつなら空いてる?」
『休みの日はしばらく予定が詰まってるんです』
 ゴツン!  さっきより衝撃は強い。分厚い事典で殴られたような感覚。少しずつ不味い展開になりつつあるかも……いや、気のせいだ。
「じゃ、じゃあさ……バイトが終わってから晩飯だけでもどう? もちろん、俺の奢りで」
 しばしの沈黙。
電話が切れてしまったのかと、テレホンカードの残り度数を確認する。「20」という赤いデジタル数字が見えた。
 残りは充分。つまり切れたわけじゃない。
「もしもし? 聞こえてる?」
『……なんです』
 彼女の声が小さ過ぎてよく聞きとれなかった。
「えっ、何?」
「だ! か! ら! 迷惑なんです!」
 ドカーン!頭の上で爆発が起きた。
「め、迷惑って……」
「私、彼氏いるんです。それにもしそうじゃなくても、ハッキリ言って徳永さんみたいな人タイプじゃないんです。何だか地味だし、見た目もイマイチだし。本当鈍いですよね?全部言わなくてもわかれよって感じ?」
 今まで彼女に抱いていた「控えめ」というイメージが瞬間的に崩壊した。
 私に照準を合わせて発射されたマシンガンの弾は全て命中し、もはや死んだも同然だった。
「ちょっと待ってくれよ。それならどうしてあの時……」
「すみません。よく聞き取れないんで、もう切っていいですか?」
 彼女は私の答えを聞かぬ間に、ガチャンと受話器を置いた。
 私も静かに受話器を戻した。本当なら受話器を叩きつけたいような気分だが、もはやそんな元気さえなかった。
「ピピー、ピピー」という電子音と共に、テレホンカードが戻ってきた。
 私は力なくその場に座り込んだ。 本当に死んでしまいたい気分だった。
 嫌なら嫌と、始めから断ってくれれればいいじゃないか。
 それとも彼女の本心を見抜けなかった俺が悪いのか。そんなに断りにくい空気を出していたのか。あるいは俺みたいな醜男は人を 好きになる権利がないと気付けっていうのか。
 悔しくて、情けなくて、涙が出そうになった。
 冷たいコンクリートの上で項垂れていると、突然電話が鳴った。
 反射的に顔が上がる。
 自分の耳を疑いたくなったが、確かに目の前にある緑色の電話が鳴っている。
 公衆電話が鳴ることなんてあるのか。
 放っておけばいいと思う一方で、相手がどんな人なのかも気になった。
 もし間違っているのなら、教えてやるべきだと考えて、私は受話器を上げた。
「もしもし?」
『あっ、私。ミハルよ』
 若い女性の声だ。
「あの、掛け間違いですよ。公衆電話に掛かっています」
『嘘? 本当に?』
「はい。本当です」
『へえ、公衆電話に掛かったりするんだ』
 女性の声は驚いているというより、どこか楽しそうに聞こえた。
「みたいです」
『まあ、電話であることに変わりないもんね』
「そう言われれば、そうですね」
『ところで、あなたは?』
「僕は……色々あってここにいたら、突然電話が鳴り始めたんです」
『そうなんだ。驚いたでしょ?』
 随分親しげに話す人だと思ったが、悪い気はしなかった。彼女のほうが直感的に年上だとわかったことと、口調が穏やかだったからだろう。
「はい。まさか鳴ると思ってなかったので」
『どうして出ようと思ったの?』
「間違っているなら教えてあげようかなって」
『ふーん。優しいんだ』
「そうですか?」
 女性にそんなふうに言われると照れ臭くなる。
『ねえ、良かったらさ、このまま少しだけ話し相手になってくれない?』
「掛け直さなくていいんですか?」
『いいのよ。お芝居だから』
「お芝居?」
『そう。誰か知らない人と話がしたくて、適当に番号を押して掛けてみただけ』
「友達と話すんじゃダメなんですか?」
『私を知らない人がいいの』
 何か嫌なことでもあったんだろうか。
 そんなふうに思った。
「僕なんかで良ければ話し相手になりますよ」
『本当に? ありがとう』
 私自身もフラれてしまったことでショックを受けていたため、気を紛らわすのにはちょうど良かった。
『あなた、名前は?』
「直人」
『直人君か。歳はいくつ? 学生さんかな?』
「もうすぐ二十一です。大学に通ってます」
『そっか。若いし、頭もいいんだね』
「頭がいいかどうかは微妙かな。そんなに有名な大学じゃないし」
『でも裏口入学ってわけじゃないんでしょ?』
「もちろん、そんなことはありません」
『だったらもっと自信持たないとね』
 自信…… その時の私が最も失っていたものかも知れない。
「あの……ミハルさんはおいくつ……あっ、ゴメンなさい。今の質問キャンセルで」
 私の言葉でミハルさんはクスクスと笑った。
「女性に歳を聞くのは気が引ける?」
「はい。聞いてから『しまった』と思いました」
『結構真面目なタイプなのね』
「そうですか?」
「気にしなくていいよ。私は三十二。ゴメンね。ガッカリさせちゃって』
「別にガッカリなんてしませんよ」
『どうせなら若い子のほうがいいでしょ?』
「そんなことはないです」
『そう、それなら良かった』
 もちろん、嘘だ。 フラれたばかりの私にとっては 、できるだけ自分の年齢に近いほうが良かった。
 どんな形でもいいから新しい出会いを望んでいたことは確かだ。
「何か聞いて欲しいこととかあるんですか?」
『聞いて欲しいことっていうか、単純に寂しいから話がしたいってほうかな』
「独身ですか?」
『いいえ。一応結婚はしている。けど、主人は毎晩帰りが遅いの。特に毎週水曜日は帰ってくるのは明け方なのよ』
「お忙しい方なんですね」
『忙しいか……そうなのかな』
 どこか含みのある言い方が気になった。
『直人君には恋人いるの?』
 その時の私にとってはタブーと言える質問だったが、誰かに話を聞いて欲しい気持ちはあった。
 私のことを知らない誰かに。
「実はさっきフラれたばっかりなんです」
 自分でもトーンが低かったと思う。
『そうなんだ。悪いこと聞いちゃったかな?』
「いいえ。もし良かったら、僕の話も聞いてもらえませんか?」
 ミハルさんが「いいよ」と言ってくれたので、私は「バイト先のあの子」との出会いからフラれるまでを話した。
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~ Comment ~

懐かしい。。 

公衆電話、テレホンカード、夜の電話ボックス。
懐かしい時代。
ポケベルのちょっと前で、若い日の思い出がたくさんあります。

ふられ方が半端ないけれど、この先の展開が楽しみ♪
現実的に進むのか、それとも別の世界へと進んでくのか。

また遊びに来ます!

kotan さんへ 

そうですよね。
ケータイが出てからは公衆電話ってすっかり鳴りを潜めていますもんね。
わざわざ夜遅くに出かけた日が懐かしいです。

全五回ですので、そこそこのボリュームですが、よろしくお願いします。
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