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 ←『こっちを向いてよ』 →『公衆電話の向こう側』 -1-
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「忙しい人たちへ(掌編集)」
忙しい人たちへ②

『未来を変えろ』

 ←『こっちを向いてよ』 →『公衆電話の向こう側』 -1-
 友達daimaさんの作品『ポストマンの歌が聞こえる』のスピンオフ作品です。
 http://novelist.jp/82983.html
  
 以下、原案あらすじより 
 どうしようもない後悔を抱えた人の元にだけ、ある日届く不思議なレターセット。
 想いを届けたい人の顔が浮かんだなら、名前を宛名に書いてください。
 一風変わったポストマンが受け取りに参ります。
 上手すぎる鼻歌を、歌いながら……。
 
 ポストマンのモデルは平井堅さんだそうです。



 随分前から、午前十一時を過ぎると、自然に目が覚めるようになった。かつてはアラームに頼らなければ、起きることができなかったはずなのに。
 明け方に寝て、昼前に起きる。
 例え間違った生活リズムでも、毎日続けていくうちに、体は勝手にそれを正しいと認識するようになる。
 のそのそとベッドから出た僕は、パジャマから着替えることもせず、一階のリビングヘ向かった。
 そこには誰の姿もない。 
 テーブルの上にはラップに包まれた白ご飯とハムエッグ、そしてサラダ。
 母が僕のために用意してくれた、朝食兼昼食だ。
 父は八時過ぎには会社に向かうし、母も十時にはパートのために家を出る。そして午後三時まで帰って来ない。
 僕に外出の予定はない。それは今日に限らず、明日も明後日も、来週も再来週も同じ。来年だって同じかもしれない。
 それで何か不自由を感じているかと言えば、そうでもない。食事はこうして母が作ってくれるし、欲しいものはネットで注文すればいい。話し相手が欲しいなら、オンラインゲームの世界で探せばいい。
 つまり家から出る必要など全くないのだ。
 僕が世間で言うところの引きこもり、あるいはニートになったのは、一年前。
 大学卒業後に入った食品メーカーを、八ヶ月ほどで辞めてからだ。
 働く気がないわけではない。
 ただ、僕が望んでいるような仕事がなかなか見つかないだけだ。むやみに探したところで、自分に合わなければ意味がない。前の会社を辞めたのもそれが原因だ。同じ失敗をしないためにも、今度は慎重に探すつもりでいる。
 朝食を食べ終わると、自分の部屋に戻って、オンラインゲームを始めた。
 今ハマっているのは、MMORPGというものだ。自分のキャラクターを操作して、作られた世界を徘徊していると、知った顔が勝手に寄ってきて、会話が始まる。お互い顔は見えないし、何でも言いたいことが言える。
 途中で嫌になれば、付き合いを辞めればいいし、放っておいてもまたすぐに新しい友達ができる。現実世界の煩わしい人付き合いより、遥かに気が楽だ。
 街の中を歩いていると、友達のユウぴょんが寄ってきた。
『乙』
「乙」とは「お疲れさま」の略語だ。
『これからサダちんたとマミたんと『屍の塔』に攻め込もうと思ってるんだが、一緒に来る?』
 屍の塔か……レベル的にちょっとキツいが……。
『サポ(-ト)頼むかも』と、前以て念押しすると、「おけ(OK)」と返ってきた。
 サダちんたちと合流するために、ユウぴょんの後に続く。

 そこで、現実世界のドアホンが鳴った。
 当然、居留守を使う。
 大切な用ならまた出直してくるだろう。
 二度目のピンポン。
 大抵はこれで諦める……はずだった。
 しかし再びピンポン。

 ピンポン! ピンポン! ピンポン! ピンポン! ピンポン! ピンポン!

 くそっ、しつこい奴だな。
 仕方なしに、ユウぴょんに「ちょい落ち」と伝えて、一度パソコンから離れた。
 未だピンポンは鳴りやまない。
 ベランダ側の窓のカーテンを少しだけ開いて、外の様子を伺ってみた。タイル張りの門柱の前に、郵便局員らしき者が立っていて、ドアホンをひたすら連打している。
 何なんだ。アイツは……。
 とにかく放っておこう。まさか出るまで待っているということはないだろう。
 カーテンを元に戻して窓から離れると、途端にピンポンも鳴りやんだ。
 どうやら諦めたらしい。
 もう帰ったはずだが、念のため、確認しておくか。
 そう思って再びカーテンを開いた瞬間、僕は叫び声を上げた。
「ぎょええええええ!」
 窓の向こう側に先程の郵便局員と思われる男が立っていたのだ。彫りが深く、シュッと通った鼻筋、モミアゲと繋がった顎髭……この顔の濃さは外人で間違いないだろう。
 そして微かに鼻歌が聞こえてくる。
 怪しい……明らかに怪しい。
 そんな僕の心情を余所に、男は窓ガラスをノックしてくる。
 鼻歌はまだやまない。
「あなた、いったい……」
 そこまで言って、相手が外人であることを思い出す。
「キャン・ユー・スピーク・ジャパニーズ?」
「イエス、ペラペラ」
 ガラスの向こうのため、少し声が籠っている。
 それにしてもペラペラって……。
「大丈夫。こう見えてもれっきとした日本人です」
 確かにペラペラだ。
「というよりあなた、いったい何者ですか? どうやってここまで登って来たんですか?警察呼びますよ」
「質問には順番に答えさせてください。まず一つ目の答え。私は郵便局員、ケン・ポストマンです。ビジネスネームですけど……二つ目の答え。樋を伝ってよじ登ってきました。三つ目の答え。やめて」
「三つ目は質問じゃないです」
「スミマセン。ワタシ、マダニホンゴヨクワカッテナクテ」
「都合の悪い時だけ外人にならないでください」
 いかん、こんな漫才みたいなやり取りをしている場合じゃない。
「冗談抜きで何なんですか?」
「あなた宛に手紙なんですよ。杉下幸助さん」
「手紙ならポストに入れればいいでしょ?」
「いえいえ、これは必ずご本人に直接お渡ししないといけないものなんです」
 そう言って男は窓ガラスに手紙を押し付けてくる。切手も消印もない、エアメールふうの青い封筒。
 宛名には『二十年前の杉下幸助様』と書いてある。
「何の悪ふざけですか? もしこれがちゃんとした手紙だと言うなら、差出人は誰ですか?」
「二十年後のあなたです」
「そんな馬鹿な……」
「あなたが信じる信じないは別として、私も仕事ですからね。説明だけでも聞いてもらえません?」
 何だかややこしそうな話ので、彼の声をちゃんと聞き取るために、窓を一センチほどだけ開けることにした。
「え~、この手紙はですね……」
 先程よりいくらか声は鮮明に聞き取れるようになった。
 男の話によると、何でも「深い後悔を抱えた人」の元に届くレターセットがあり、胸の内に秘めたる後悔を手紙に綴って彼に託せば、世界各国だけでなく、過去でも、未来でも、夢の中でも、宛名の人の元へと届けてくれるらしい。
「その深い後悔を抱えた人っていうのが、二十年後の僕ですか?」
「はい。さっきも言いましたけど、信じる信じないはあなたの自由です。私の仕事は手紙をお渡しするところまでですから、受け取ってさえくれれば、後は読まずに捨ててもらっても構いません」
 そこまで言われれば受け取らないわけにはいかない。
「わかりました」
 男が窓の隙間から差し込んできた手紙を僕は受け取った。
「マイドオオキニ」
 やっぱりこの人、外人じゃないのか。
 男はまた機嫌良さげに鼻歌を歌い始めた。
「その歌、何なんですか?」
「私のイメージソングです。歌詞もあるんですよ。
『I wanna be a ポス(ト)マン 君をもっと夢中にさせてあげるからね♪
キラキラのポス(ト)マン 羽根を広げ 魔法をかけてあげよう~ 君だけに~♪」
「あれ? どこかで聞いたことあるような……」
「気のせいでしょ」
「そうかな? まあ、いいか」
「それじゃあ、サヨナラ。ありがとうございました!」
 男はベランダの腰壁を乗り越えて樋に飛び移り、シュルシュルと滑り降りていった。しばらくしてドスンという派手な音が聞こえたため、僕は慌ててベランダへ飛び出した。腰壁から身を乗り出して下を覗いてみたが、男の姿はどこにも見当たらなかった。
「おーい、ケンさん。大丈夫?」
 返事はなかった。
 首を傾げながら部屋の中に戻った僕は、手にした封筒をまじまじと眺めた。
 二十年後の自分からの手紙……本当だろうか。
 確かに名前の部分は僕の筆跡とよく似ている。
 例え嘘だとしても、やはり中身が気になる。
 とにかく読んでみるか。
 僕はハサミでゆっくりと封筒を切って、中から三つ折りにされた青い便箋を取り出した。
 微かに胸が高鳴っていた。

 小


『二十年前の杉下幸助様へ

 突然こんな手紙が届いて、とても驚いていることと思う。
 信じられるかと言われれば、信じられないだろう。
 これを書いている俺自身も全く信じられていない。
 でももし本当に二十年前の俺に手紙を届けてもらえるのなら、どうしても伝えておきたいことがある。
 今のお前は働きもせずに、毎日明け方 までひたすらオンラインゲームに浸って、昼過ぎに起きるという人として決して誉められたものではない生活を送っているだろう。
 家に金を入れることもしないくせに、電気は使うし、漫画は買うし、飯は食うし、親の脛をかじりたい放題。
 そのくせプライドだけは高くて、近所の目を気にして外出することを頑なに拒んでいる。
 毎日をその狭い部屋の中で完結しようと必死になって、散髪にも行けず、ネットで「セルフカット」の仕方を調べる始末だ。
 例えうまくいかなくても「人に見られるわけじゃないし」と、無理矢理自分を納得させている。
 だったら切るなよ。
 そこまでして今の生活を捨てたくないのか。
 それはそうだよな。働かなくても飯は食えるし、風呂も入れる。好きなことだけやっているだけでいいんだからな。
 このままでずっといられる。
 そう思っているんだろ。

「そんなことはない。自分のやりたい仕事が見つかったらちゃんと働くつもりだ」
 それがお前の言い分だよな。
 嘘つけ。
 就職情報サイトを最後に見たのは随分前のことだな。
 新しい履歴書はもうないけど、いつまでたっても買いにいく気配がないよな。
 すぐ面接に行けるようにとポールハンガーに掛けてあったスーツも、もうクローゼットに仕舞ったよな。
 これが前向きに仕事を探そうとしている奴の姿か。

 そうだよな。わかってる。
 あの時のプレゼンの失敗が未だに忘れられないんだろ。だから動き出せずにいるんだよな。
 けどな、今動かなければ、お前は一生そのままなんだぞ。
 二十年後のお前、つまり四十四歳になった俺が、今どうしているかわかるか。
 トラウマとぬるま湯に浸かり過ぎたせいで、就職はおろかバイトにさえ行けていない。
 怖いんだ。また失敗するのも、人と接するのも、家の外に広がっているのが、ただ恐ろしい世界のようにしか見えなくなったんだ。
 当然、金はなくて、父さんが一生懸命働いて手にした退職金と、父さんと母さんの年金を食い潰している状況だ。
 もっと早い段階で「さっさと働きに行け」と怒鳴られ、殴られでもすれば良かったんだが、優しい二人は決してそんなことはしなかった。
「そのうち、幸助に合う仕事が見つかるから」と口癖のように言って、一切俺を責めようとはしなかった。
 俺はその優しさに甘えきっていたんだ。
 二人とももう七十を過ぎている。きっと俺のことが心残りで、死んでも死にきれないかもしれない。
 とんでもない親不孝者だよ、俺は。
 今更後悔しても、俺にはどうすることもできない。
 でもお前ならまだ間に合う。
 今まで好き勝手やっておきながらこんなことを言えた身分じゃないのはわかっている。
 それでも敢えてお前にお願いする。
 父さんと母さんのために、そして何より自分のために、未来を変えてくれ。
 今の生活を続けていけば、お前はあらゆる可能性を放棄することになるんだ。就職はもちろん、結婚や子育て、車もマイホームも、趣味や友達さえ失う。
 本当に怖いのは失敗することじゃなくて、「このままでいい」と前に進むのをやめることなんだ。
 もう一度頼む。
 どうか未来を変えてくれ。

 二十年後の杉下幸助より』

 小


 手紙を読み終えると、体が震えていた。
 緊張からか、あるいは恐れからか。
 これが二十年後の自分から送られてきたものであることは疑う余地がない。
 手紙を封筒に戻そうとして、中にもう一枚紙が入っていることに気が付いた。
 履歴書だった。何も記入されていないが、写真だけが貼ってある。
 今の僕の写真だ。
 履歴書と手紙を机の上に置くと、クローゼットの扉を開いた。
 備え付けのパイプハンガーの左端に、薄いグレーのスーツが掛かってある。
「埃を被るといけないから」
 そんなふうに自分に言い訳をして、ここへ仕舞ったのが、随分昔のことのように思える。
 本当に僕にやれるんだろうか。
 正直、自信はない。
 あの時のことを思い出すと、今でも怖くて仕方がない。情けなくて、泣きたい気持ちになる。
 でもやるしかない。父さんと母さん、そして何より自分のために
 クローゼットからスーツを引っ張り出して、ベッドの横にあるポールハンガーに移すと、先程の手紙を封筒に戻して、上着の内ポケットにねじ込んだ。

 たった今、僕の未来は変わった。

<了>
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~ Comment ~

おもしろくて、深い 

どちらの作品も読みました♪
ポストマンのイメージはバッチリ♪♪
楽しくて、でもタイムリーな背景があって考えさせられます。
でもどちらの作品の主人公も家族思いで良かった・・・
優しさに甘えるときだってあるし、それは悪いことではありません。
どちらの主人公も心の奥に今の自分の生き方に疑問を持っていたからこそ、ポストマンに出逢えたのかも知れませんね。

ところで現実のケンさんも、見るたびに異邦人化してますよね~♪

kotanさんへ 

原案も読んでいただいてありがとうございます。きっと本人も喜ぶと思います。

ポストマンのイメージ、面白いですよね。笑。

シリアスとコメディの融合した作品って、個人的に、読むのも書くのも好きです。
次回作もまた読みに来てくださいね。
よろしくお願いします。
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