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「忙しい人たちへ(掌編集)」
忙しい人たちへ②

『こっちを向いてよ』

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 五月三日。
 ゴールデンウィーク真っ只中。
 天気は快晴。
 ついこの間まで「朝晩はまだ冷えるよな」と溢していたのに、今となっては長袖なんて着ていると、汗が滲むほどだ。
 しかし暑いのは気候のせいばかりじゃない。
 今日は、大学のテニスサークルの催しとして、近所の公園でバーベキューをしている。新入生の歓迎が目的だ。
 総勢十八名という大所帯のため、六名ずつ三つのグループに別れることになった。
 幸いなことに同じグループの中に、俺が密かに思いを寄せている土屋めぐがいた。
「はい、どうぞ」
 土屋は額の汗をベージュ色のシャツの袖で拭いながら、トングで掴んだ肉を俺の紙皿へと入れてくれた。
「あっ、ありがとう」
 せっかく土屋が取ってくれた肉だ。冷めないうちにと、俺はすぐにそれを口に運ぶ。とは言っても、さすがに熱くて「はふっ、はふっ」と息を吐いて、口の中で必死に冷やす。
「慌て過ぎ。誰も取らないわよ」と土屋が笑う。
 その笑顔を見て、やっぱり参加して良かったなと思う。
 土屋は他の女子たちと協力しながら、手際よく肉と野菜を皆の皿へと分けていく。
「もうダメ。暑くて仕方ないわ」
 土屋はそう言って、トングをテーブルの上の皿に置き、少し乱暴にシャツのボタンを外し始めた。
「僅かな時間さえこの暑さは我慢できない」
 そんな感じだ。
 露出の高いグリーンのタンクトップ姿に、思わずドキリとする。脱いだシャツをアウトドアチェアに掛けて、土屋は再びトングを握る。
 彼女が動く度にシュシュで一つに束ねた黒髪が揺れる。
 それは見慣れた土屋のヘアスタイル。時折見え隠れするうなじにまた胸が高鳴る。
「彼女をイヤらしい目で見るな」と、自らを心の中で叱る。

 土屋と俺の関係は、恋人でもなく、友達でもない。時折テニスの相手になる程度でしかない、単なるサークル仲間だ。
 知り合って一年という長い時間がありながら、そこまでの仲にしかなれなかったのは、親密になる機会に恵まれなかったのと、俺の根性のなさが理由に他ならない。
 そういう意味では今日のバーベキューは彼女とお近づきになれる絶好のチャンスなのだ。
 先程からほとんど食べていない土屋に思い切って声を掛ける。
「土屋さん、俺が焼くから少し食べなよ」
 トングを受け取るために手を伸ばすと、土屋がクスクスと笑った。
「渡瀬君って料理とか全然しない人でしょ?」
「えっ、あっ、いや……そんなことないよ」
「隠しても無駄よ。さっき野菜を刻んでいるのを見たけど、手慣れているようには見えなかったな」
 図星だ。飯は大抵外食かコンビニ弁当、あるいはカップラーメン。
「焦げないように見ているだけだろ? できるよ」
「まあまあ、無理せずに。ここは我々女性陣に任せて、ゆっくりお肉を召し上がれ」
 俺と話をしている間も、土屋は手際よく、肉や野菜の焼き加減を見ている。
「その代わり後片付けでしっかり活躍してもらうからね」と、彼女は目を細くした。その笑顔を独り占めしたいと、改めて思った。

 その後も土屋と話をするチャンスを伺っていたのだが、明朗快活で、男女問わず誰からも慕われている彼女だ。俺だけにゆっくり話をさせてはくれなかった。
 食べることが一段落すると、皆、椅子に腰を下ろして、酒を飲みながら会話を楽しむほうへと移り始めた。
 椅子取り合戦が激化する前に、俺は土屋の隣の席を抑えた。
 近くにいればいるほど、話し掛けるのに有利なのは当然だったが、土屋は反対側にいる女子の水原とばかり話をして、俺にはずっと背中を向けていた。
 これなら正面に座ったほうがマシだったのかもしれない。
 オマケに水原はよく喋ることで有名で、二人の会話に割って入るのは容易ではなかった。
 せっかくのチャンスが台無し。
 何とかしなければ、また昨日までと変わらず仕舞いだ。例え1センチ、いや1ミリだっていい。少しでも彼女に近付きたかった。
 何かないかと辺りに視線を巡らせていると、一つに束ねた土屋の長い黒髪が目に止まった。
 そして俺の頭の中に、彼女の注意を引くための一つの案が浮かんだ。
 いや、それはさすがにマズイだろう。
 嫌われても文句は言えない。最悪の場合、平手打ちもあり得る。
 待て待て。要は力加減だ。ちょっとくらいなら大丈夫。
 もし怒られたら、正直に言えばいい。
「君とどうしても話がしたくて」と。
 よし。

 クイッ。

 俺の取った作戦に土屋が気が付いた様子はなく、変わらず水原との会話を続けている。
 少し弱すぎたか……それなら今度は少し強めに。

 グイッ。

 土屋は水原と話すのをやめて、俺のほうに視線を向ける。
 目と目が合う。そして少しだけ微笑みをくれた。
「あの……」
 俺が話し出そうとすると、土屋は再び水原のほうへ向き直った。
 気のせいだと思われたのかもしれない。
 これ以上キツくするのはよくないだろう。同じ強さで二回にしてみるか。
 そう思って、三度「あれ」に手を伸ばした瞬間、水原が「あっ!」と大声を上げた。
「めぐ、後ろ! 渡瀬が髪を引っ張ろうとしてる!」
 体がビクッと反り返って、慌てて手を引っ込める。
 土屋はさっと椅子から立ち上がって、後ろに下がる。
「渡瀬君……本当なの?」
「えっ、あっ、あの……なんて言うか……」
 正直に自分の気持ちを言えばいいなんて思っていたが、水原に見破られてしまったことで相当に動揺してしまい、予定通りの反応ができなかった。
「小学生並の悪戯じゃない! めぐ、怒っていいよ」
 土屋より水原のほうが怒っていた。全くその通りだ。好きな子の気を引くために髪の毛を引っ張ろうとするなんて、完全にガキの発想だ。
 いい歳して、アホか、俺は……。
 いやいや、そんなことより何か良い言い訳はないものか……。
「その……俺……酔ってんのかな? 土屋さんの髪の毛見てたら引っ張ってみたくなっちゃって……」
 なんだ、その苦し紛れの言い訳は。
「きっ、綺麗だなって……一つにまとまっていて、引っ張り易そうだったし」
 全くフォローになっていない。
「そういうことか」と、土屋は頷く。その表情はあまり怒っているようには見えなかった。
「それじゃ、こうすればいいか」
 呟くようにそう言った土屋は、右手でシュシュを外して、軽く頭を振った。一つにまとまっていた髪が解ける。まるで映画のワンシーンのように、スローモーションで美しい黒髪がゆっくりと、俺の視界全体に広がる。シャンプー甘いの香りが漂い、思わずうっとりしてしまう。
 初めて見る。髪を下ろした土屋の姿……。
 いつもの見慣れたヘアスタイルと比べて新鮮というか……衝撃というか……新しい彼女を発見したような感覚……そう、とにかく……かわいい!
「どう? これなら引っ張れないでしょ?」
 前に垂れた髪を耳に掛けながら、土屋が優しく微笑む。
 何の言葉も出てこなかった。
 ただ、体中が火照って、異常に熱い。
「渡瀬君、顔赤過ぎだよ。やっぱり相当酔ってるんじゃない?」
「あっ、うん……そうみたい……ちょっと……頭、冷やしてくる。ゴメンな。変なことしようとして」
 動揺を覚られぬように必死に努めて、俺は早足でとその場を離れた。なんなら走り去って、 二度と戻りたくないくらいだった。
 しばらく行ったところで、木陰から土屋の様子を窺ってみた。
 後ろ髪は先程と同じで、下ろしたまま。
 そして俺の体の火照りもそのまま……いや、最高潮に達していた。ドクン、ドクンと激しく 運動を繰り返す心臓。
 実は俺が飲んでいたビールは、ノンアルコール。
 この燃えるような体の熱さと、胸の高鳴りは酒のせいなんかじゃない。
 何もかも……。

<了>
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~ Comment ~

青春~♪ 

いいなぁ、若いって。
初夏の爽やかな暑さと、バーベキューの煙、そして熱い想い。
もしかしたら、彼女も渡瀬くんを悪くないって思ってるかも。
二人の初々しさが伝わってきます。
でも、彼女の方がちょっと恋に慣れているのかもしれませんね。

こちらは雪がちらついています。
昨日、タイヤ交換をしました。
寒いですね。。

kotanさんへ 

そうですね~。いいですね~。

渡瀬君、脈ありですかね。
彼女にリードされっぱなしになりそうかな。

ここ最近でぐっと冷え込みましたね。

季節外れのネタですみません! 笑。

NoTitle 

え~さすがに駄目ですよ。
女性の髪を黙って引っ張ったりしたら~。
それも2回も。ほんと小学生じゃないんだから。
でもこの反応は・・・脈有りなんじゃないですか。
少なくとも興味は持っていそう・・・
普通怒りますよ。こんな反応あり得ないもの。
しかもじゃぁって、髪を下ろすなんて。
焼き肉の匂いでとても香るとは思えませんが、これはたぶん幻香。
しかもノンアルコールで真っ赤だなんで。
彼、完全にやられちゃってますね。
ちょっとドキドキしながら読ませていただきました。
でも続きが読みたいです。
上手くいってると思うんですけれど、めぐ!なんて呼んでたりして。

山西サキさんへ 

コメントありがとうございます。
そうですね、案外うまくいっているかもしれませんね。
初々しくて、筆者ながら羨ましいです。
その願望を反映した作品かも。
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