スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←『再会箱 caseⅣ』 第一回  →『再会箱 caseⅣ』 最終回
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png 作品紹介
もくじ  3kaku_s_L.png 上手な別れ方
もくじ  3kaku_s_L.png 空と海
もくじ  3kaku_s_L.png 地球の軌跡
もくじ  3kaku_s_L.png 夏に恋して
もくじ  3kaku_s_L.png お礼参り
もくじ  3kaku_s_L.png 遠くの隣人
もくじ  3kaku_s_L.png 道連れ
もくじ  3kaku_s_L.png 美しき幕引き
もくじ  3kaku_s_L.png 別れたら
もくじ  3kaku_s_L.png 願い集うとき
もくじ  3kaku_s_L.png 相方よ
総もくじ  3kaku_s_L.png 忙しい人たちへ(掌編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png 重要な選択
総もくじ  3kaku_s_L.png 未来(あした)が見たら
総もくじ  3kaku_s_L.png 親愛なるあなたへ
総もくじ  3kaku_s_L.png 赤い糸をたどって
総もくじ  3kaku_s_L.png 独り言(雑記)
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【『再会箱 caseⅣ』 第一回 】へ
  • 【『再会箱 caseⅣ』 最終回】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

再会箱(シリーズ)

『再会箱 caseⅣ』 第二回 

 ←『再会箱 caseⅣ』 第一回  →『再会箱 caseⅣ』 最終回
 母は玄関ドアにチェーンを繋ぎ、ゆっくりと慎重に開いた。僅かにできた隙間から、ポーチ灯に照らされた男の顔が見えた。夜であるにも関わらず、薄いグレーのサングラスを掛けている。男は乱暴にドアに手を掛けると、チェーンが目一杯張るところまで開いた。「ここまでか」と独り言のように呟いて、舌打ちをする。
「ホンマに旦那は留守なんやろうな?」
「本当です。それに主人が借金をしていたことも知りません」
 借金……。
 思わず血の気が引いた。
「まあ、厳密に言えば、あんたの旦那は連帯保証人や」
「連帯保証人?」
「そう。債務者は兄の花岡和文。返済が滞ったまま行方がわからなくなったんで、あんたの旦那のところに返してもらいにきたってわけや」
 僕は耳を疑った。あの伯父がそんな無責任なことをするとは思えなかった。
「とにかく主人はまだ帰っていません。出直してください」
 思ってもみない母の強気な姿勢に、僕は少し驚いた。しかしよく見ると、体が微かに震えていた。
「そうはいかんのや!」
 男が玄関ドアをドンと力強く叩いた。
 母の体がビクッとなる。それは僕も同じだった。
「旦那が帰ってくるまで待たせてもらうで。開けてもらえんか?」
 男はチェーンで繋がったドアを乱暴に何度も引っ張った。
「母さん、絶対に開けちゃダメだ」
 僕の言葉に、母は「わかっている」と静かに頷いた。
「おい。クソガキ。あんまり舐めた口利いとたら、タダじゃ済まんへんぞ。コラッ」
 先程の大声を上げるのとは違う脅しか方。低く唸るような声に息を飲む。ビビッていることを悟られては負けだと、男から決して視線を逸らさぬようにした。
「ウチに何か御用ですか?」
 にらみ合いを続ける私たちの間に割って入ったのは、他でもない父だった。僕と母は安堵の息を漏らした。
「お兄さんに貸した金、返してもらいに来たんやけどね」
「どういうことですか?」
「行方がわからんのや」
 男の言葉に父はしばらく黙っていた。ドアの向こう側にいるため、その表情はわからない。
「場所を変えてお話しましょう」
「おう。ええやろ」
 男がドアから離れると、代わりに父が隙間から顔を見せた。
「あなた……」
「ちょっと行ってくる。遅くなるかもしれないから先に寝てくれ」
「大丈夫?」
 母が不安げにか細い声を出しても、父は少しも笑わず、ゆっくりとドアを閉めた。
「和おじさんがいなくなったって本当かな?」
「わからないわ」
「借金っていくらくらいなんだろう……」
「卓也」
「何?」
「あなたは何も心配しなくていいの。部屋に戻りなさい」
 母の口調がハッキリとした強いものだったため、僕はそれ以上何も尋ねることができなかった。
 母に言われて自分の部屋に戻ったが、やはり大人しく引き下がれず、二十分ほどすると、再びリビングへと降りた。

 母は神妙な顔付きで、背中も預けずにソファに座っていた。
「父さん……まだだよな?」
「卓也……先に寝ているように言われたでしょ?」
「まだ八時半だ。眠たくない。それにあんな話を聞いてすんなり眠れるはずがないよ」
「そうだけど……」
「この家のことなら、俺にも聞く権利はあるはずだよ。もう子供じゃないんだし、何か力になれることがあるかもしれないだろ?」
 母はしばらく黙った後、「わかったわ」と頷いた。

 それからすぐに父が帰って来た。
 僕も母も自然と立ち上がっていた。
「父さん……大丈夫?怪我はない?」
「怪我をする理由なんてないじゃないか」と父は笑ったが、その笑顔はどこかぎこちなかった。
「でもアイツは……」
「心配するな。紳士的な話し合いをしてきたよ」
「伯父さんが行方不明って本当?」
「卓也」
 父を質問攻めにする僕を、母が止めた。
「お父さんは帰ったばかりなのよ。夕食もまだなんだし、話はそれから」
「いや、食べる前に話そう。そわそわして落ち着かないだろ?」
「でも……」
「一番落ち着かないのは俺なんだ。さあ、二人とも座ってくれ」
 父の話によると、伯父が一千万円の借金をしたのは一年前。経営する会社の資金繰りが苦しくなり始めたのが理由だ。
「あくまで書類上のことで、絶対に迷惑は掛けないから」という伯父の言葉を信じて、父は連帯保証人になった。
 そして現在に至る。
「あなたの気持ちはわかるけど……どうして私に相談してくれなかったの? 一言言うべきじゃないの?」
 母の口調は明らかに責めるようなものだった。
「あの兄さんに限って黙っていなくなるなんてあり得ないと思っていたんだ」
 僕にはどちらの気持ちも理解できた。
「私だってそう思うわよ。それでも……」
 このままでは二人の会話は平行線を辿るような気がしたので、僕が割って入った。
「母さん。今はそれよりこれからどうするかが先でしょ?」
 母は僕の言ったことが正しいと思ったのか、そのまま口を噤んだ。
「今後のことだが……」と、父はどこか遠慮がちに話し始めた。
「俺が返済をしながら兄さんを探す形になる。いくら兄弟でも勝手に会社のものや私物を処分する権利はないらしい。差し押さえをするにも、一度俺が返済を終える必要がある」
「その前にさっきの連中が伯父さんの財産を差し押さえたりはしないの?」
「手続きが結構面倒で、そんなことをするくらいなら俺に取り立てするほうが楽らしい」
「そういうことか。でも探し出すって言っても、当てはあるの?」
「いや、あの男の話では従業員も誰一人心当たりがないらしい。借金をしていたことは知らないし、姿を見ないことに関しては、出張に行くと言っていたいたらしい。
 経営者と言っても、従業員が数名の小さな町工場で、経理に関しても伯父自身がやっていたため、経営不振について知るのは本人だけだったに違いない。
「それじゃ、簡単には見つからないってことだよね」
 僕の言葉に、父は神妙な顔付きで頷いた。
「多少の費用は掛かるが、その道の専門家を雇うしかないな」
「探偵?」
「そうだな。それで見つかり次第、すぐに自己破産の手続きをさせる。それまでの間はこちらで返済を続けていくしかないだろうな」

「探偵に頼めばすぐに見つかる」
 父も母も、そして僕もそう思っていた。
 しかし伯父探しは手掛かりが少なく、思った以上に難航した。
 会社の規模からすると、経営者同士や取引先との付き合いもそれほど多かったわけじゃなく、それに加えて伯父は他所で自分のことをあまり話さなかったようだ。
「どうして何も話してくれなかったんだろうな」と、皆、一様に首を傾げた。
 父の勤める会社もまたそれほど大きなところではなく、当然収入も多くはなかった。
 かつてのような暴力的な取り立てはなかったものの、少なからず家計や精神を圧迫したのは確かだ。
 少しでも足しになればと、僕もバイト代をいくらか家に入れたが、やはり大した額にはならなかった。
 父も母も、目に見えて疲れているのがわかった。
 苦肉の策として母が考えたのが、両親や親戚に少しずつ金を借りて、現在の借金を一度返済してしまうというものだった。
 しかし父はすぐには首を縦には振らなかった。実の両親はともかく、母の両親や日頃付き合いのない親戚に金を借りるのはやはり気が引けたようだった。

「考えさせてくれ」と言ったきり、しばらく結論を出さなかった。
 考えたからといって、返済の義務がなくなるわけではなかった。相変わらず伯父の行方もわからぬままだった。
 やがて母のほうが痺れを切らし、自分の両親に事情を話して金を借りる手筈を整えた。「少しくらいなら」と、老後の生活を考えて蓄えていた金を切り崩して、いくらかを用立ててくれた。実際にどの程度だったのかを僕は知らないが、父が泣きながら頭を下げていたことだけはよく覚えている。
 その後、父の両親からは借りるというより、もらうという形で金を受け取った。
 問題は親戚関係で、貸してくれたのはごく近しい人たちだけで、大半は「ウチにはそんな余裕はない」と断られた。
 当然、借金を全額返済というわけにはいかなかった。
 家の中に笑顔や明るさというものがなくなり始めていた。
 三人とも言葉が少なくなり、どこか沈みがちになった。特に父はもの思いに耽るように、ぼんやりしている時間が増えた。
「大丈夫?」と尋ねても、「心配するな、大丈夫だ」としか答えなかった。

 父のその言葉が嘘だったということは、最悪の形で証明された。
 父が車で事故を起こし、亡くなったのだ。カーブを曲がり切れずにコンクリートの壁に激突した。頭を強く打ったことによるショック死だった。
 ブレーキを踏んだ跡が見当たらないことから自殺も疑われたが、父が母や僕に黙ってそんなことをするはずがないと思っていた。
 アイツらが事故に見せ掛けて……なんてことも考えたが、警察の捜査の結果、その可能性はないとのことだった。
 父が事故を起こした原因は心の病によるものに違いない。
 事故による死亡者や怪我人はなく、塀の修理代は自動車保険、借金は父の生命保険で支払われた。
 親戚への返済は残ったが、同情からか皆、「余裕ができてからでいいよ」と言ってくれた。

 母と僕が稼いだ金で返済を続けて十年。ようやく完済の目処がついた。利子を請求してくるような者はいなかっただけでも随分恵まれていたと思う。
 直接的ではないにせよ、父が亡くなる要因を作った伯父を僕は憎んでいた。父だけではない。僕も母も苦しんだ。あの男のせいで、家族全員の人生が狂ってしまったのは確かだ。
スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png 作品紹介
もくじ  3kaku_s_L.png 上手な別れ方
もくじ  3kaku_s_L.png 空と海
もくじ  3kaku_s_L.png 地球の軌跡
もくじ  3kaku_s_L.png 夏に恋して
もくじ  3kaku_s_L.png お礼参り
もくじ  3kaku_s_L.png 遠くの隣人
もくじ  3kaku_s_L.png 道連れ
もくじ  3kaku_s_L.png 美しき幕引き
もくじ  3kaku_s_L.png 別れたら
もくじ  3kaku_s_L.png 願い集うとき
もくじ  3kaku_s_L.png 相方よ
総もくじ  3kaku_s_L.png 忙しい人たちへ(掌編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png 重要な選択
総もくじ  3kaku_s_L.png 未来(あした)が見たら
総もくじ  3kaku_s_L.png 親愛なるあなたへ
総もくじ  3kaku_s_L.png 赤い糸をたどって
総もくじ  3kaku_s_L.png 独り言(雑記)
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【『再会箱 caseⅣ』 第一回 】へ
  • 【『再会箱 caseⅣ』 最終回】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【『再会箱 caseⅣ』 第一回 】へ
  • 【『再会箱 caseⅣ』 最終回】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。