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『赤い糸をたどって』 第二十七回

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 岬シーパークを出て、若槻を彼女の住むマンションの近くまで送り届けたのは、午後五時過ぎだった。
 若槻は終始笑顔で、心から今日一日を楽しんでくれたように見えた。
「若槻さん、夕食はどうする?」
 すぐに答えはもらえなかった。若槻はしばらく考えるような表情をした後、「ゴメンなさい」と申し訳なさげに口を開いた。
「せっかくなんですけど、ココアの散歩もあるし、洗濯や掃除もやっておきたいので」
「アイロンがけもあるしな」
「確かにね」と、若槻はクスッと笑った。
 実を言うと、俺自身も今の時点で充分満足していた。
「わかった。今日はありがとう」
「私のほうこそありがとうございました」
「じゃあ、また明日、会社で」
 若槻は助手席から降りようとドアを開けたところで、「あっ、そうそう」と何かを思い出したかのように俺のほうへと向き直った。
「春見さん。見栄を張るのはいいんですけど、嘘はダメですよ」
「嘘?」
 彼女が何を言っているのか、よくわからなかった。
「水族館、この前行ったばかりだったんでしょ?」
「えっ……」
 なぜわかったのだろう。
「自分で言っていましたよ。この前、別の女性会員さんと来たときは『海の人気者ショー』が見れなかったって」
 どうやら自分でも無意識のうちにしゃべってしまったらしい。体中が熱くなる。
「優しいんですね。春見さんって」
この前行ったばかりだけど、別に構わないよ。
 そう言うべきだった。
「ゴメン」
「いいんです。でもやっぱり私、嘘は嫌いだから……できればやめて欲しい。それが次も遊びに行く条件かな」
 若槻が優しく微笑む。怒ってはいないようだ。
「わかった。嘘はやめるよ」
「はい。それじゃ、次もよろしくお願いします」
 若槻はそう言って車を降り、「おやすみなさい」と頭を下げて帰っていった。
 あんなふうに胸の内をはっきりと話してくれたのは、脈ありだからと考えていいのだろうか。

 小

 次の日曜日も若槻と出掛ける約束をした。
 もちろん、若槻以外の会員への申し込みもしている。明日も若槻からお断りされないという保証はどこにもないからだ。
 今回、若槻が行きたいと言ったのは、市の運営する緑地公園で、自然の山を切り開いたものだ。入場料は無料で、掛かるのは駐車料金だけ。目を引くアトラクションもないし、土産屋もない。
 本当にそんなところでいいのかと、若槻に尋ねてみると、「それでいいんです。だって春見大地がどういう人なのかを知るのにアトラクションや派手な演出なんて必要ないですからね」
 そんな答えが返ってきた。
 尤もな意見だ。その分、誤魔化しが効かないということになり、俺にはある意味プレッシャーだ。
 目的地である「市立森の木陰公園」に到着したのは、若槻を乗せてから一時間後の午後一時半頃だった。今日は夕食を一緒にとる約束をしていたので、昼食は各自で済ませてきた。
 岬シーパークとは違い、駐車場が空くのを待つ必要もなかった。
「山道だから歩きやすい格好のほうがいいですよ」と、若槻から事前に言われていたので、スニーカーを履いてきた。若槻もジーンズにTシャツというスタイルで、背中には小さなリュックがちょこんとぶら下がっている。
 梅雨入りが近いということもあってか、どこか蒸し暑く、体を動かすのなら、水分補給が必要になりそうだ。タオルとペットボトルのお茶をボディーバッグに入れて、いざハイキングへと出発した。
『ようこそ! 森の木陰公園へ』と彫られた木製アーチを潜ると、早速、傾斜のきつい山道が始まる。
「春見さんは日頃は運動とかしているんですか?」
「いや、ほとんど……というか、全然かな」
「じゃあ、明日は筋肉痛ですね。多分」
「そんなにキツイのかな? ここ」
「運動不足の人にはそうかもしれませんね。私も来るのは初めてなんですけど、インターネットで見る限りはそんな感じでしたよ」
 話をしながら前に進んでいる間も、若槻の視線は樹木や足元に生える草花に向けられている。
「そう言う若槻さんは何か運動しているの?」
「いいえ、特には」
「なんだ、そりゃ」
「でも極力楽をしないように心掛けています。通勤電車では席に座らないとか、隣の駅にあるスーパーに歩いていくとか……まあ、スーパーの件は時折ですけど」
「それじゃ、俺よりは少しマシって程度じゃないの?」
「そんなことはないでしょ。春見さんは営業に出るとほとんど車だし」
「その代わり、ブロックとかレンガとかを運んだりもしているよ」
「それだって時折じゃないですか」
 図星だ。そんなことをするのは、商品をサンプルとして取引先に届けるとき、あるいは配送の段取りが上手くいかないときに現場へ届けるときくらい。それも営業車のライトバンに乗る程度の量なので、いくら多くても知れている。
「まあ、明日が見物だよな。二人揃って悲鳴を上げているかもしれない」
「言えてますね」
 若槻がとても楽しげに笑う。
「若槻さんって、こういうの好きなの?」
「自然が好きです。山とか川とか、そこに生えている木や花が好きです。でも今日みたいにハイキングに来ることはほとんどないです。友達も筋肉痛になるからって、なかなかつき合ってくれませんし……」
「みんな一緒だよな」
 思わずぷっと吹き出してしまった。

 十五分ほど登ったところで、「アジサイ園」に到着した。立て看板によると、三十種類以上のアジサイが植えられているらしいが、残念ながら花を咲かせているものはごく僅かだ。
「まだ早過ぎたんですかね」
 若槻は足元にあるアジサイの葉の一つに触れて、寂しげな表情を見せる。
「蕾のついているものは結構あるんだけどな」
「仕方がないですよね」
「また今度見に来るか」
「そうですね」
 さりげなく誘ったつもりだったが、拒否はされなかった。ただし、若槻のほうもさりげなく答えただけかもしれないが……。
 アジサイ園を抜けて再び山道を登る。
「春見さんは将来家を買うならマンションですか? それとも一戸建て?」
「一応、一戸建てを考えているけど……どうして?」
「私は断然一戸建てなんです」
「庭が欲しいから?」
「そうです。私、子供の頃からずっとマンション暮らしだから、庭付き一戸建てに憧れているんですよ」
 若槻とは反対に、「ずっとマンション暮らしだったので、やはりマンションがいい」という者もいる。ちなみに俺は、小学校二年生までは団地住まいで、その後、現在の実家である一戸建ての家に移り、大学を卒業するまでをそこで過ごした。
「木とか花を育てようと思っているの?」
「はい。プランターでも育てられなくはないですけど、やっぱり限界がありますから」
「大きさがってこと? それとも量?」
「種類ですね。どうせならいろんな種類のものを育てたほうが楽しいじゃないですか」
 若槻の興奮が手に取るように伝わってくる。
「それから小さな池を作って、メダカなんかも飼ってみたいです。
「メダカか」
「あっ、これは私のためだけじゃないですよ。子供たちと一緒にそういうのをやりたいんです。だから砂場とかブランコがあってもいいかもしれませんね」
 こりゃ、それなりに大きな敷地が必要だな。

 そこからまた十五分ほど登ったところで、ログハウス風の休憩所があった。ようやく一息つけると思ったが、「まだ休憩は早いですよね」という若槻の独断で、そのまま歩き続けることとなった。
 木製の歩道橋を渡って、展望デッキに辿り着いたのは、登り始めてから一時間が過ぎた頃だ。
 見渡す限り緑一色とはいかないが、そこにはやはり日頃見ることのできない美しい景色が広がっていた。
「いい眺めですね。春見さん、私たちの住んでいるところってどっちですか?」
 ぐるりと三百六十度を見回して、目印となる物を探す。
「あそこにこの前行った岬シーパークがあるだろ? そこから考えるに、あっちだな」
 俺の指差す方向へと、若槻が視線を向ける。
「あっ、なるほど。でも岬シーパークがあの大きさだったら、遥か遠くですよね」
「そうだな」
「それじゃ、あそこに見える丸いものは何かわかりますか?」
「えっと、あれは……」
 そんなふうにして、若槻と俺は、しばらく山の頂から見える街の景色を楽しんだ。
 まるで子供のように、「あれは何?」と尋ねてくる若槻を見ていると、自然と笑みが零れる。出不精で、休日を掃除や洗濯で終えていた彼女にとっては、いろんなものが新鮮なんだろう。
 ひょっとすると、男性との交際経験がないのかもしれない。
 もしそうだとしても、何ら不思議はないし、俺だって偉そうなことが言えるほど、女性とはつき合っていない。だからこそブーケトスの会員なんだと思う。
 特別ルックスがいいわけでもないし、ぱっと人を惹きつける何かがあるわけじゃない。
 俺も同じだ。
 ただ……彼女なら、きっと記念や思い出なんかも大切にしてくれそうな気がする。
「あっ、雨だ」
 そばにいる、見知らぬ人が突然声を上げた。先程までの晴天が嘘のように、空が少しずつ灰色に染まり始めていた。
「まずいな。傘、持ってくれば良かった。すぐにやめばいいけど……」
 小雨のうちに山を降りられるだろうか。
「山の天気は変わりやすいって言いますからね」
 若槻の口調は冷静だ。
 周りの者たちは、「そんなこと知っていました」と言わんばかりで、瞬く間に山頂に傘の花が咲いた。
「急いで降りるしかないか」
「大丈夫ですよ。春見さん」と、若槻はリュックの中を探り始めた。 
 もしかして……。
「じゃーん。折り畳み!」
「おおっ! 気が利くね」
 若槻が手早く傘を開く。
「アジサイの色です」
 若槻は楽しげに笑って、薄紫色の傘の下に俺を入れてくれた。ほんの少し、体が触れ合う。彼女とこんなふうに密着するのは初めてのことだったため、妙に照れ臭かった。若槻の顔をちらりと覗き見ると、頬が赤かった。
 彼女がただの同僚以上の存在になりつつあるのを、俺は確かに感じていた。
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~ Comment ~

こんばんは! 

わぁ~、ほんと!いい感じの二人です。
このままどうぞゴールへ、と願うばかりですが・・・
どうでしょう?どうなるんでしょう?

小説では爽やかな初夏を感じさせますが、私の住むところは寒いですよ。。
今日は一日雨で、家の中はヒーターが必要でした。

kotanさんへ 

すみません。お答えできません。笑。
そうですね。いい感じですよね。
筆者たる私でさえ羨ましいです、この二人。

私の住むところはもう暑くなりつつあって、昼間は扇風機が欲しいかなって感じる時もあります。
寒いのは苦手ですけど、暑いのも嫌ですね。
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