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赤い糸をたどって

『赤い糸をたどって』 第十一回

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 そこで冬月が店員呼び出しボタンを押してくれた。
 意外と気が利く奴だ。
「結婚願望のない女なんて今はいっぱいいるよ」
 冬月が決め台詞のようにそう言って、四杯目のビールを飲み干すと、ちょうどいいタイミングで店員がやってきた。冬月は「生」と自分のお替りだけ注文して、「最近は……」と話を続けた。
 別に俺に気を利かせてくれたわけではなかったようだ。立ち去ろうとする店員の背中に、俺も慌てて追加のビールを注文した。
「女の社会的地位は上がっていて、下手すりゃ男より稼いでいるんだからさ、男に頼る必要なんてないんだよ。お前が言うように歳をとってから寂しいのなら、将来は老人ホームにでも入るよ。そうすりゃ友達もできるし、一人寂しく死んでいくこともない」
「女は面倒」というのは冬月の口癖だ。彼が自分で老人ホームの入所届に記入をしている姿は容易に想像できる。
「例えば、俺みたいに結婚はしないけど、ずっと同棲って方法もある」
 そう口を挟んできたのは、中途ハンパ独身貴族の夏木だ。今の恋人と二年近く一つ屋根の下に暮らしながら、結婚はしないことで双方同意しているらしい。
「共同出資で何かを買う場合は割り勘で、それ以外に関しては基本的に財布は別。時間の使い方だって夫婦ほどシビアじゃない。法的な義務は発生しないし、別れるときに面倒な手続きもいらない」
 得意げに語る夏木に、俺は少々苛立ってきた。
「まるで別れることが前提みたいじゃないか。なあ、秋山?」
「……まあな」
 秋山はメニューと睨めっこしたままだ。俺の形勢が不利なまま試合は続く。
「例えばの話だよ。そのまま一生を共にしたっていいんだからさ」
「子供はどうする? そっちも作らないこと前提か?」
「別にどちらかの戸籍に入っていれば法的に問題ない。金のことは認知って形にすればいい」
「それって子供がかわいそうじゃないか? そんな事情を理解できるって一体何歳なんだよ」
「ムキになるなよ、春見。これも例えばの話なんだよ。俺が言いたいのは必要以上に結婚って制度に拘らなくたっていいんじゃないかってことだな」
「別にムキになってない」
「まあ、飲めよ」と冬月がニヤつきながらジョッキを差し出してきたが、俺はそれには応えなかった。
 あっ、やっぱりムキになってるかな。俺。
 ひとまず大きく深呼吸をする。
「まあ、冬月みたいに完全な独身貴族は置いといて……結婚は男女の関係における一つの区切り、もしくはけじめみたいなもんじゃないかな。苗字も同じになって、これから家族としてやっていくんで、世間の皆様よろしくっていう決意表明だよ。そうなると、しっかりしなきゃって気持ちになるだろ。そうだよな、秋山?」
「……まあな」
「お前、さっきから『まあな』しか言ってないじゃないか。唯一の既婚者として何か言ってやってくれよ」
 秋山がようやくメニューから目を離し、顔をゆっくりと上げた。微笑み一つない真面目腐った表情で、俺たち独身三人組の顔を順に見ていった。最後に目の合った冬月が「どうした?」と遠慮がちに尋ねた。秋山は再び視線をメニューに落した。
「俺……離婚するんだ」
 秋山の突然の告白に残り三人全員が「えっ?」という言葉を口にした。その後、しばらく沈黙があり、最初に口を開いたのは秋山自身だった。
「結婚してアイツと一緒に暮らすうちにさ、違うなって思うようになっていったんだよ」
 俺の体が自然と前に出ていた。
「違うって、何が違うんだよ」
「一言で言えば、嫁に失望した」
 秋山の答えに、冬月が鼻を鳴らした。
「失望って……お前、嫁さんに何を期待していたんだよ」
「別に大したことじゃない。結婚前と同じように二人で仲良く暮らすことと、いつまでも綺麗で女らしくいて欲しかっただけだ」
「何、女みたいなこと言っているんだよ」
 冬月が再び鼻を鳴らすと、秋山は「お前は何もわかっていないよな」と、冬月を憐れむように言うと、目を閉じて首を横に振った。
「いいか、女はな、俺たちが思っている以上に現実的で冷めているものなんだよ」
 そう言えば、沢口も同じことを言っていた。
「誕生日に何かしても喜んでくれないし、どこかへ行こうって誘っても金がないって言われる。映画はレンタルだし、セックスは排卵日だけだ。基本はすっぴんで、化粧は冠婚葬祭のときだけ。体重は上昇カーブで、俺の前で屁だって平気でこく」
 オブラートに包まれることなく出てくる秋山のカミングアウトに俺たち三人は呆然としていた。
「ドラマや映画みたいにロマンチックなものなんかじゃないんだよ。だから春見、結婚には必要以上に期待するな。なっ!」
 秋山の両手が俺の肩にずしりと重くのしかかってきた。体がソファの中へと沈められてしまいそうだった。
「はい。程々にしておきます」
 そう答えるしかなかった。

 小

 新しい年を迎えた。元旦は実家に帰って、両親が百貨店で購入したお節料理を一緒に突いた。実家は俺の住むマンションから車で一時間程度のところだが、帰るのは数ヶ月に一回がいいところだ。
 両親が俺の結婚に関してどう思っているのかというと、今はそれほど口やかましくはない。ただ、時折母の口からは「誰かいい人はいないのか?」という言葉が出たりするし、知り合いにも「いい人がいたら紹介して」と声を掛けたりはしているようで、俺の結婚を望んでいることに間違いはない。父は何も言わないが、恐らく母と気持ちは同じはずだ。
 俺がブーケトスに入会したのは、そんな両親を安心させたいからという理由がないわけではない。
 しかし一番の理由は他にある。冬月の問いかけにもあったが、「結婚に何を求めているのか」と言えば、「在り来たりな幸せ」だと思う。
 結婚して妻と一緒に子供を育て、ちっぽけなことに一喜一憂しながら毎日を過ごし、いずれは死ぬ。
 大抵の人間はそれを望んでいるのではないだろうか。だからこそ見合いをしたり、高い金を払って結婚情報サービスに入会する者がいるに違いない。
 そして俺もその「大抵の人間」の一人というわけだ。

 小

 新年の挨拶と併せて、沢口を初詣に誘ってみたが、「家族と行くのでゴメンなさい」と断られた。
 元々俺には初詣に行く習慣なんてない。男同士や家族でというのは当然のことながら、恋人と一緒にというのもなかった。
 今年に限っては一人で行ってみることにした。実家の近所に割と大きな神社があって、いろいろと調べた結果、縁結びの祈願もできるとわかったからだ。一人ということに全く抵抗がなかったと言えば嘘になる。ただ、警備員の誘導が必要なほど参拝者が多いところだ。他人のことを気にする者などほとんどいないはずだ。

 予想通り、神社の周辺からごった返していて、敷地の中へ入ることさえ一苦労だった。
 縁結びの神様が祭られた賽銭箱にも例外なく人だかりができていた。しかも他の賽銭箱に比べてサイズが小さいため、列を作る形になっている。一人で来たと思われる女性もいたし、男もいた。恋人あるいは夫婦であろう男女もいる。縁結びと言っても、恋愛や結婚に関する祈願だけではなく、子宝祈願や就職祈願も含まれている。
 五分ほど並んで、ようやく俺の番がやってきた。財布から五百円玉を取り出して、賽銭箱へそっと放り込んだ。硬貨と硬貨のぶつかる音が心地良かった。一万円札を入れたい気持ちはあったが、実際に放り込む勇気はなかった。
 目を閉じ、両手を合わせて心の声で神様に願いを伝えた。
(今年こそは結婚を約束できる女性と出会えますように。容姿に関して贅沢は言いません。人並で結構です。ただ痩せ型より少しくらいぽっちゃりしているほうがカワイくていいかな。性格に関しては優しくて思いやりのある人がいいです。あまり口数が少ないのもツライので、そこそこ話し好きがベストです。それと最低限の一般常識を持っているほうがいいですね。他にはお金の管理をしっかりと……)
 後ろから咳ばらいが聞こえてきた。目を開けて振り返ると、若いカップルが険しい顔で俺を睨んでいた。「すみません」と頭を下げ、慌てて彼らに順番を譲った。
 少し離れたところへ移動して、改めて縁結びの神様に向かって手を合わせた。
(その辺りで一つよろしくお願いします)
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~ Comment ~

いろんなカタチ 

昔と違って今はいろんな結婚生活の形がありますよね。
結婚式を挙げないとか、夫婦別姓とか。
私はそのような形があって良いと思っています。
機関への手続きにメリット・デメリットはありますが。
もちろん、介護や相続の問題となると別ですけど。
お互いがきちんと話し合っていれば良いと思っています。

結婚するといろんな問題が出てきますよね。
何度もぶつかり合って話し合って・・・そうして乗り越えていきますね。
それでダメならまた考えてみる。

私も春見さんが理想の女性に出逢えるようにお祈りしようっと♪

kotanさんへ 

 要するにどんなふうに二人で過ごしていくかですよね。
 やっぱり歳を取って一人きりは寂しい気もしますしね。
 
 kotanさんは割と柔軟ですよね。
 人によっては「結婚して当然だ」っていう考えの方もいますし。
 特に女性のご両親なんかは、結婚を望む気がします。

 ここから後も、春見の婚活を見守ってください。
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