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赤い糸をたどって

『赤い糸をたどって』 第九回

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 十一月も終わりに近づく頃には、高崎を含めた今月の申し込み相手九人全員からのお断りの連絡が届いた。手元にあるのは沢口の紹介状だけで、先月から状況は何も変わっていないことになる。
 沢口には時折メールを送ってみてはいるが、大抵二言、三言でお仕舞いで、彼女のほうから進んでメールを送ってくることはない。やはり彼女には結婚するつもりなんてないのかもしれない。
 沢口のことを非難している場合ではない。このままでは何もないまま会員期間が終わってしまう。今の時点で努力できることをすべきだ。
 手っ取り早いのは有料オプションへの申し込みだ。通常、マイページ上の「会員検索」の対象となるのは、入会三ヶ月までの会員のみだ。つまり俺の情報はいくら検索しても女性の目に触れることはない。
 三万円の有料オプションAに申し込めば、三ヶ月は検索対象に戻ることができる。五万円のオプションBならば、カラーのスナップ写真を一枚掲載することができ、検索対象期間への復帰は五ヶ月間になる。
 容姿にはイマイチ自信のない俺としては、同じお金を出すのならオプションAに二回申し込んで、検索対象期間を六ヶ月にするほうがいい。二回申し込むかどうかは別として、今回はオプションAを選択しよう。
 それに紹介状の写真も変えたほうがいいかもしれない。高崎には写真よりも実物のほうがずっといいと言われた。今、紹介状に使われている写真は、入会時にアドバイザーの梅田にデジカメで撮影してもらったもので、正直いい写真だとは言い難い。
「写真変更は一回目だけ無料だから、いつでも変えてくれていいわよ。とりあえず、今は登録に必要な一枚だけ撮らせてね」
 その「とりあえずの一枚」が現在の紹介状に使用されている。責めるとすれば、梅田のカメラの腕前より、写真変更をせずに放ったらかしにした俺の怠慢だろう。
 自分の手持ちの写真から選んでも構わないが、元々写真嫌いなうえに一人で撮ったものとなると、見つけるのは不可能に近い。友達に撮ってもらうという手もあるが、使用目的が説明できないし、結局は梅田が撮影したものと大して変わらない気がする。
 この際、思い切ってプロに撮ってもらうか。確か入会時に、写真スタジオの割引券が付いたチラシをもらった記憶がある。
 チラシは、ブーケトスに関する資料一式と一緒に仕舞ってあった。A4サイズの黄色い紙に『婚活は写真が命!』と大きな字で書いてある。料金は男性三千円、女性二千五百円。「男性の方に関してはメイクのサービスはございません」と但し書きがついている。
 それにも関わらず、なぜ女性のほうが安いのか。男女平等が叫ばれて随分経つが、未だにこういう差別がまかり通っている。『ブーケトス会員様限定割引券』とたいそうに謳っているくせに、割引額はわずか五百円だ。

 小

 日曜日の午後六時頃、ブーケトスの支社近くにある写真スタジオを目指して、静かに家を出た。服装には散々迷ったが、無難にスーツを選んだ。知り合いと偶然顔を合わせる確率が如何ほどのものかはわからないが、コートのボタンを全部締め、尚且つ数年前に買って一度も使ったことのなかった黒縁の伊達メガネを掛けて行くことにした。カツラも買っておくべきだった。

 店に近づくに連れて恥ずかしさが膨らんでいった。何度か引き返そうかとも考えたが、一時の恥ずかしさでいい結果が出るならと勇気を振り絞った。もちろん、いい結果が出る保証などどこにもないのだが……。
 写真スタジオ「コスモス」は、「足立ビルディング」という五階建ての雑居ビルの二階に店を構えていた。ガラスのショーケースには振り袖姿の女性やタキシードとウェディングドレスの男女、七五三の子供の写真といったサンプルがいくつか並んでいた。正確な写真の良し悪しなどよくわからないが、任せて間違いなさそうな気はした。
「よしっ!」と改めて気合を入れ直して店内に入った。派手なメイクをした若い女性がカウンター越しに俺を出迎え、「いらっしゃいませ~!」と鼻に付く甘えた声を出して、顔全体で笑いかけてきた。
 この人がカメラマンだろうか。
「あの……」
 そこで言葉に詰まった。
 なんと説明すべきだろうか。お見合い写真の撮影とは少し違う気がするし……。
 そうか、割引券を見せればいいんだ。
「これ、お願いします」
 囁くような小さな声になっていた。カウンター脇の長椅子に腰掛けた見知らぬ男女に笑われてしまう気がしたからだ。
 受付の女性は割引券を見ただけで、全てを理解したらしく、「は~い。それでは掛けてお待ち下さいね~」と、俺に椅子を勧めた。「紹介状の写真ですね」と言われなくて助かった。
 こんなところで写真を撮るのは、就職活動をしていた大学四年生の時以来だ。履歴書に貼る写真が「三分間写真」では印象が悪いと、就職センターの部長が言っていた。今の会社に入れたのがあの写真のおかげだったかどうかはわからないが、勝てば官軍。結果が出れば、何とでも言える。今回だってそうありたい。
「春見さん。どおぞ~」
 先程の受付の女性に呼ばれて奥の部屋に入った。狭い空間に長テーブル四つで島を作っており、隅のほうに髪の毛を茶色に染めた二十代前半くらいの男女が四人座っていた。キャアキャアと甲高い声を上げてはしゃぎ回っていたが、俺の姿を見ると急に静かになった。
 客には見えない。外見から察するに、受付の女性の知り合いか何かで、ここはいい溜まり場になっているのだろう。
 俺がブーケトスの会員だということはバレているんだろうな。
「結婚相談所の会員なんだって」
「どうりでモテなさそう」
 そんなふうに笑われている気がして、居たたまれなくなった。
 受付の女性は鏡の前に俺を座らせると、前髪をヘアピンで止め、顔にファンデーションを塗り始めた。
 チラシにはメイクのサービスはないと書いてあったはずだが……。
 予想外の展開に少し慌てたが、口紅やチークとまではいかなかった。髪の毛に櫛が通されて、準備完了となった。
「お待たせしました」と、隣の部屋から白いワイシャツにジーンズといったラフな格好の女性が顔を出した。先程の連中より年齢も上のようで、明らかに落ち着いた感じがする。ショートヘアとナチュラルメイクの組み合わせに爽やかな印象を受けた。
 この人がカメラマンで間違いないだろう。
 照明とレフ板の設置されたステージに上がると、撮影が始まった。
「真っ直ぐに立って下さい。左肩を上げて」
「ちょっとだけ体を斜めに、そうそう。あっ、行き過ぎです。少し戻って」
 カメラマンの女性の細やかな指示に戸惑いながらも、俺は被写体となった。両腕を交差してそれぞれ反対側の肘の下に手を当てるという、普段ならまずしないポーズまでやらされた。
 撮影が終わると、パソコンのモニターで画像を見せてもらい、三十枚撮ったうち五枚を買って帰ることにした。まるで別人とまではいかないが、今まで紹介状に載せてあった写真よりはずっと良かった。 

 小

 十二月に入ると、仕事が急に忙しくなった。「年内完成」、「年内入居」という具合に区切りをつけたがる者が多いため、建築資材がよく売れた。婚活そっちのけで仕事に没頭した。と言いたいところだが、そっちにのけるほど婚活は大変ではなかった。十二月の申し込み分も十日が過ぎる頃には、半分がお断りだった。
 オプションAへの申し込みが有効になるのは来月からのため、今の俺がどうこうできるのは、沢口との関係だけだ。
 休日である土曜日の昼過ぎに、様子見のメールを送ってみた。
『ご無沙汰しています。お元気ですか?』
 返事はすぐに届いた。
『はい。元気です』
『十二月ですし、仕事は忙しいでしょ?』
『そうですね』
 相も変わらずの短文だ。
 断ろうか……いや、まだ結論を出すには早過ぎる。メールに関してはこれが彼女のスタイルなのだ。多分。
『もしお時間が空くようなら、映画でも観に行きませんか?』
 それから一時間以上返事がなかった。
 やはりこういう話は電話ですべきなんだろうか。
 今更、電話を掛けるのも追い立てるようで嫌なので、気長に待つほうを選んだ。
 
 夕食の買い出しに行こうかというところで、ようやく沢口からメールが届いた。
『すみません。今、起きました』
「寝てたんかい!」 
 思わず声に出してツッコんでしまった。しかも映画に関しての返事はない。仕方なしに先程送ったメールをもう一度送った。
『いいですよ。それなら観たいものがあります』
 初めて積極的な言葉を聞いた気がして、どういうわけか少し安心した。
『どんな映画ですか?』
『「それでも私を愛してくれますか」です。恋愛映画ですが、大丈夫ですか?』
 恋愛か……正直、あまり観たいとは思わないが、珍しく沢口が自分から希望を言ってきたのだ。それに応えるくらいの器の大きさは持ち合わせたい。
 予め、上映中の映画館と日程を調べてから沢口に返事を送った。「この日、この映画館で、この時間に」という具合だ。
 沢口からは『それでいいです』と至ってシンプルな答えが返ってきた。万事読み通りに進み、どこか誇らしかった。
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~ Comment ~

ちょっぴり安心。。 

沢口さんが再び出てきてくれて、何だか安心しました。
けれども、まだまだ分かりませんよね。
若槻さんの存在も気になるところですしね。

恋愛映画のタイトルも、気になるところです♪♪

kotanさんへ 

 沢口さんとはまだどちらもお断りしていませんので、仮交際継続中です。
 若槻さんはしばらく登場がないです。
 
『それでも私を愛してくれますか』は私の作品のタイトルです。
 まだ映画化はしてませんが。笑。
 良かったら読んでみてください。でも次回でネタバレしますけどね。結構自身作なので残念ですが。

 ちなみに私の作品には、ところどころで自身の作品が映画化されている場合があります。そして物語の中心的人物だった者がチョイ役で別の作品に出ていたりもします。
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