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「赤い糸をたどって」
赤い糸をたどって(上)

『赤い糸をたどって』 第七回

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 モール内の飲食店街をぐるりとひと回りした後、高崎にどこか希望の店があったかを尋ねてみた。
「私はパスタがいいです。春見さんは?」
「ちょうど良かった。僕もパスタがいいなと思っていたんです」
「じゃあ、決まりですね」
 こんなふうにきっちりと自分の希望を話してくれると、こちらとしてもやり易い。
「引っ張っていって欲しい」と「自分の意見を言わない」はイコールにはならない。「黙って俺に着いて来い」の亭主関白にしても、百パーセント相手の意思を無視する、単なる頑固親父ではないはずだ。
 多分……。
 席に着いて注文を済ませると、高崎が先に話し始めた。
「毎日、お仕事大変そうですね」
「いや、そうでもないですよ」
「いつも『今、帰りの電車です』ってメールしてくださるじゃないですか? 遅くまで頑張っているなって思っていたんです。建築資材の製造や販売をしている会社に勤めていらっしゃるんですよね?」
「はい。仕事は営業で、具体的には自分の担当の代理店や工事店さんに商品の紹介をしたり、そのためにカタログやサンプルを届けたりします。クレームが出たら現場に行ったりもしますし、力仕事をすることもあります。他にはイベントへの参加などです」
「イベントってどんなことをするんですか?」
「毎年、新商品の出る春頃に、うちみたいな製造メーカーが何十社も集まって展示会をやるんです。会社ごとにブースが分かれていて、来場者の人に商品説明をしたり、パンフレットを配ったり、アンケートに答えてもらったり……などですね」
「就職博みたいなイメージですか?」
「そうそう。あんな感じです」
「なるほど、何となく想像できました。春見さんは大学を出られてからずっと今の会社にお勤めなんですか?」
「はい。そうです」
「今のお仕事が好きなんですか?」
「うーん。どうなんでしょうね。好きというか、合っているというか……」
 正直言って、俺にもわからなかった。ここは「好きです」と答えたほうが好印象だったんだろうか。
「でも継続して同じ会社に勤めていられるっていいことですよ」
「そうかな?」
「ええ」
「高崎さんは今の会社でずっと経理事務を?」
「会社は同じですけど、始めは一般事務だったんです。電話の応対、書類の作成、郵送の手配なんかです」
 若槻の仕事と同じだ。
「そのうちに経理のほうもやってみたいと思うようになって、簿記の資格を取りました。それほど大きな会社ではないですけど、今では経理に関しては、ほぼ任せてもらえています」
「経理をやらせて下さいって、自分から申し出たんですか?」
「そうです」
 高崎はあっさりと言って退けるが、大したものだと思う。新しい仕事に挑戦したい気持ちはあっても、実際に未知の領域へと踏み込んでいくことは、考えている以上に勇気のいることだ。彼女はただの美人ではない。男の俺でさえ圧倒されるほどの向上心と行動力を合わせ持った強い女性のようだ。
 注文したパスタがテーブルに並んだ。高崎は両手を合わせて、小さな声で「いただきます」と言った後、フォークで絡め取った麺を口に運び、「美味しい」と満足げに微笑んだ。
「高崎さんが料理が得意なのは知っているんですけど、何かレシピを見て作られるんですか?」
「普段は作り慣れたものや料理教室で習ったものをメインに作りますけど、時間のあるときはレシピを見て新しいものを作ったりします」
「料理教室に通われているんですか? じゃあ、大いに期待しても良さそうですね」
「あっ、ちょっとプレッシャーかけられちゃいましたね」
 さりげない「あなたが気に入っています」というアピールのつもりだったが、それも上品な笑顔でスルリとかわされてしまった。
 退屈や沈黙を感じることはなかった。高崎は話し上手であり、聞き上手でもある。彼女がとても頭のいい人であることが会話を通じて伝わってくる。

 二時間ほど過ごして、その店を出た。
 今までなら一度目の面会は、食事かお茶を飲んでサヨナラというパターンがお決まりだった。今日も例外なくそのつもりでいたが、高崎の口から思わぬ言葉が出た。
「ここの屋上に庭園があることをご存知ですか?」
「はい。知っています。でも行ったことはありません」
「それじゃ、一緒に見に行きませんか?」
 もちろん、断る理由なんてない。高崎も俺を気に入ってくれたんだと考えていいだろう。そうでなければ、次に誘うはずなどない。
 屋上に向かってエレベータが上昇するのに合わせて、俺の気分も高揚していった。
 エレベータを降りると、一面ガラス張りのホールになっており、建物の中からも庭園を見ることができるようになっている。自動ドアを抜けて外へ出ると、急に冷たい風を感じて、思わず体が縮こまった。
 季節はもう冬だ。葉を落し始めている樹木もあるが、大半は常緑樹のようで、青々としている。屋上全体を縁取るように設置された長方形の陶器のプランターに植えられている花は、開花時期が冬のものばかりらしく、寂しさは感じない。レンガ造りの大きな壁泉から零れ落ちる水は冷たげだが、子供達はお構いなしのようで、溜まった水を手で掬って遊んでいる。
 ぐるりと庭園を一回りした後、ツル性植物の絡んだパーゴラベンチに高崎と並んで座った。足元に敷かれているレンガは俺の勤める会社の商品だ。
「高崎さんもここへ来るのは初めてなんですか?」
「いいえ。もう何度目かわからないくらい来ています。季節ごとに咲く花は違いますし、時折、植え替えもされているようなので飽きないんです」
「本当に植物が好きなんですね」
「はい。大好きです」
 会話をしている間も、高崎の視線は当たりの草花や樹木に注がれている。
「自分でも育てているんですか?」
「はい。マンションなので室内で育てるものが多いですけど、お日様の光が必要なものはベランダで育てています。狭い部屋なのにプランターばかりが増えてしまって……」
 高崎は照れ臭そうに、ペロリと舌を出した。少女のようなその仕草に、心臓が大きく一つ膨れた。
「私ね、結婚したら自宅にガーデニングができるスペースが欲しいと思っているんです。それほど大きくなくてもいいから、プランターではなく、直接地面に植えて育てたいんです」
 長い髪を束ねた高崎が土を掘り、優しく草花を植える姿が俺の頭に浮かんだ。額の汗をシャツの袖で拭い、「大地さん、どう?」と満足げに笑っている。
 うん。悪くない。いや、それどころか最高だ。
「春見さん? どうかされましたか?」
「あっ、ゴメンなさい。それじゃあ、家は一戸建てですね」
「そうなりますね」
 住む地域や土地の大きさ、建物の規模にもよるが、最低三千万……いや、三千五百万円くらいの金は必要だな。
「頑張ってみますね」
「えっ?」
「あっ、いいえ、こっちの話です……高崎さんはなぜブーケトスに入会したんですか?」
「それは入会した理由そのものですか? それとも結婚相手を探す理由ですか?」
「後のほうです」
 親に入会させられたのではないことは、答えを聞かずともわかる。
「今の会社に入って独り暮らしを始めて、家族の温かさを改めて知ったんです。在り来たりな言葉ですけど、喜びや悲しみを分かち合うってよく言うじゃないですか? 楽しいことや辛いことがあったときに誰にも伝えられないことは、意外と寂しいものなんだって」
 独り暮らしや独身は、時間的にも経済的にも自由だ。ただ、そういう毎日が長く続くと、高崎のような寂しさを感じるようになる。
「花のつぼみが開いたことも誰かに教えたいし、お料理だって誰かに美味しいって言ってもらえるほうが作り甲斐がありますから」
 高崎は右腕を曲げて力瘤を作り笑ってみせた。
 どこまでも魅力的な女性だ。なぜ彼女のような人に相手が見つからないのだろう。俺の申し込みをオッケーした時点で「理想が高い」という理由は消える。

 駅に戻り、改札を通ったところで、「今日はこの辺で」ということになった。
「高崎さん、どうもありがとうございました」
 俺の会釈に、高崎も「こちらこそ」と頭を下げた。髪が揺れ、シャンプーの甘い香りがほのかに漂ってきた。
「また会ってくれますか?」
 とても簡単な言葉だし、高崎にはさらりと言ってのけたように聞こえたかもしれないが、俺の胸は張り裂けそうなほど高鳴っていた。
「はい。私もお願いしようと思っていたところです」
「本当ですか? 良かった」
 喜びというより、安堵から自然と顔が綻ぶ。「また連絡しますね」と高崎は手を振り、自分が乗車するホームへと歩いていった。彼女の姿が見えなくなったところで、俺は両手をギュッと握り締めた。
(よしっ! 一次選考通過だ)
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~ Comment ~

よい感じ~♪ 

面白くて、もうラストまで読んでしまいたいのですが、まだお話は続くんですね?
今までの女性なのか、新たな女性が登場するのか。
本当に気になります。

高崎さんは男性だけでなく、女性にとっても魅力的で憧れます。
仕事もプライベートも完璧に近くて羨ましい。
こんなにしっかりした女性、私の周りにはいないですよ。
性格も良いですし。

もっとずーっと若い頃に、私も自分磨きをすれば良かったなぁ(笑)。

続きを楽しみにしています!!

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kotanさんへ 

 お話はまだまだ続きます。
 やっぱり一生を共にする人を見つけるわけなので、すぐには終わらないです。筆者が終わらせません。笑。

 異姓だけでなく、同姓からも好かれて、羨ましがられる女性って素敵ですよね。
 今、真剣に婚活やっている女性はいろいろ自分磨きしているみたいですね。
 私がテレビで見たのは、パーティに参加する女性たちの姿だったのですが、合間合間で席を立って化粧を直しに行っていたりしていました。
 結婚ってそんなに憧れるものなのかなあ……なんて言ったら、カミさんに怒られますね。

p.s.
 鍵コメの件、改行ミスです。こっそり教えてくれてありがとうございます。やっぱり一通り見直したほうがいいですね。
 感謝です。
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