スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←『赤い糸をたどって』 第五回 →『赤い糸をたどって』 第七回
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png 作品紹介
もくじ  3kaku_s_L.png 上手な別れ方
もくじ  3kaku_s_L.png 空と海
もくじ  3kaku_s_L.png 地球の軌跡
もくじ  3kaku_s_L.png 夏に恋して
もくじ  3kaku_s_L.png お礼参り
もくじ  3kaku_s_L.png 遠くの隣人
もくじ  3kaku_s_L.png 道連れ
もくじ  3kaku_s_L.png 美しき幕引き
もくじ  3kaku_s_L.png 別れたら
もくじ  3kaku_s_L.png 願い集うとき
もくじ  3kaku_s_L.png 相方よ
総もくじ  3kaku_s_L.png 忙しい人たちへ(掌編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png 重要な選択
総もくじ  3kaku_s_L.png 未来(あした)が見たら
総もくじ  3kaku_s_L.png 親愛なるあなたへ
総もくじ  3kaku_s_L.png 赤い糸をたどって
総もくじ  3kaku_s_L.png 独り言(雑記)
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【『赤い糸をたどって』 第五回】へ
  • 【『赤い糸をたどって』 第七回】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

「赤い糸をたどって」
赤い糸をたどって(上)

『赤い糸をたどって』 第六回

 ←『赤い糸をたどって』 第五回 →『赤い糸をたどって』 第七回
 十一月になり、新たに申し込んだ九人のうち、一人の紹介状が届いた。手持ちの札……いや、紹介状の少ない俺にとっては有難いことだった。
 封筒を開いて、中からピンク色の紙を取り出した瞬間、思わず声が出た。
「カッ、カワイイ!」
 白黒写真でもはっきりと美しさのわかる、髪の長い女性の顔がそこにあった。
 何かの間違いかもしれないと、紹介状をじっくりと見直してみたが、受取人は確かに俺の名前になっているし、備考欄には『あなたの紹介状を見てお受けされました』と記してある。立ち上がって万歳三唱をしたい気分だったが、喜ぶのはまだ早い。就職活動に例えるのなら、まだ書類選考にパスした段階だ。
 高崎美沙子。
 年齢は三十一歳で、職業は経理事務。趣味は植物栽培、読書、料理。
 自己PRは『おっとりしているように見えて、しっかりしていると周りの人にはよく言われます。言葉にしなくても、お互いの考えていることや気持ちがわかる夫婦を一緒に目指せる方を探しています。焦らず、ゆっくりと共に人生を歩み、理想に近付ければいいなと思っています』
 彼女が前向きに結婚を考えているということは疑う余地がない。はっきりとした意志のない者は、結婚後の人生についてなど口にはしない。
 俺の本心は「今すぐにでも会いましょう!」だが、そういうわけにはいかない。ガツガツしているなんて思われたら、そこでアウトだ。「お綺麗ですね」なんて露骨な褒め言葉は避けて、「はじめまして」から始まる在り来たりの文章でファーストメールを送った。

 小

『今、休憩時間中で、コンビニ弁当を食べ終わったところです。高崎さんはお昼はどうされているんですか? 外食ですか? でも料理が好きということなので、きっと手作り弁当でしょうね』
 入力し終えた文章を一度だけ読み返して、メール送信ボタンを押した。ケータイの画面が、羽根の生えた封筒が空を飛ぶアニメーションへと切り替わり、『送信完了』の文字が表示された。
 こんなふうに空き時間を見つけて、時折高崎にメールを送っている。あまり頻繁に送ると煙たがられそうなので、一日に一、二通程度にし、返事が届いたら少し続けるようにしている。
 弁当のゴミを給湯室のゴミ箱へ捨てて席に戻ると、高崎から返事が届いた。
『お疲れ様です。私も今、食事が済んだところです。私は自分でお弁当を作っています。と言っても、本当に簡単なものですよ。春見さんはいつもコンビニのお弁当なんですか?』
 できたら俺の分も作って欲しいです! なんてね。
 自然と口元が綻びてしまったため、すぐに真顔に戻ろうとする。
「楽しそうですね。春見さん」
 後ろから若槻に声を掛けられ、驚きで背筋がピンと張った。メールを見られまいと、慌ててケータイをズボンのポケットに仕舞った。
「隠さなくてもいいじゃないですか」
「別にそういうわけじゃないよ。読み終わったから仕舞っただけだけだよ」
「本当に? さっきのニヤけ顔といい、今の慌てぶりといい、普通じゃなかったな」
 若槻が少し意地悪そうに笑う。
 いつから見られていたんだろうか。
 恥ずかしさで体温が上がる。特に顔が熱い。
「まあ、生きていれば、たまにはいいこともあるよ」
「そりゃ、そうですよね。ねえねえ、春見さん。あれから水槽に魚入れたんですか?」
 若槻が声を潜めた。二人で秘密を共有し合うようで、何だか少し照れ臭くなる。
「うん。でもあの大きさの水槽だと十匹くらいがちょうどいいんだって。数が多過ぎると、水も汚れやすくなるらしいし、魚にとってもストレスになるらしいよ」
「そうなんですか?」
 長髪の店員に言われたように、あの日は魚を買わずに帰った。魚を飼育するためには、まず水作りをしなくてはならないのだ。水槽に水を張り、フィルターを作動させて一週間から二週間ほど水を循環する。そうすると、魚の食べ残しやフンなどから出る有害な物質をできるだけ無害なものへと変える働きをするバクテリアが繁殖する。バクテリアの繁殖が不十分な状態で魚を入れると、死んでしまう可能性が高いらしい。
 無知とは恐ろしいもので、何も知らずに生き物を飼おうとしたことが、我ながら安易だったことに気が付いた。
「心配しなくても大丈夫。若槻さんが気に入ったのはちゃんと買っておいたから」
「ありがとうございます」
 若槻は丁寧に頭を下げた後、白い歯を見せて笑った。
「おいおい。お前ら随分仲がいいよな?」
 俺より五歳年上の先輩、牛島からヨコヤリが入った。まるでテレビドラマに登場する、主人公とその恋人に絡むチンピラの台詞だ。それもかなり昔の。
「そっ、そんなんじゃありませんよ」
 若槻が過剰に反応し、少しきつい口調で否定した。顔が真っ赤だ。ひと際肌の白い彼女のため、その紅潮ぶりが余計に目立つ。こうなっては牛島の思うツボだ。
「若槻、顔赤いぞ」
 牛島に冷やかされて、若槻の顔はますます赤くなった。
「さてと、昼からも頑張ろっと」
 若槻は逃げるように自分の席へと戻っていった。そういうシャイなところも俺は嫌いじゃない。
「お前たちさ、実はつき合ってるんじゃないの?」
 牛島の攻撃目標が俺に変わった。一度追尾され始めると、なかなか振り切れないのがこの人の厄介なところだ。
「まさか」
「隠さなくてもいいって」
「違いますって」
「何も恥ずかしがることなんか……」
 牛島の言葉を遮るように、俺のケータイに着信があった。
「すみません。電話です。あっ、もしもし?」
 メールであることはわかっていたが、ケータイを耳に当てて、廊下に出た。
 ブーケトスからのお知らせメールだった。
『以下の会員様よりお断りの連絡がありました』
 これで今月申し込んだ全員から返事が届いたことになる。結局、高崎以外の八人はお断りだ。
 肩を落して席に戻ると、牛島がニヤケ面で俺を待ち構えていた。
「二股か?」
 頼むから、消えてください。

 小

 待ちに待った日がやってきた。高崎と初の顔合わせだ。美人の紹介状をもらうことはこれまでに何度もあったが、こちらが「お受けします」の返事を送ると、すぐにお断りの連絡が来た。やはり相手に対しても相応の容姿を求めているのだろう。自慢じゃないが、俺はルックスがいいほうじゃない。「モテる」なんて言葉は縁遠いものだし、「男前だ」なんて言ってくれるのは、母と年齢の変わらぬ、近所のおばちゃん連中くらいのものだ。
 身だしなみのチェックをいつもより入念に行ってから家を出た。
 彼女の紹介状は隅々まで熟読し、プロフィールはしっかり頭に入っている。「それって紹介状に書いてありましたよね?」と、はっきり言われることはないにしろ、思われるだけでも減点の対象になる可能性は充分にある。話題もそれなりに用意してきたつもりだ。「会話の続かない退屈な人」と感じさせてはならない。
 待ち合わせ場所は、沢口の時と同じN駅の改札で、約束の時刻は午前十一時だ。
 十分前に到着したが、高崎はまだ来ていないようだった。
 なぜか少し安心した。ひょっとすると、こうして相手が来るのを待っている時間が一番いいのかもしれない。期待に胸を躍らせているだけの今なら、フラレて落ち込むこともないからだ。その代わり先へ進むこともないが……。
 まだ時間もあるし、念のためにトイレにでも行っておくか。
 そう考えて、その場を離れようとすると、一人の女性が俺の顔をじっと見ていることに気が付いた。
「春見さんですか?」
 白黒写真ではなく、カラーの、それも実物の高崎美沙子だった。特徴の一つである長い髪はよく手入れが行き届いているらしく、艶やかで縮れや絡みがなくとても美しい。体型はすらりとしていて、肌は透き通るように白いが、病人のような青白さではない。服装はタートルネックのセーターにスカート。ラフ過ぎず、フォーマル過ぎずの、初対面に相応しいものだと言える。見るからに清楚で上品な感じがして、出会う前以上の好印象を抱いた。
「春見大地さんですか?」
 まるで射られてしまったかのように身動き一つしない俺に、高崎が不安げに小さな声で繰り返す。
「えっ、ああ……はい」
 声が上ずった。
「良かった。人違いかと思いました」
 高崎は胸に手を当て、ふうっと微かに息を吐いて、二重瞼の大きな目を細くした。
(この人と結婚したい!)
 出会って一分も経たぬうちに、俺は恋に落ちていた。
 
 二人で話し合った結果、沢口の時と同じように、近くのショッピングモールに足を向けた。
「緊張していますか?」
 高崎が俺の顔をそっと覗きこんできた。長い髪が垂れ下がり、耳につけた青い宝石の入ったイヤリングが見えた。
「わかりますか?」
「はい。顔に書いてあります」
 美人にからかわれてみっともなくなった俺は、慌てて両手で顔を拭った。
「あなたのような美しい方の前でなら、どんな男でも緊張しますよ」
 そんな台詞が許されるのは、外国映画やドラマに登場する二枚目俳優だけだ。俺にはとてもじゃないが口にできない。
「実は私も少し緊張しています」
 高崎がまた微笑みをくれた。
「春見さんって写真で見るよりずっと素敵ですね」
「そっ、そうですか?」
 お世辞も上手だ。
スポンサーサイト


総もくじ 3kaku_s_L.png 忙しい人たちへ(掌編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png 重要な選択
総もくじ 3kaku_s_L.png 未来(あした)が見たら
総もくじ 3kaku_s_L.png 親愛なるあなたへ
総もくじ 3kaku_s_L.png 赤い糸をたどって
総もくじ 3kaku_s_L.png 独り言(雑記)
もくじ  3kaku_s_L.png 作品紹介
もくじ  3kaku_s_L.png 上手な別れ方
もくじ  3kaku_s_L.png 空と海
もくじ  3kaku_s_L.png 地球の軌跡
もくじ  3kaku_s_L.png 夏に恋して
もくじ  3kaku_s_L.png お礼参り
もくじ  3kaku_s_L.png 遠くの隣人
もくじ  3kaku_s_L.png 道連れ
もくじ  3kaku_s_L.png 美しき幕引き
もくじ  3kaku_s_L.png 別れたら
もくじ  3kaku_s_L.png 願い集うとき
もくじ  3kaku_s_L.png 相方よ
総もくじ  3kaku_s_L.png 忙しい人たちへ(掌編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png 重要な選択
総もくじ  3kaku_s_L.png 未来(あした)が見たら
総もくじ  3kaku_s_L.png 親愛なるあなたへ
総もくじ  3kaku_s_L.png 赤い糸をたどって
総もくじ  3kaku_s_L.png 独り言(雑記)
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【『赤い糸をたどって』 第五回】へ
  • 【『赤い糸をたどって』 第七回】へ

~ Comment ~

ますます面白くなってきましたね! 

けれど、ちょっと淋しい・・・
彼と時間を共にした女性の存在はどうなるんだろう。。
お互い、わずかな時間をただ共にして、通り過ぎて行くんでしょうか?
若槻さんも彼を気にしているんでしょうし。
でも長い人生を歩いていると、不思議と気になる異性が自分の周りに何人かいる時がありますよね。
誰にでもある不思議な時間。
彼が今、そうなる時なのでしょうかねぇ。。

kotanさんへ 

 うーん。
 kotanさんの気持ち、わからないっでもないですが、人生というか、婚活での出会いってこんなもんなんでしょうね。
 誰にするか迷えるくらいなら羨ましいですけどね。笑。
 でもkotanさんの仰るようにちょっと寂しいですね。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【『赤い糸をたどって』 第五回】へ
  • 【『赤い糸をたどって』 第七回】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。