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「赤い糸をたどって」
赤い糸をたどって(上)

『赤い糸をたどって』 第五回

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 十月も二十五日を過ぎた。結局、今月申し込んだ女性からの返事は沢口以外全てお断りだった。落ち込むというより、焦りの気持ちが大きくなったというほうが正しい。
 沢口からは未だお断りの連絡はない。俺に対してどんな印象を持ったのかはまるでわからないが、彼女の性格を考えると、自分のほうから次のお誘いをしてくるとも思えない。
 俺自身の彼女に対する印象はと言うと、正直微妙なところだ。ルックスは悪くはなかった。むしろカワイイほうだと思う。ただ二十分以上遅れて来て一言もなしというのは減点の対象だったし、会話があまり続かなかったのも引っ掛かる。致命的なのはオニオンリングを勝手に……まあ、そこは大目に見よう。
 以前の俺ならこれでお断りを決めていたが、今は贅沢を言っていられない。とりあえず、紹介状は手元に残しておいて、時期を見てもう一度誘ってみることにしよう。

 小
 
マイページを利用して趣味の欄に「アクアリウム」と追加したものの、実際に魚を飼ったり、水草を育てたりするまでには至っていなかった。そろそろ腰を上げねば本当にデタラメになってしまう。

 十月最後の日曜日、近所のホームセンター内にあるペットコーナーに足を運んだ。
 はっきり言って詳しいことは何もわからない。ただ、展示用として置かれているレイアウト水槽に僅かな魅力さえ感じなかったと言えば、嘘になる。限られたスペースに自然界の姿を濃縮させているところには、やはり心惹かれた。魚しか入っていない水槽より、魚たちの動きもどこか生き生きとしているように見えた。
(ここまでやれたらきっと楽しいんだろうな)
 そんな考えが頭の中をチラリと過ったが、実際にやれる自信はなかった。とりあえず、入門用の小型水槽セットを手に取った。水槽のサイズは「30センチ(幅315mm×奥行85mm×高さ244mm)」で、フィルターとライトがついて、三千九百八十円だ。
 まあ、この程度の出費は当然だろう。
 次に必要なのは水槽の底に敷く砂利だ。粒の大きさや色合いによって値段も違う。想像していたよりずっと種類が豊富だった。オレンジやピンクも明るい感じがして悪くはない気がしたが、一応自然の情景を目指しているので、茶色やグレーの大きさが異なる砂利を混ぜて袋詰めされた「川砂利」というものを買うことにした。
 次は飾りだ。水草は魚と一緒に選ぶとして、流木くらいは入れておきたい。
 ダンボール箱に無造作に放り込まれた流木を一つずつ手に取って吟味した。同じ形のものは二つとしてない。あまり大きなものは入らないので、小さくてもできるだけ個性的な形状のものを選ぶことにした。全く想像の領域だが、くるくると回してどういうふうに水槽に入れるのかも考えてみた。頭の中に少しずつ美しい情景ができ上がりつつあった。
 流木が決まったので、いよいよ魚だ。
「春見さん……ですよね?」
 後ろから突然名前を呼ばれて、体が少し宙に浮いた。誰にも知られずにこっそり買って帰るつもりだったからかもしれない。恐る恐る振り返ると、そこに俺のよく知る顔があった。
 若槻だった。茶色と白のストライプのカットソーにベージュのパーカーを羽織り、ジーンズを履いている。見慣れた制服姿と違うカジュアルな格好で、とても新鮮だった。ただし、化粧はほぼしていないに等しい。それはいつもと同じだ。
「やっぱり春見さんだ」と言って、若槻は目を細くした。
 動揺を覚られぬよう、できるだけ平静を装う。
「すごい偶然だよな。もしかして若槻さんの家って、この近く?」
「そうですよ」
 若槻の口にした住所はここから十分ほどのところだ。「俺の住むマンションからもそんなに遠くはない」と話すと、今度は目をぱっと大きく見開いた。
「へえ、そうなんですか。じゃあ、私たちって意外とご近所さんだったんですね」
「らしいね。全然知らなかったよな」
 日頃、若槻と言葉を交わすのは、大抵仕事に関してで、プライベイトに踏み込むような話はほとんどしたことがない。ただ、お互い一人暮らしで、恋人がいないことだけは知っている。
「魚、飼うんですか?」
 若槻の視線は、俺の手にした買い物カゴに向けられていた。この状況で「飼わない」と答えるのは不自然だし、嘘をつく必要もない。
「うん。一人暮らしだとちょっと寂しいしね。それに俺の部屋って殺風景だから、少しは賑やかになるかなと思ってさ」
「その気持ちわかりますよ。私が犬を飼ったのも寂しいからだもん」
「あっ、そういや飼ってるって聞いた気がするな。ミニチュアダックスだっけ?」
「そう。ココアって名前なんですけど、カワイイですよ。写真、見せたことなかったですか?」
 見るとも見ないとも答えないうちに、若槻は肩にぶら下げたポーチからケータイを取り出した。待ち受け画面に、濃い茶色の毛で覆われたミニチュアダックスが映っている。子犬ではなくもう立派な成犬だが、ソファの上にちょこんと座り、大きな目でこっちを見ている姿は確かにカワイイ。
「春見さんも犬にしたらいいのに。犬は嫌い?」
「いや、そんなことないよ。むしろ、好きなほう。でもさ、飼うってなると世話が大変だろ?」
「私は大変だと思ったことがないです。子供みたいなものなんだし」
 若槻はとても優しい目をしている。彼女にとってココアはただのペットではなく、家族なのかもしれない。
「俺は帰るのも遅いし、朝晩の散歩なんかも続けられるかどうか自信がないな。餌だって自分の分を用意するのも面倒って思っているくらいなんだから」
「そうですよね。春見さんは仕事が大変だもんね」
 若槻たち事務員は定時である午後六時には会社を出られるが、俺たち営業はそれ以降も仕事が残っている。ほぼ毎日サービス残業だ。
「そう。だから、魚くらいなら何とかなるかと思ってさ」
「そのうち話し掛けるようになりますよ」
「言えてるね」
 二人で声を揃えて笑った。
「魚を見に行きましょうよ。金魚じゃなくて熱帯魚ですよね?」
 まるで自分が飼うかのように、若槻は目を輝かせ、先に生体コーナーへと足を向けた。俺もそれに続く。
「春見さん、この子たちカワイくないですか? あっ、この子たちもいいかな」
 小さな水槽を覗き込んではしゃぎ回る若槻は、まるで子供のようだった。
「春見さんはどれか気に入った魚はいますか……あれ、どうかしました?」
 若槻の言葉で我に返り、いつの間にか彼女の横顔に向けていた視線を慌てて逸らした。
 同僚たちに「お前たち、くっついたら?」とからかわれたことがある。若槻は顔を真っ赤にして「結構です」と否定していたが、俺は「それもいいかな」と思った。フラフラと遊び回っている印象もないし、他人に対しての気配りもよくできる。言葉遣いや常識という点では間違いなく合格だし、冗談がまるで通じない頭の固い子でもない。なんといっても、体中からにじみ出るような明るさに魅力を感じる。体型も太過ぎず、細過ぎず、ごくごく標準的。年齢は二十七で、ちょうどいい年頃だ。俺が若槻を拒んでいる理由は「社内恋愛だから」ということ。そして何より、彼女自身が「彼氏なんていらない」と公言しているからだ。
「いや、何でもない……これ、カワイイよな?」
 俺が指差したのは、「ハニードワーフグラミー」という名の魚だ。楕円の黄色い身体には、背びれと尾びれの他に二本の髭のようなものがついている。小さな黄色い体を懸命にくねらせて泳ぐ姿をみていると、自然と口元が緩む。
「私もいいなと思っていたんですよ。赤い子もいるんですね」
 若槻が言っているのは、「レッドグラミー」という魚だ。
「それじゃ、黄色と赤、一匹ずつにしようか」
「そうですね。他に気に入ったのは……」
 その後も二人で相談して、合計十五匹を買うことにした。
 俺の家で飼う魚をなぜ若槻と話し合って決めたのか。
 そんな疑問が湧いたのは、それからずっと後のことだった。
 魚を掬ってもらうために、長髪の男性店員に声を掛けると、「いらっしゃいませ!」と景気よく応えてくれた。
「魚が欲しいのですが……あっ、あと水草も。初心者にオススメのものを適当に見つくろってもらっていいですか?」
 俺の注文を聞いた途端、店員の得意げな表情は苦笑いへと変わった。
「もしかして初めて飼われるんですか?」
「ええ、そうですけど」
 店員の視線は買い物カゴに入れた水槽セットに向けられていた。
「それなら今日のところは、生体を買うのはやめておいたほうがいいですね」
「えっ、あっ……どうしよう? 若槻さん」
 思ってもみない言葉に動揺した俺は、無意識に若槻に助けを求めていた。
「私に言われても……」と、若槻も困惑した表情で俺を見ていた。
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~ Comment ~

幸せは・・・ 

春見さんの青い鳥は~♪
あまりにも近い存在で気付かなかったのか、意識的に遠ざけていて忘れていたのか。
この後の展開がとても気になりますね!
でも沢口さんも天然なところがありますが、素直な女性だと思います。
若槻さんは魅力的・理想的ですね。
そして何より、現実的な感じが良いです♪

我が家のペットは“クサガメのカメタくん”!
少し前には熱帯魚の“ベタ”も飼っていました。
子供が最初飼うと言っていたのですが、結局は私が育てました。
お世話している内に可愛くなって、やっぱり声をかけています。
“おはよう”とか“ごはんだよ”とか。
名前を呼ぶとまるで応えてくれるかのように振り向いて近付いてきます。
どちらも愛嬌があってとっても可愛い~♪

続きをとても楽しみにしています!

kotanさんへ 

 春見は若槻さんがいい子だとはわかっていたんですけど、やっぱりね、社内恋愛はいろいろ考えます。
 その辺も少しずつ明らかになっていくんですけどね。
 
 私も子供の頃はゼニガメをよく飼っていました。
 すごいものですよね。犬や猫のようにちゃんと近づいてきてくれるんですよね。
 愛着が湧くのも当然ですよ。

 ペット繋がりですが、実は先日、今年の1月の初めに実家で16年飼っていた愛犬が亡くなりました。
 いつかは来るものと分かっていても、やっぱりショックで泣きました。
 会社の帰りに実家へ寄って、散々泣いて家に帰りました。カミさんとか子供たちの前では泣きたくなかったから。
 息子に「サクラ(愛犬の名前)もう死んだんよ」って言うと、時折一緒に散歩へ行っていた息子が「もうお散歩行けないの?」って尋ねてきました。
 その瞬間、また泣きました。
 今これを書きながらもまだ泣きそうです。笑。

 ペットってかわいいんですけど、最期のときを考えると飼うのを悩みますよね。
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