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「赤い糸をたどって」
赤い糸をたどって(上)

『赤い糸をたどって』 第四回

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 そこへ店員がやってきて、櫛の刺さったハンバーガー二つとオニオンリングの乗ったバスケットをテーブルの上に置いた。俺にとってオニオンリングは好物の一つで、どんな店に行っても、メニューにあれば必ず注文する。玉ねぎの持つ甘さと衣の塩辛さの組み合わせが何とも言えず好きなのだ。
 店員は続けて俺の前にコーラを、沢口の前にアイスティーを置いて、「ごゆっくりどうぞ」と言い残して席を離れていった。
 好きな物は後に残す主義の俺は、先にハンバーガーへと手を伸ばした。パンとパンの間にレタス、トマト、タマゴ、ハンバーグが挟まれていて、上から下まで一気にかじろうとすると、顎が外れてしまいそうなほどの大ボリュームだ。とりあえず、かじれるところまでかじってみた。沢口も小さく口を開けて、一番上のパンから遠慮がちに食べ始めた。
 このままだと永遠に会話が始まりそうにないので、また俺のほうから話題を提供することにした。
「沢口さんは確かバイオリンが趣味でしたよね?」
「はい」
「いつからやっているんですか?」
「小学生からです」
 本当にこういう趣味の人っているものなんだなと、紹介状を見て感心した。そして同時に「お嬢様」という言葉が浮かんだ。
「楽団みたいなのに所属していたりするんですか?」
「中学二年まではしていました。今は休みの日に少し弾くくらいです」
「結構大きな音が出るんじゃないですか?」
「そうですね」
「ご近所からの苦情とかって大丈夫なんですか?」
「音を小さくする道具もありますし、昼間に弾いている分には特に文句を言われたりすることもないです」
 沢口は実家暮らしだ。近所に音が漏れないような広大な敷地に住んでいるということは考えられないだろうか。紹介状に自宅の敷地面積は書いていない。
「春見さんは映画観賞が趣味ですよね?」
「ええ、まあ」
 初めて沢口のほうから質問された。視線がブレることもなくなった。趣味のバイオリンの話をしたことで、少しはリラックスできたのかもしれない。
「最近、何を観ました?」
「そうですね……あっ!」
 突然俺の口から飛び出した「あっ!」という声に、沢口が目を丸くした。
「どうかしましたか?」
 後から食べようと残していたオニオンリングの一つに沢口が手を付け、遠慮もなしにかじりついたのだ。シャリッという心地良い音色が俺の耳に響いた。
 確か彼女はハンバーガーとアイスティーだけでいいと言っていたはずなのに。
「あっ……『あしたが見えたら』って映画です」
 早口で言い終えて、俺もオニオンリングに手を伸ばした。作戦変更だ。うかうかしていたら全部食われてしまう。残りは四つ。
「『あしたが見えたら』って、予知能力者のお話ですよね?」
「そうです」
 もはや映画のことなどどうでも良かった。一つ目のオニオンリングの歯触りをまだ感じたまま、次に手を伸ばした。オニオンリングの入ったバスケットを手繰り寄せたい気持ちでいっぱいだったが、さすがにそれはみっともないので、ぐっと我慢した。
「あれって春くらいの映画でしたよね?」
「映画館ではそうですね。僕が見たのはレンタルだから。確か八月頃だったかな」
 沢口は再びハンバーガーのほうに手を伸ばした。
 チャンス! 残りの二つもいただきだ。
「それでも結構前ですね」
「趣味って言えるほど観てないですね」とでも言いたそうなのが、表情から読み取れた。腹は立たなかった。実際、映画観賞なんて思いつきで書いたものだからだ。
「最近は、映画館に足を運んでまでって思えるような作品が見つからないですから」
 尤もらしい言い訳をしながら、三つ目のオニオンリングを摘むことに成功した。右手と口の周りは油でギトギトだが、テーブルナプキンで拭く時間さえ惜しい。
「ねえ、春見さん」
 沢口はハンバーガーをテーブルに置き、俺の顔をじっと見た。
 なんだろう。あらたまって……。
 沢口の真剣な眼差しに、最後のオニオンリングに手を伸ばすのを中断せざるを得なかった。意識は彼女の顔に向かった。
 悪くはないなんて思っていたが、結構カワイイ部類に入るんじゃないか。
 そう感じて、胸が高鳴った。彼女の口からどんな台詞が出るのか、自ずと期待していた。出会ったばかりで「つき合って下さい」はないとしても、決して悪くはない前向きな言葉のはずだ。
「良かったら……」
 やっぱり「つき合って下さい」だろうか。自己PRにはあんなふうに書いていたが、意外と積極的なのかもしれない。
 思わず息を飲んでしまう。沢口がゆっくりと残りの言葉を紡いだ。
「オニオンリング、全部食べてくれていいですよ。好きみたいだし」
「あっ……ありがとうございます」
 俺は沢口に向かって深々と頭を下げた。

 小

 沢口と別れ、マンションに帰りついたのは午後三時過ぎ。
 途中、レンタルビデオ店に立ち寄って、映画のDVDを三枚借りた。沢口に言われたことが少々引っ掛かったからだ。早速、上映会と行きたかったが、その前にアドバイザーの梅田に電話を掛けた。
『久しぶりね。元気だった?』
 梅田は親しげにそう言ったが、本当に俺のことを覚えているかどうかは怪しいものだった。
 どうせ、俺の情報をパソコンのモニターで眺めながら話をしているに違いない。
「ちょっと教えて欲しいんですけど、他の男性会員の方ってどんなことを趣味にしていますか?」
『何? 今から新しい趣味を始めるつもり?』
「あっ、いや、そうじゃなくて……ほら、女性会員の趣味なら紹介状で見ることができますけど、男性会員の趣味ってどんなこと書いているのか絶対にわからないじゃないですか? だから参考までに聞いておこうかと」
 梅田は「ふーん」と半信半疑とも言える返事をしたものの、「私の記憶にある限りでは……」と続けた。
『スキー、スノボでしょ……それから野球、サッカー、テニス……』
 どれも今すぐ始めるには難しい。
「他には?」
『釣り、登山、ダイビング、ボーリング……』
「もっと手軽に始められそうなものはないですか?」
『やっぱりこれから始めるつもりなんじゃない』
 あっ、思わず本音が出てしまった。
「いっ、いや違いますよ」
『別に嘘つかなくてもいいのよ。前向きに努力してくれるのは、私たちアドバイザーにとって嬉しいことなんだから』
 今まで何もしてくれなかったのに、少し頼るとこれだ。
「映画観賞が趣味の人ってあまりいませんか?」
『そんなことないわよ。むしろ多いほう。ただ、春見さんみたいにそれだけって人は少ないわね。趣味の欄って三つ書けるでしょ? できれば全部埋めておくほうがいいわよ』
 なぜそういう大事なことを始めに言ってくれないのか。この人はアドバイザーというより営業として失格だな。いや、むしろ、それで俺が結婚できずに会員期間延長とくれば儲かるのかもしれない。
 そこまで考えて、俺は首を横に振った。
 歳を取るごとに、確実に嫌な人間になっているよな。
「さっきの続きなんですけど、他にはどんなのがありますか? なるべく手軽なもので」
『えーっと、そうね……読書、ゲーム、パチンコ、競馬……』
「確かに手軽ですけど、読書とゲームは地味ですよね。パチンコとか競馬ってあまり女性からの印象が良くないんでしょ?」
『確かにいいイメージを持っていない人は多いわね』
 紹介状に「ギャンブルは好きかどうか」の回答を載せるくらいだ。相手を選ぶうえで重要なポイントであることに間違いはないだろう。
『後はカメラ、鉄道模型、天体観測……』
 どんどん深いところへ入り込んでいっている気がする。趣味で使うカメラとなると、やっぱり一眼だよな。鉄道模型って一揃え買うといくらくらいするんだろう。うちは二階だから、天体望遠鏡をベランダで使ったら間違いなく誤解されるよな。
『アクアリウムっていうのもあるわね』
「何ですか? あくありうむって……」
『ほら、ペットショップなんかで、水草とか石とか使って自然の風景を作って魚を泳がせている水槽があるでしょ?』
「ああ、あれですか?」
 それなら割と手軽に始められるかもしれない。女性からのイメージも悪くはなさそうだし、散歩やフンの始末もいらない。要は魚を飼って、水草や石を適当に入れておけばいいだろう。そこまで深く語る必要はない。初めて会ったときに多少なりとも話題になれば、それ以上は望まない。
「それにします」
『えっ、いいの?』
「可笑しいですか?」
『いいえ、随分あっさりと決めたものだから』
「金魚は飼っていたことがあるのでいいかなと思って。それほど変わりないでしょ?」
 飼っていたと言っても、縁日で掬った二匹をバケツに入れていただけだ。確か二、三週間で死んでしまったっけ。
『私も詳しいことは……』
「問題はあと一つか……それ以外に何かあります?」
『あっ、ゴメン』と、梅田が慌てて俺の話を遮った。
『実は四時から新しい会員さんの入会案内の予定があるのよ。悪いけど、続きは今度にしてくれる?』
 テーブルの上のデジタル時計は午後三時三十分を記している。思った以上に話し込んでいたようだ。
「わかりました。すみません」
『あのさ、何なら昔やっていた趣味でも書いておいたらどう? お茶を濁すくらいはできると思うけど』
 梅田は俺の返事も聞かずに、「それでは失礼します」と言って、電話を切った。
 何とも有難いアドバイスをくれたものだ。確かに辞めてしまった趣味ならいくつかある。果たしてそれでいいのかと一度は首を捻ったものの、三ヶ月前に観たきりの映画を趣味だと言っているのとそれほど変わりがない気がした。
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~ Comment ~

どちらが大事? 

彼は“オニオンリング”と“彼女”どちらが大切なんだろう?
私もオニオンリングは大好きで自分で揚げてまで食べるけど(笑)、おいしものは相手にもすすめて一緒に分かち合うけどなぁ♪
好きなものは、一番最初に食べますよ~。
自分が好きでオーダーしたのに、逆にすすめられてますね(笑)。
このズレ加減が面白いです!

趣味かぁ。
私も11歳から19歳までクラシックバレエを習っていましたよ。
でも全然お嬢様ではなかったです。習い事と現実は違いますからね♪
私の場合、インドアな趣味の男性に惹かれるなぁ。
自分がそうなので(笑)。
交際相手は趣味一つも、難しいですね。。

kotanさんへ 

 オニオンリングが大切です。笑。
 オニオンリングおいしいですよね。私もカミさんに作ってもらおうかなあ。

> 自分が好きでオーダーしたのに、逆にすすめられてますね(笑)。
> このズレ加減が面白いです!

 ありがとうございます。ここ笑って欲しいところでしたので。

 クラシックバレエですか。スゴイですね。確か前にも聞いた気がしますね。
 習い事と趣味はまた違うものですし。
  
 私は結構インドアですよ。ここに登場したアクアリウムも私の趣味ですし。
 交際相手として、同じ趣味を持っていると一緒に楽しめますもんね。
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