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「赤い糸をたどって」
赤い糸をたどって(上)

『赤い糸をたどって』 第三回

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 約束の日を迎えた。
 お見合いや紹介というわけではないので、立会人はいない。ましてやスーツなどは着て行く必要もない。しかし相手は女性だ。センスを疑われるような格好はしてはいけないし、出掛ける前はちゃんと身だしなみを確認する。
 鏡の前に立ち、首を左右に振る。寝グセはなし。
 顔を前に突き出し、鏡を覗き込む。目ヤニなし。鼻毛の飛び出しもなし。
 上下の歯を合わせてニッと微笑む。食べカスなし。
 髭の剃り残しもなし。
 口の周りを両手で覆って息を吐き出すと、爽やかなミントの香りが広がった。
「口臭よし!」
 財布とケータイをジーンズの後ろポケットにねじ込んで家を出た。

 初めて会う女性が相手だ。やはり緊張はする。電車に乗り、シートに身を預けると、活発に動く心臓のせいで、体が前後に波打っているような感覚がする。気を紛らわせようと窓の外に視線を移してみたが、効果はなかった。
(沢口さんってどんな人なんだろう)
 今の時点では決して答えの出せない問いかけを、頭の中でずっと繰り返していた。
 
 待ち合わせの場所である駅の改札には、約束した時間の五分前に到着した。先程以上に膨張と収縮を繰り返す心臓の動きを感じながら、辺りを見回してみた。若い女性はたくさんいるが、その中に沢口らしい人物の姿は見当たらない。
 とりあえず待つしかなさそうだ。
 終着であるこの駅には複数の路線が交わっていて、一番から八番までのホームがある。沢口の住んでいる場所を考えると、三番ホームに入る電車に乗っているはずだ。
 ホームと腕時計を交互に眺めていると、約束の十一時三十分になった。そこへちょうど三番ホームへの電車の到着を告げるアナウンスが流れた。
 速度を落した電車が静かに入ってくる。恐らくこれに沢口は乗っているはずだ。待ち時間を挟んだおかげで穏やかになっていた胸が再びざわつき始めた。
 両側のドアが開いた。乗客たちが一斉にホームへと降り立ち、改札のあるこちら側に向かって歩いてくる。
(違う。違う。違う……)
 昨晩目に焼き付けた白黒写真の沢口の顔を頼りに、女性一人一人に対し、正否を決めていく。
(……違う。違う。違う。あれ?)
 乗客は皆、改札を通ってしまい、三番ホームは沈黙した。
 当たりの含まれないクジだったらしい。
 おかしいな。
 ポケットからケータイを取り出し、沢口から「遅れます」というメールが届いていないかを確認してみたが、新着のメールや電話を掛けてこられた形跡はない。
 ひょっとすると、俺が約束の時間を間違っているんだろうか。
 数日前に沢口とやり取りしたメールを読み返してみたが、確かに『日曜日の午前十一時半、N駅の北改札で』と書いてある。
 まさか来週の日曜日と勘違いしていることはあり得ないだろう。電車が遅れているだけなのかもしれない。

 それから待つこと十分。三番ホームに次の電車がやってきた。
(違う。違う。違う。違う。違う……)
 先程の繰り返し。結果もまた同じで、当たりの含まれないクジ。
 何かあったんだろうか。急に体調が悪くなったとか、身内に不幸があったとか。
 可能性がゼロとは言えないため、試しにメールを送ってみる。
『おはようございます。僕はもう着きましたが、何かありましたか?』
 すると、一分も経たぬうちに沢口から返事が来た。
『今、向かっています。後五分くらいで着くと思います』
 だったら、早く言ってくれ。

 次の電車に沢口は乗っていた。随分と離れたところから俺を確認できた様子で、迷うことなく、真っ直ぐこちらに向かってくる。歩調を速めることもなければ、申し訳なさそうな表情を浮かべることもしなかった。俺のそばに来ても、二十分以上遅れてきたことへの謝罪もなしに、ただ真顔で頭を下げただけだった。正直、いい気はしなかったが、小さい男だと思われたくなかったので、責めるのもやめておいた。
 ベージュのワンピースに、装飾品は特になし。写真通りの童顔で、斜め掛けにしたポーチのせいもあってか、より幼く見える。
 二人で話し合った結果、近くにあるショッピングモール内のレストラン街を目指すことになった。先に歩く俺の後ろを、沢口はちょこちょこと狭い歩幅でついてくる。
「いい天気になって良かったですよね?」
 俺の問いかけに対し、沢口はほとんど表情を変えることなく、「そうですね」と答えた。彼女からは続きが出そうになかったので、俺が言葉を紡いだ。
「来週の中頃まで晴れが続くらしいです」
「へえ、そうなんですか?」
「それ以降は週末にかけて雨になるみたいです」
「そうなんですか?」
「かなり激しく降る可能性もあるとか……」
 いかん。何を天気予報士のようなことばかり言っているんだ。別の話題を探そう。
「今日は割と寒いですよね。僕は寒いのが苦手なんですよ」
 結局、天気の話とほとんど変わらないじゃないかと、自分自身に呆れずにはいられなかった。また「そうなんですか?」で終わられては困るので、「沢口さんは?」と尋ねてみた。
「私も寒さより暑さのほうが我慢できるかな」
「じゃあ、俺と同じですね」
「そうですね」
 ここで会話は一度打ち切りとなった。俺が黙っていると、沢口も黙ったままだった。自己PRに書かれていた「大人しい性格」、「人見知りをする」、「引っ張っていって下さる方」という言葉を思い出した。自分のほうから話題を提供するのは、やはり苦手なんだろう。

 モール内にはあらゆる種類の飲食店が軒を連ねていた。パスタ、中華、ハワイアンハンバーガー、寿司、和食、ラーメンなど。沢口が約束の時間に遅れてきたおかげで、ちょうどいい具合に腹が減ってきた。
「沢口さんは何か食べたい物とかありますか?」
「えっと……何でもいいです」
 一応聞いてはみたが、やはり予想通りの答えだった。ここで俺が一緒に悩んでも仕方がないので、混み具合や自分の気分に任せて、ハワイアンバーガーの店に入った。アロハシャツを着た店員がすぐにやってきて、一番奥のテーブル席へと案内してくれた。テーブルの上に開いたメニューを、俺たちは静かに眺めた。種類が豊富というわけでもないので、何を頼むかはすぐに決まった。急かしてはいけないと思い、「決まった」ということは口にせず、そのままメニューから視線を外すことで、それとなく伝えた。沢口は悩んでいるのか、いつまでも顔を上げず、ずっとメニューと睨めっこをしている。彼女が決めるまで話し掛けるわけにもいかず、俺には店内を見回すことくらいしかできなかった。
 時刻も時刻のため、空いていた席がどんどん埋まっていく。手持無沙汰のためか、無意識に腕を組みそうになり、慌ててやめた。威圧的とも受け取られかねない姿勢はまずい。
 いつまでたっても沢口がメニューから目を放さないので、恐る恐る尋ねてみることにした。
「あの……決まりました?」
 そこで沢口がようやく顔を上げた。
「はい」
「もしかして随分前に決まっていました?」
「はい。私はすぐに決まっていたんですけど、春見さんがまだかなと思って」
 沢口の思わぬ答えに椅子からずり落ちそうになった。
 この人、結構天然なのかもしれない。いや、はっきり「決まった」と告げなかった俺が悪いのだ。
 注文を済ませて料理が並ぶまでに、また沈黙の時間が訪れた。
 まず何を話すべきか。紹介状の内容を暗記して、ある程度の話題を用意してきたつもりだったが、出だしから調子が狂いっぱなしで、少々舞い上がっていた。沢口も緊張しているのか、キョロキョロと店内を見回し、落ち着きがない。時折、俺と目が合っても、慌てたように逸らして下を向く。しばらくすると、また辺りを見回す。意図的に視線が重ならぬようにしているのがはっきりとわかった。
「沢口さんは入会してどのくらいですか?」
 そう問いかけると、沢口の視線がようやく俺のほうに定まった。
「三ヶ月です」
「まだ最近なんですね。僕は出会いがないから入会したんですけど、沢口さんもそうですか?」
「私は……親に入会させられて」と、沢口はバツが悪そうに下を向いた。
 女性会員の中には、彼女のように親同伴で入会手続きにやってくる者も多いと、アドバイザーの梅田が言っていた。
「じゃあ、沢口さん自身は、結婚なんてまだ先でいいって思っているんですか?」
「あっ、いいえ。そういうわけでは……」と顔を上げ、両手を振って答えたものの、語尾を濁したまま、その声は消えていった。
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~ Comment ~

かわいい~♪ 

彼女、生真面目なのか天然なのか・・・そう受け取ると可愛らしいように思えてきますね!
春見さんのデート前の様子や駅での待ち時間も、沢口さんのどうしたらよいのかと言う様子も、何だか自分にも経験があるように思えます。

すご~くおもしろいです!!

kotanさんへ 

早速コメントありがとうございます。
かわいいですか? 笑。緊張しているんですかねえ。
初めて会う相手には本当緊張しますよね。
いいように見せたい気持ちもありますし。

この作品、どちらかというとラブコメなので、面白いと言ってもらえると嬉しいです。
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