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赤い糸をたどって

『赤い糸をたどって』 第二回

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 俺の勤めているのは建築資材の製造や販売をしている会社で、俺自身の職務内容は営業だ。
 今日の午前中は溜まっている伝票や書類の処理に費やして終わった。
 昼食は大抵外食だが、今日のように事務所にいる場合は、コンビニ弁当が多い。エビフライにかじりついた瞬間、ズボンのポケットに入れたケータイが震えた。割り箸を置き、振動を続けるケータイを取り出した。
ブーケトスからのお知らせメールだ。
 本文は『以下の会員様よりお断りの連絡がありました』
 続きにはH子さん、K子さんというそれぞれの仮名と、会員番号が書いてある。先日申し込んだ九人のうちの二人だ。
 お断りのお知らせメールは毎日、午前十一時から午後一時くらいに送られてくる。この時間までに何もない場合、「無事に生き残れた」と胸を撫で下ろすことができる。残念ながら、今日は二人に狙撃された。
 再び割り箸でつまみ上げたエビフライの残りは、心なしか先程より重くなっていた。
「どうしたんですか?」
 突然、声を掛けられたため、そのままの勢いでエビの尻尾までかじりついてしまった。ガリッという心地良い音が聞こえた。香ばしい香りのする温かい緑茶が、声の主の白くて細い手によって机の上に置かれた。
 事務員の若槻留美だ。
「メール、何かショックなことでも書いてあったんですか?」
 心臓が、一瞬大きく膨れた。
 いつから見られていたんだろう。
 漆塗りの盆を抱え込んで、若槻が俺の顔を覗く。細くて小さな目だが、よく見ると奥二重になっている。
「いや、そんなことないよ。どうして?」
「だって、メールを見た途端、ふかーい溜息をついていたもん」
「本当に?」
「はい」と答えて、若槻はクスクスと笑った。
 参ったな。まさか結婚情報センターからのお断りのお知らせだとは言えない。
ブーケトスに登録していることは、彼女だけでなく、会社の連中には内緒だ。それどころか、友達にも言っていない。そういうところに入会しなければ相手を見つけられないことに対してどこか恥ずかしさがあるからだ。もちろん、めでたく結婚が決まった暁には、両親にだけは話すつもりだ。
「申し込んでいた懸賞に外れたんだ」
「なんだ。そんなことですか……ああいうのって当たらない確率のほうが高いんですよね」
 確かにそうだが、これに関してはどうにか一年以内に当たってもらわないと困る。
「また次がありますよ」
「そうだよな」
 若槻の優しい慰めの言葉に、俺は苦笑するしかなかった。
 婚活は就職活動や受験と似ている。次の面接先や受験校が残っていると、心にゆとりができる。H子さん、K子さんにはフラれたが、まだ七人残っている。

小

 仕事を終えて一人暮らしのマンションに着くのは、午後八時から九時の間が多い。どんな時間に帰ろうと、この一年必ずやってきたことがある。
エントランス部にある集合ポストの中身の確認だ。もちろん、女性会員の紹介状が届いていることへの期待を込めている。
 胸が高鳴り、ダイヤル錠を回す時間が煩わしく感じる。ロックが外れるのを確認し、勢い良く蓋を開いた。
 中身は二つ。一つは三年前にスーツを買った紳士服の店のDM。もう一つは、透明のフィルムの窓が付いた白い封筒。差出人は記入なしだが、俺にはそれがどこから来たのかがわかる。その場で開封してしまいたい気持ちをぐっと堪えて、封筒をスーツの胸ポケットに仕舞った。廊下を早足に歩き、階段は一段飛ばしで二階まで駆け上がった。玄関の鍵を開けて、中へ入り、後ろ手にドアを閉めると同時に、「よし!」と小さく右拳を握った。
 言うまでもない。差出人はブーケトスで、中身は女性会員の紹介状だ。部屋へ上がると、鞄をベッドの上に放り投げて、封筒をハサミで切り開いた。三つ折りにされたピンク色の紹介状で真っ先に確認するのは、やはり写真だ。ショートカットの丸顔、少し大きな目が印象的な女性だ。緊張しているのか、笑ってはいない。
 名前は沢口宏美。
 年齢は三十歳。先日、申し込みしたS子さんだ。改めて写真を見直してみたが、悪くはない。清楚なイメージで、年齢の割には童顔に見える。
 ただし、写真で見る限りだ。紹介状のためにスタジオで撮影をしてもらう者もいるらしいし、何しろ白黒のため、実物と多少の誤差が生じるのは止むを得ない。入会して最初に会った女性は、「他人の写真を使っていませんか?」と尋ねてしまいそうなほど、実物と違っていた。
 沢口の自己PRは、『大人しい性格で、人見知りするほうです。何に対しても慎重で、踏み出すのに時間が掛かるため、引っ張っていって下さる方がいいなと思っています』
 これまでたくさんの女性会員の自己PRを目にしてきたが、「大人しい性格」、「人見知りをする」、「引っ張っていって下さる方」という言葉を本当によく目にする。入会する理由は、出会いがないからが一番だとは思うが、その元を辿ると、積極性の不足であったり、不器用さであったりするのかもしれない。あまりにガンガン攻めてくる女性にも抵抗はあるが、何の意思表示もしてくれないのも困る。ブーケトスには、後者の女性が多いのだろう。
 上から下まで目を通した紹介状はテーブルの上に置き、夕食の準備を始めた。
 もちろん、断るつもりはない。今の時点ではその理由は見当たらない。
 夕食といっても大したものは作らない。タイマーで炊いた白飯と、スーパーで買ってきた揚げ物やサラダなど。今の時間からみっちりと料理を作るつもりはないし、作れる腕もない。
 料理を並べたり、お茶を注ぐ間も、沢口のことをずっと考えていた。
 最後に誰かの紹介状を受け取ったのは、八月の終わり。随分と久しぶりのことのため、気分は高揚していた。
 そそくさと夕食を済ませて、風呂に入る前に沢口に連絡をした。
 どの女性に対しても、ファーストコンタクトは電話よりメールを選ぶ。相手のライフスタイルもまるでわからないし、せっかく電話をしても話せない状況では元も子もない。
 メールを送るのも、ちゃんと時刻を考える。非常識な奴だとは思われたくないからだ。
『はじめまして。ブーケトスの会員、春見大地です。この度はお受け下さり、ありがとうございます。よろしくお願いいたします』
 堅苦しくて、何一つ面白味のない文章だが、出会い系サイトのように相手を引っ掛けるためのメールではなく、俺が春見大地であることが伝わればいいのだから、これで充分だ。
 そのまま二十分ほど沢口からの返事を待っていたが、ケータイが鳴る気配はなかった。そのうち送ってくるだろうと諦めて、風呂に入ることにした。
 浴槽に身を沈め、今後の予定を立てた。
 今日は月曜日。今週はメールのみとしても、来週末には一度会ってみたい。時間は限られているのだから、テンポよく進めるべきだ。
「初めはメル友から」なんて平気で言ってくる者もいる。高い金を払って出会い系サイトと同じ内容では堪らない。
 気持ちが急いてしまっているのか、知らぬ間にいつもより早風呂になっていた。ケータイのライトがピカピカと光り、着信があったことを報せている。
 沢口からのメールだった。
『はじめまして。沢口です。よろしくお願いします』
 以上。
 実にあっさりとしている。受信したのは五分ほど前。今なら返事をしても大丈夫だろう。
『沢口さんはいつも何時頃にお帰りですか? 僕は午後八時から九時の間が多いです』
 メールを送ってもいい時間の確認のためだ。
 今度はすぐに返事があった。
『六時半には帰っています』の一行だけ。
『それ以降ならメールさせてもらっても大丈夫ですか? お休みは土日ですか?』
 これは会える日を確認するためだ。あまりに事務的だが、最初はこんなものだ。飛ばし過ぎると、会ったときに話題に困る。
『土日祝です』
 前半のメールに関する質問には回答なしだ。「春見さんは?」という問いかけもない。仕方がないので自己申告する。
『僕は日祝と、土曜隔週です。近いうちに会うことにしましょう。最初ですから、お昼御飯はいかがですか?』
『そうですね。そうしましょう。今日はもう寝ます』
 一方的に会話を打ち切られてしまった。
 もう寝ると言っても、まだ十時半だ。結構早寝のタイプなのか。それとも偶然、疲れていたのか、体調が悪い日だったのか。あるいは何か気を悪くするようなことを書いてしまったとか……。
 念のため、沢口とやり取りしてメールを読み返してみたが、そんなものはどこにも見当たらなかった。

 翌日以降も時間を見つけて沢口にメールを送ってみたが、毎回、返事は二言、三言で長続きしなかった。送り返して来ないことさえあった。もちろん、沢口のほうから先にメールをしてくることもなかった。
 あまりメールは好きではないらしい。
 このまま今の状態を続けていても無駄な気がしたので、来週末に会うつもりだったところを、今週末に早めてみることにした。もちろん、沢口の予定がどうかまではわからなかったのだが、いざ誘ってみると、『はい。日曜日でいいです』と返事まであっさりとしていた。どこがいいかや何時がいいかを尋ねても、返ってくる答えは容易に想像できたので、俺のほうで全て決めてからメールを送った。
 五分ほどして沢口からの返事が届いた。
『そうしましょう』
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~ Comment ~

こんばんは。 

お相手の方はずいぶんクールな感じですね。
う~ん、男性のメール返信にありそうな・・・
私の夫もいくつかの質問事項に、順序よく返信はないんですよね。最後の質問にだけとか、ただ“了解”とか(笑)。
何に対して“了解”なの?と思うときも。。

結婚情報センターっていろいろ大変ですね。
独身だったらどうなのかな・・・登録するだろうか、と考えてしまいます。
お互いに結婚を考えて会うわけですから、「私はこの人と近い将来、結婚するかも知れない」と意識して緊張しちゃいそう。

この後の二人の展開が気になりますね!

kotanさんへ 

比較的男がそういう返事になりがちっていうだけかな。
女性でもこういう人いますよ。「メールが面倒くさい」って。ウチの会社の事務員さんがそうです。
私もたまにカミさんに「返事が愛想ない」って言われることがあります。笑。

今は出会いもお金で買う時代なんでしょうね。
目標が明らかなので、付き合うことになった場合に「私はそんなつもりなかった」とはなりにくい気がします。

引き続き、どうぞよろしくお願いします。
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