スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←『今も君を見ている』 -後編- →『赤い糸をたどって』 第一回
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png 作品紹介
もくじ  3kaku_s_L.png 上手な別れ方
もくじ  3kaku_s_L.png 空と海
もくじ  3kaku_s_L.png 地球の軌跡
もくじ  3kaku_s_L.png 初夏恋慕
もくじ  3kaku_s_L.png お礼参り
もくじ  3kaku_s_L.png 遠くの隣人
もくじ  3kaku_s_L.png 道連れ
もくじ  3kaku_s_L.png 美しき幕引き
もくじ  3kaku_s_L.png 別れたら
もくじ  3kaku_s_L.png 願い集うとき
もくじ  3kaku_s_L.png 相方よ
総もくじ  3kaku_s_L.png 重要な選択
総もくじ  3kaku_s_L.png 未来(あした)が見たら
総もくじ  3kaku_s_L.png 親愛なるあなたへ
もくじ  3kaku_s_L.png 独り言(雑記)
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【『今も君を見ている』 -後編-】へ
  • 【『赤い糸をたどって』 第一回】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

忙しい人たちへ(掌編集)

『そしてハートは今一つに』

 ←『今も君を見ている』 -後編- →『赤い糸をたどって』 第一回
そしてハートは今一つに

 高校生活最後のバレンタインデーに、クラスメイトの大庭君にチョコを渡した。
「ずっと好きでした」と「付き合ってください」の言葉を添えて。
 彼と一言、二言、話すだけで顔が火照る私にとっては、随分勇気のいる行動だった。
 そこまでして思いを告げたのには理由がある。
 私は春から違う街で一人暮らしを始め、そこで大学に通うことになっていたからだ。
 その前に自分の気持ちを伝えておきたかった。バレンタインデーという、背中を押してくれるものがなければ、きっと何もせずに終わっていただろう。
 そんな私の告白に対する大庭君の答えは「考えさせて欲しい」だった。
 
 無理もない。
 私と大庭君は、話をすることはあっても、それほど親しかったわけでもない。
 私が一方的に好きになっただけだ。
 そんな彼のどこに惹かれたのかというと、クラスでは目立たない私を気遣ってくれる優しさだった。
 例えば、クラスで決め事をするときには、「泉は何か意見はないか?」と必ず尋ねてくれた。私はいつも「特にないです」としか答えられなかったけれど……。

 文化祭の打ち上げでカラオケに行って、私にマイクが回って来た時のことだ。
恥ずかしがり屋の私にとって、人前で歌を唄うなんてハードルが高過ぎた。渋る私を男子たちが皆、「唄え」コールで責め立ててきた。「どうしようか」と悩んでいると、私に差し出されたマイクを大庭君が横から奪い取って、人気アイドルの歌を唄い始めた。
それも裏声を使ったアカペラで。
皆が大笑いする中、私だけは目を丸くしていた。
「これで恥ずかしくなくなっただろ?」
 大庭君は笑って私にマイクを差し出した。私は恐る恐るそれを受け取って、好きな歌をリモコンで選んだ。
 緊張で心臓が破裂しそうで、声も手も震えたけど、彼のおかげで最後まで唄うことができた。
 誰一人笑う者はおらず、それどころか「なんだ、上手じゃないか」と拍手をもらえた。
 大庭君はというと、何も言わずに、優しく微笑んでいるだけだった。
 決して「俺のおかげだろ?」なんてところは見せない。
 そんな彼のさりげなさが好きだった。

 三月になると、すぐに卒業式が行われた。
 バレンタインデー以降、大庭君とは何度か言葉を交わす機会はあったけど、告白への返事はもらえなかった。
 自分から尋ねるのも怖かったし、いい結果ならもっと早く返事がもらえるはずだという気がした。
「きっとフラれたんだ」と結論を出して、私は新しい街へと旅立った。

 そして今日はホワイトデー。
 大庭君は誰に対しても優しい人だから、私だけが特別に扱われていたわけじゃないのは知っていた。私はむしろ、彼のそういうところが好きだった。
 きっと私以外からもたくさんチョコをもらったに違いない。
 
 そっか……。
 
 今、ふと気が付いた。
 そんな大庭君がお返しをしないなんてことは考えられない。
 もし私がまだあの街に住んでいたら、今日、お返しをもらえたのかもしれない。
 引っ越しを先に延ばすことだってできたのに、フラれることが怖くて、私は逃げるほうを選んでしまった。
 フラれる覚悟ができていないなら、告白なんてすべきじゃないよね。
 大庭君はきっと怒っているだろうなな。
「せっかくお返し用意したのに」って。
 それとも「アイツ、引っ越ししたんだ。ふーん」で終わりかな。
 今更、何を考えても遅いよね。
「はあ」っと溜め息が零れる。
 気分を変えるために、温かい紅茶でも淹れようかと思っていると、インターホンが鳴った。
 宅配便だった。荷物が来る覚えなどないが、返事をしてしまったので、玄関先まで行く。
「こちらに印鑑をお願いします」と、キャップを被った運転手の男性が荷物を差し出す。両掌に乗るほどの小さな箱だ。
 身に覚えのない物を安易に受け取るのも怖いので、伝票の送り主を確認する。そこに記された名前を見た瞬間、心臓が大きく一つ膨れた。
 大場君からだった。
 そそくさと印鑑を押して荷物を受け取ると、私はすぐにそれを開封した。
 胸の高鳴りはまだ収まらない。
 中にはもう少し小さい、白い包装紙に赤いリボンの付いた箱。
 そしてベージュ色の封筒。
『先にこっちを開けろ』と書いてある。
 手紙だろうか。
 封筒の中に同じベージュ色の便箋が入ってあった。

『返事も聞かずに引っ越してんじゃねえよ』

 決して綺麗とは言えない、崩れた字。
 そう言えば、彼の書く文字をちゃんと見たことはなかった。

『なかなか返事をしなかった俺も悪いよな。
 どうせならホワイトデーのお返しと一緒にって思ってたんだ。
 遅くなってゴメンな』

 住所は私の友達に教えてもらったらしい。
 震える手でリボンをほどき、包装紙を剥がす。
 中身は銀色のハート型のペンダント。
 ただし、片割れ。反対側と引っ付けて一つのハートになるものだ。
 箱の中にも手紙が入っていた。

『俺もずっとお前が好きだった』

 彼に想いを告げたあの日から、私はただこの言葉だけを待ち続けていた。
 嬉しさと安堵の気持ちで、涙が溢れ出る。手の震えはまだ止まらない。
 手紙にはまだ続きがあった。

『そしてハートは今一つに』

 その意味が分からなくて、首を傾げていると、再びインターホンが鳴った。反射的に玄関ドアのほうへ視線を移して、私ははっとした。

(ハートが一つになるって、ひょっとして……)

 ドックン、ドックンと私の胸がまた張り裂けそうになる。

<了>
スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png 作品紹介
もくじ  3kaku_s_L.png 上手な別れ方
もくじ  3kaku_s_L.png 空と海
もくじ  3kaku_s_L.png 地球の軌跡
もくじ  3kaku_s_L.png 初夏恋慕
もくじ  3kaku_s_L.png お礼参り
もくじ  3kaku_s_L.png 遠くの隣人
もくじ  3kaku_s_L.png 道連れ
もくじ  3kaku_s_L.png 美しき幕引き
もくじ  3kaku_s_L.png 別れたら
もくじ  3kaku_s_L.png 願い集うとき
もくじ  3kaku_s_L.png 相方よ
総もくじ  3kaku_s_L.png 重要な選択
総もくじ  3kaku_s_L.png 未来(あした)が見たら
総もくじ  3kaku_s_L.png 親愛なるあなたへ
もくじ  3kaku_s_L.png 独り言(雑記)
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【『今も君を見ている』 -後編-】へ
  • 【『赤い糸をたどって』 第一回】へ

~ Comment ~

どきどき~♪ 

大好きな男の子への女の子の気持ちの動きがびっくりするくらい表現できている作品だなぁと思いました。
かわいらしいですよね~♪
男の子の仕草って難しいですよね。。女の子もそうなのかな?
想いを抱いている相手へ、素直に表現できたり、全く反対だったりしますからねぇ。。
私が遠い遠い10代の頃なら・・・こんな事してくれる男の子に夢中になってしまいます。
泉ちゃんはおとなしくても、ちゃんと自分の気持ちを伝えられる強い心を持っている、と思いますよ。
ハッピーエンド、良かった~♪

去年だったか、その前だったか、バレンタインデーの日に夫へチョコを贈りませんでしたが、ホワイトデーにかわいらしいかごに入ったキャンディをもらいました。
バレンタインチョコが欲しいんだなぁと思いまして、今年、やっとチョコレートクッキーをあげました、市販の(笑)。
私がほとんど食べましたけどねぇ・・・

kotan さんへ 

手前味噌を並べるようですが、女性の気持ちを表現するの上手ですね。と、よく言われます。
でも悲しいかな、実際の恋愛に行かされたことはありません。アハハハ!

男はロマンチストなんで、こういう演出をしてみたいと思うんです。

kotanさんがご主人のお話を出されたので、私もカミさんの話をさせていただきますが、
私があれこれ、喜びそうな演出をしてみせても、ウチのカミさんはちっとも喜ばないし、感動もしません。
だから最近は、何かサプライズを用意してやろうという気持ちになりません。

子供のほうがいいリアクションをしてくれるので、今はそっちに力を注いでいます。笑。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【『今も君を見ている』 -後編-】へ
  • 【『赤い糸をたどって』 第一回】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。