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 ←『星の欠片を探して』 →『果てへ』 -前編-
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忙しい人たちへ(掌編集)

『神様にお願い』

 ←『星の欠片を探して』 →『果てへ』 -前編-
 元日、午前十時十七分。
 少し時間は遅いが、いつもと変わらぬ目覚め。
「新年、新年」と世間は騒いでいるけど、何か特別なことが起きるわけでもない。昨日までと同じ、一日の始まり。
 着替えを済ませて、リビングへ降りて行くと、父と母はテーブルで年賀状を眺め、妹はコタツに座ってテレビを見ていた。
「おめでとう」と挨拶をすると、三人揃って顔を上げ、「おめでとう」と返事をした。
 母が席を立ち、お雑煮の支度を始める。テーブルの上に置かれたおせちの入ってた重箱を開けると、中身は半分ほどになっていた。
 起きるのが遅い僕を放っておいて、皆で先に食べてしまったのだ。
「壱輝もいよいよ今年は就活だな?」
 年始早々、父が嫌なことを言う。
「正直気が重いよ」
「希望の職種とか会社はあるのか?」
「まあ、ぼんやりとは決めてるよ」
 嘘だ。
「どんな仕事だ?」
「もう少しはっきりしてから話すよ」
「そうか」
 父がすんなりと聞くのをやめてくれて助かった。
 ただし、もう一つ嫌なことがある。
「バイトは何時から? 昼ご飯はたべるのよね?」
 お雑煮の入った碗をテーブルに乗せながら母が尋ねてくる。まだ朝食に口もつけていないというのに。
 気が重いのは父の就活の話のせいだけじゃない。元日にもかかわらず、スーパーでのバイトがあるからだ。
 世間はゆっくりと正月気分を味わっているというのに。
 昔は大晦日や正月と言えば、大抵の店は閉まっていたらしい。
 ところがコンビニができ、二十四時間が始まると、スーパーなどの営業時間も長くなった。
 大晦日や正月も関係なく営業し、年末年始が特別に思えなくなったと、父も母も言っている。
 そして僕も、そんなイマドキの風潮に振り回されている一人というわけだ。
 
 昼飯におせちの残りを食べた後、父は友人のところへ飲みに出かけた。
 残った三人で、コタツに入ってバラエティ番組を見ていた。
 時間が徐々に迫ってくる。
 母と妹は実に平和な顔をして、楽しげに笑っている。その気楽さが純粋に羨ましい。
「う~」
 堪らず、テーブルにひれ伏す。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「行きたくねえ。元日からバイトなんて最悪だ」
「そんなの凹んでも仕方ないじゃない」
「わかってる。わかってるけど、行きたくねえ」
「正月手当とか付くんでしょ?」
「付く。付くけど、行きたくねえ」
「だったらいいじゃん」
「いいんだ。いいんだけど、行きたくねえ」
「……ゴメン。もう付き合いきれない」
 妹はそれ以上何も言わなかった。
 いかん。これじゃ、自分で自分の首を絞めているようなもんだな。こういうときこそシャキッとせねば。
 顔を上げて、シュッと背筋を伸ばす。
「よし!」
 姿勢を保持。一、二、三……ダメだ。やっぱり行きたくねえ。
 再びテーブルの上にひれ伏す。
「壱輝、いつまでバカなことやってるの? そろそろ行く時間でしょ」
 母の声で顔を上げる。
 しゃあない。行くか。
 コタツから足を抜き、勢い良く立ち上がった。
「あっ、立ちくらみ。ダメだ、ちょっと落ち着いてから……」
「もういいって!」
 母と妹、同時にツッコミが入った。

 小


 バイト先のスーパーには自転車で十分ほどだ。ペダルを漕ぐ度に体を吹き抜けていく風の冷たさに、思わず「寒っ」と溢してしまう。
 元日の出勤は昨年、一昨年と経験済みだが、食品と日用雑貨がメインの決して大きな店ではないため、客足は遠い。

 従業員用の駐輪場に自転車を止めたところに、ちょうど誰かがやってきた。
 心臓が大きく一つ膨れる。
 少し前にレジのバイトとして入ってきた、一つ年下の大学生、漆崎彩さんだ。色白で二重瞼の目がとてもカワイイ。
「明けましておめでとうございます。本上さん」
「おめでとうございます」
「今年もよろしくお願いします」と、お互い馬鹿丁寧な頭の下げ合いをする。
 僕としては「今年も」ではなく、「今年こそ」彼女ともっと親密になりたいと思っている。
「元日からバイトなんて本当最悪だよね。漆崎さんだって初詣に行こうって思っていたんじゃない? 彼氏と」
 あっさりと言ってのけたつもりだが、実は心臓が破裂しそうだった。
「そうですね」と言われてしまったら、俺の希望は絶望に変わる。
「彼氏なんていないですよ。残念ながら」
 よし! 絶好のチャンス。幸先のいいスタートが切れた。しかしあくまで平静を装う。
「へえ、そうなんだ。それならさ、俺と一緒に初……」
 そこへ誰かが割って入る。
「本上君、明けましておめでとう!」
 僕の漆崎さんへの誘いの言葉を遮ったのは、彼女と同じレジのバイトである、丸山恵子さん。俺とは同い年で、縦にも横にも大きい女性だ。
「今年こそよろしくね」
「今年こそって……」
 丸山さんは密かに……ではなく、公然と僕に思いを寄せている。未だ告白などはされてはいないが、恐らくお断りをしても、すんなりとは受け入れてはくれない気がする。
「とっ……とりあえず、ヨロシク」
 僕と丸山さんのやりとりに漆崎さんは苦笑いを浮かべていた。

 小

 予想していた通り、客の数は少なかった。そして僕たち店員の数もいつもに比べて少ない。閉店時間も通常より一時間早い、午後八時。
 漆崎さんを初詣に誘うのならば、やはり今日しかない。

 僕の担当は、お菓子や調味料、飲料カップ麺、缶詰めなどの比較的賞味期限の長い食品の売り場だ。
 この時間からの出勤なら、恐らく閉店までの勤務のはずだ。しかし、もしかしたらということもある。途中で帰られてしまっては元も子もない。
 レジのそばにも陳列棚があるため、品出しだけでなく、商品整理をするフリをして、時折漆崎さんの様子を伺いにいった。

 小

 幸いなことに、漆崎さんは閉店時間まで残っていた。
 後は駐輪場に先回りして、漆崎さんが出てくるのを待つだけだ。今からすでに緊張していた。
 売り場の責任者である社員さんに、閉店作業を終えたことを報告すると、すぐさま更衣室へ向かった。素早く着替えを済ませて、 駐輪場に行き、近くの商品保管用のカゴ台車の陰に身を潜めた。
 後は邪魔が入らないことを願うのみだ。

 誰かの気配を感じるてはドキッとし、漆崎さんではないことを知って落胆の息を溢す。
 何度かそれを繰り返した後に、ようやく漆崎さんが従業員用の出口から出てくるのが見えた。
 他には誰も見当たらない。
 彼女を先に自転車置き場に向かわせて、僕は何食わぬ顔で後ろから近付いた。
「お疲れ様です」
「あっ、本上さん。お疲れ様です」
「今日はここでよく会うよね?」
 あくまで偶然を装う。
「そうですね」と、漆崎さんはクスクス笑う。怪しまれてはいないようだ。
 待ち伏せしていたなんて知られたら、引かれるかもしれないもんな。
 のんびりしている暇はない。誰かが来る前に話を進めないと。
「漆崎さんって、今から予定ある?」
「今からですか? いえ、特に」
「それじゃあ……」
 そこで言葉に詰まった。緊張と断られることへの怯えからだ。
 いや、ここまで来て諦めるわけにはいかない。
「そっ、それじゃあ、今から初詣に行かない?」
 情けないことに声が裏返った。
「えっ……」
 漆崎さんの表情に戸惑いの色が滲んだ……ような気がした。
「いや、そんな大袈裟なものじゃないんだ。この近くにある、小さい……本当に小さい神社に、お賽銭を……お賽銭って言っても、 五円とか十円くらいでいいと思うんだけど……それをチャリンと放り込みに行く程度なんだ。そう、その程度」
 動揺で自分でも驚くほど多弁で、呆れるほど言い訳じみた言葉を並べてしまう。
「うーん……そうですね……」
 やっぱり強引過ぎたかな。
 高ぶっていた気持ちが急速にしぼんでいく。
「あの……無理なら別にいいんだ。せっかくなら元日に行くほうがいいかなって思っただけで……」
 今ならまだ傷は浅い。
「その神社ってどこですか?」
「えっ、あっ、ああ……」
 想定外の質問で少し慌てたが、彼女に場所を説明する。
「少し遠回りになるけど、帰り道だし、いいですよ」
 漆崎さんが目を細くする。
「やった! あっと……」
 自然に上がった両手を慌てて下げる。あくまでバイト仲間としてだ。
 今はまだね。

 小

 その神社には、歩いて行くことにした。自転車に乗れけば二、三分で着くのだが、少しでも長く漆崎さんと二人きりでいたかったからだ。申し合わせたわけではないが、僕が自転車を押して歩き始めても、彼女は何も言わなかった。
「この近くに神社があるなんて全然知らなかったです」
「俺もあの店でバイトを始めてから知ったんだ。たまには違う道で帰ってみようかなって思ったら偶然ね」
「そうなんですか?」
「うん。去年も一昨年も、元日には初詣に寄ってから帰ってるんだ」
「一人でですか?」
「うん」
「へえ。本上さんってそういうの、一人でも平気な人なんですね」
「まあね。一人は嫌いじゃないし、友達は少なくてもいいから、本当に仲のいい奴らだけで騒ぎたいって思うほうかな」
「一人が嫌いじゃない」イコール「恋人はいらない」に取られなかっただろうか。
 言ってしまってから気が付いた。
「私も大勢で集まって……っていうのは苦手です。人が話をしているのに、割って入る度胸もないですし」
「それ、俺も同じ。俺、今年は就活なんだけどさ、会社によっては試験でディベートがあるらしくてさ。正直今から憂鬱だよ」
「うわあ、キツイですね。私、絶対無理です」
「だよな……なんか俺たちって似てるよね?」
 さりげなく共通点があることをアピールしてみせる。
「そうですね」
 漆崎さんの答えもそれほど悪くはない感じだ。
 これはひょっとしたら、ひょっとするかも。
 僕の口は自然と綻んでいた。

 小

 神社にいる人は、例年と変わりなく本当に、まばらだった。
 特に何かにご利益があるようなところでもないし、屋台が出ているわけでもない。もちろん、おみくじなんてない。ただお賽銭を入れて、鈴を鳴らすだけ。
 来ているのは地元の人くらいだろう。
 ここを選んだのは、本格的になり過ぎると断られる気がしたからだが、実際に連れてきて、あまりに何もないので心配になった。
「ゴメン。どうせならもう少しちゃんとした場所のほうが良かったかな? 何だか漆崎さんに悪いことした気がしてきた」
 そっと彼女の表情をうかがってみるが、ぼんやりとした提灯の頼りない灯りではよくわからない。
「そんなこと、気にしなくてもいいですよ。だってバイト帰りに少し寄るだけなんだし。それに私、人混みが苦手だから、このくらいがちょうどいいです」
 助かった……。

 賽銭箱も例外なく空いていた。前に立つのは三人だけで、大して並ぶことなく、すぐに順番が回ってきた。
「漆崎さんは何をお願いするつもり?」
「そうですね。いろいろです」
 照れ臭そうに微笑む姿がとてもカワイイ。彼女の言う「いろいろ」に恋愛成就は含まれているんだろうか。
「本上さんは何をお願いするんですか?」
「いろいろかな」
「じゃあ、私と同じですね」
 僕たちはお互いの顔を見て笑った。財布から取り出した小銭を、二人揃って賽銭箱に投げ入れた。漆崎さんが先に鈴を鳴らし、 パンパンと両手を二度打って目を閉じる。
 続けて僕が鈴を鳴らして、両手を二度打つ。
 そして目を閉じる。
(神様、正月出勤手当の五百円をお賽銭として入れさせていただきました。どうか、今僕の隣に立つカワイイ女性と付き合えますように! 何卒良き計らいをお願い申し上げます!)
 目を開けて、漆崎さんに視線を移す。
(神様、この女性が……)
 全身の血の気が引く。
「ゲッ!」
 そこにいたのは漆崎さんではなく、丸山さんだった。
「丸山さん、いつからそこに……」
「随分前からいたわよ。本上君と漆崎さんがどこかに行くのが見えたから、つけてきたのよ」
 ストーカーだよ。完全に。
 漆崎さんはと言うと、丸山さんの後ろで苦笑いを浮かべている。
「本上君が漆崎さんに何かするんじゃないかと心配だったけど、本上君に限ってそんなことあるわけないわね。疑ってゴメンね」
「いえ、いいんです……」
「ところで本上君、随分長い間手を合わせていたけど、何をお願いしたの?」

(今僕の隣に立つカワイイ女性と付き合えますように!)

 そう願を掛けたときには、まだ漆崎さんが隣にいたんだろうか。
 それともすでに丸山さんに入れ替わった後だったんだろうか。
 二人の顔を交互に見比べる。

 色白で大きな二重瞼のこっちか……。

 縦にも横にも大きいこっちか……。

 いったいどっちなんだ……。

「もしかして私と同じ願い事だったりして」
 丸山さんがにんまりする。
「そっ……そうかもね……ははっ、はははは」
 自分でも顔が引きつっているのがわかった。

 神様! さっきのお願いキャンセルで!

<了>

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~ Comment ~

あけましておめでとうございます! 

大変久しぶりの更新と偶然の訪問にとても驚きながら、
またとても嬉しく感じています♪
お元気でしたか?

新しい年に相応しい可愛らしい作品ですね。
若い時の初々しさとドキドキした異性との時間を思い出されます。
漆崎さんも魅力的な女の子だけど、丸山さんもいい感じの彼女になりそう♪

新しい年をポップで明るく迎えられました!
ありがとうございます。

今年もよろしくお願いします!

kotanさんへ 

あけましておめでとうございます。
本当にご無沙汰してしまって申し訳ありません。随分と間が空いたのですが、久しぶりに更新しました。
「どうせ誰も読みに来ないだろう」と思っていましたが、もしかしたら「奇蹟的にkotanさんが来てくれるかな~」とは思っていました。
執筆のほうはそれほどですが、元気にしております。

女性は美人もいいですけど、やっぱり気立てのいい人が一番です。
本上君はまだ若いので、それを知るのはずっと後のことかもしれませんね。

今年も超スローペースですが、時折、更新するのでお付き合い下さると嬉しいです。
よろしくお願いします。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

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