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「忙しい人たちへ(掌編集)」
忙しい人たちへ②

『憧れのスポーツカー』

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 どうしてスポーツカーに憧れるようになったかと聞かれると、私にも理由はよくわからない。衝動的に何かを始めたり、興味を持ったりすることは誰にでも経験のあることだと思うが、恐らくその類だろう。
 ただし、理由はなくともキッカケはあった。
 
 小
 
 三十歳の頃、会社の先輩と外回りの途中で入った知らない喫茶店。
 席に着いて注文を済ませると、先輩がマガジンラックから適当に抜き取った雑誌の一つを私に差し出した。私から読ませてくれと頼んだわけでもないし、先輩だって私にどれが相応しいかを吟味したわけじゃなかっただろう。恐らく手に触れたものを「暇つぶしで読め」というつもりで寄越しただけに違いない。
 それは車の情報誌だった。
 スポーツカーは愚か、車も単なる移動の手段としか考えていなかった私は、当然その雑誌をじっくり読むということはなく、パラパラとページを捲る程度にしか見ていなかった。
 ところが、半分を過ぎたところに掲載されていた、メタリックブルーのスポーツカーに私は釘づけになった。
 スポーツカー特有のシャープさの中に適度に曲線が取り入れられた、力強く、美しいフォルムが文句なしにカッコ良かった。夕焼けをバックに高速道路らしき場所を駆る写真は、今にも私のそばを走り抜けていきそうなほどスピード感のあるものだった。
 雑誌を手にした時の心情など忘れ、私はその車の記事を隅から隅にまで目を通した。
 欲しいと思った。
 乗りたいと思った。
 この車で夕焼け空をバックに高速道路をぶっ飛ばしたいと思った。
 気になるお値段は一千万円。言うまでもなく外車だ。
 買いたい気持ちはあったが、当時は結婚したてで、軽四を買ったばかりだった。それも妻の両親が嫁入り道具の一つとして持たせてくれたものだ。
 それ以前に、しがないサラリーマンである私にはそんな大金が出せるわけなかったし、ローンを組めたとしても、維持していくだけの甲斐性もなかった。
 結局、その時は夢に終わった。

 しかし一度欲しいと思うと、なかなか諦められないのが私の悪い癖で、その後もスポーツカーへの興味が薄れていくことはなかった。
 コツコツと金を貯め、いつかスポーツカーに乗ることを目標にしながら、インターネットでカタログを収集して、それを眺めることで どうにか欲求不満を解消していった。
 ただし、ショールームなどに現物を見に行くことはしなかった。店員に言い寄られるのも嫌だったし、欲しい気持ちが抑えきれなくなりそうだったからだ。

 それからしばらくして息子が生まれた。
 これまで以上に金が必要になることは明らかで、その影響は私の小遣いの減額にまで至った。当然、貯金も減った。
 それでもスポーツカーを買うという夢は捨てられなかった。軽四のハンドルを握りながら、信号待ちで時折、隣に止まるスポーツカーをただ羨ましいという気持ちで見る日々が続いた。

 息子が幼稚園に通い始めるようになる頃、今度は娘が生まれた。
 そこで、妻との間に車の買い替えの話が出た。
 絶好のチャンスが来たと言いたいところだが、そうではなかった。
 チャイルドシートを二つに増やすことや旅行などに出掛ける際に荷物を載せるスペースを確保することが主な理由のため、軽四以上に車内が狭いスポーツカーを買いたいとは、とてもじゃないが口にできなかった。。
 チャンスどころか、むしろ、夢の実現はさらに遠のいたと言って良かった。
 新しく買ったミニバンは確かに重宝した。チャイルドシートを二つ装着しても充分な広さがあったし、目一杯荷物を詰め込んでも、苦もなく走れるだけの馬力があった。
 しかしスポーツカーのようなカッコ良さやスピード感のようなものは、当然実感できなかった。

 いつしか子供たちはチャイルドシートが不要になる年頃になったが、その分、学費を始めとする養育費が増えた。残念ながら毎年の昇給は、それに正比例というわけにはいかなかった。
 その頃の私がどうやってスポーツカーに対する欲求不満を張らしていたかというと、テレビゲームとプラモデルだった。「息子につき合って」というのが表向きの理由だが、実際は私のほうが息子以上に熱中していた。
 テレビゲームでは、ハンドル式のコントローラを買って、レースに臨んだ。稼いだ賞金をひたすらカスタムパーツの購入に注ぎ込み、最速のスポーツカーを作り上げることに成功した。
 プラモデルも同じだ。組立書通りに作り上げるのではなく、百円均一などで材料を揃えて、シートに革を張ったり、ライトが点灯する仕掛けを作ったりと、ディティールにとことん拘った。完成したそれを眺め、一人自分が運転する姿を想像してニヤリと笑ったものだ。

 ミニバンに乗り続けること十五年。今度こそ本当のチャンスがやってきた。
 息子が免許を取れる歳になったのだ。言うまでもなく、彼とスポーツカーを共有しようというのが私の目論見だった。

「免許なんて別になくてもいいじゃん」

 息子の言葉に私は目を丸くした。
「ちょっ、ちょっと待て。免許がいらないって……どういうことだ」
「だって俺、別に車が運転したいと思わないし」
「車がないといろいろ不便だぞ」
「そう? 今までそんなの感じたことないけど」
「それはお前が高校生だったからだろ」
「そうかな。行きたいところがあれば電車で行けばいいし」
「電車が走っていないところへはどうやって行く?」
「友達に乗せてもらう」
「友達にって……」
「まあ、身分証明書としては役に立ちそうだけどさ。それならたまに乗る程度なんだから、今ある家の車で充分だし」
 まさに今時の若者らしい発想だった。
「でもな、恋人ができたらどうする? 自分の車くらい持っていないと格好がつかないぞ」
「車がなければ付き合えない女なら、こっちから願い下げだよ」
 息子は自分から相手に条件を付けられるほどのモテ男だったんだと、私はその時初めて知った。
 そこまで言われてしまうと、諦めざるを得なかった。
 
 それからしばらくして、息子は免許を取った。しかしスポーツカー共有の話には、結局、食いつかず仕舞いで、車が必要なときは家のミニバンに乗っていた。

 三年後、今度は娘が免許を取れる歳になった。
 息子と違って行動派の彼女は、高校を卒業すると、すぐに教習所へと通い始めた。
 これなら可能性はあると、私は静かに微笑んだ。

「スポーツカーなんていらないわよ」

 息子の時ほどの衝撃はなかった。
 それはそうだろう。助手席ならともかく、スポーツカーを自分で運転したがる女の子なんてあまりいないことは容易に想像できたからだ。
「だって私、丸っこくてカワイらしい、ピンク色の軽に乗りたいんだもん。それなら共有でもいいよ」
 娘は無邪気に笑ったが、そんなことをしても得するのは彼女だけだ。
「例えば、サングラスを掛けた女性がスポーツカーから颯爽と降りる姿ってカッコ良くて絵になると思わないか?」
「それはカッコいいとは思うけど」
「そうだろ?」
「でも私が目指しているのはそういうのじゃなくて、カワイイ系女子なのよね」
「カワイイ系?」
「そう。だからスポーツカーとかカッコいいなんていうのは、全く不要なわけ。それよりさ、お父さんこそさっきの話に乗らない?」
「さっきの話?」
「お父さんみたいなおじさんがさ、丸いピンクの軽から降りてきたら絶対カワイイよ」
 私は開いた口がしばらく塞がらなかった。

 やがて子供たちは独立し、家を出ていった。
 スポーツカーを共有するという私の目論見は、とうとう果たすことができなかったが、同時にまた買い替えを検討する必要ができた。大量の荷物を積み込むことや家族四人でどこかへ出掛けることがなくなるため、ミニバンに乗り続ける理由もなくなった。
 しかしその時も、スポーツカーは候補に挙がらなかった。というより、挙げることができなかった。六十を過ぎてスポーツカーの助手席に乗る妻の気持ちは容易に想像できたし、この先年金暮らしへと向かっていくことを考慮すると、やはり昔のように軽四を選ぶのが妥当だった。

 小

 その後、ほぼ買い物専用と化した軽四に乗り続けて八年。 
 妻が他界した。六十八歳だった。平均寿命からすれば若いが、私自身もそう遠くないうちに後を追う形になるだろう。
 スポーツカーへの情熱はというと、昔に比べれば、随分と冷めていた。
 しかし乗ってみたいという気持ちはまだあった。
 後数年もすれば、免許の返却を検討しなければならない歳になりながらも、私はスポーツカーの購入へと踏み切った。
 あの時雑誌で見たメタリックブルーのスポーツカー。
 もちろん、同じものを買う金はない。コツコツと貯めていた金も、妻のため、子供のため、孫のためと使っているうちにほとんどなくなった。
 そんな私に買えたのは、国産のスポーツカー。当然、中古で、値段はたった三十万円。随分と型も古い。色だけは同じメタリックブルーだが、美しい光沢はなく、どこかくすんで見える。
 もう妻や子供たちを乗せることはない。
 私一人が満足するための専用車ならば、充分だ。

 十日ほどして、車は自宅へ届けられた。
 それまで乗っていた軽四は下取りしてもらえるため、車を届けてくれた中古ショップの店員が乗って帰った。

「さてと」
 私は一人呟き、滑り込むように車に乗り込んだ。
 長年の夢がいよいよ叶うとなると、年甲斐もなく、胸が躍った。
 運転席に座り、エンジンを掛ける。ブオンというエンジン音が辺りに木霊した。見た目はイマイチでもやはりスポーツカーだ。
 若いときによく聞いていた、ハードロックのCDをプレイヤーに入れる。エンジンと同じ、低くて重い音が車内に流れ始めた。
 クラッチを踏み、ギアをローに入れる。
 スポーツカーと言えば、マニュアル。オートマなんて邪道だ。
 アクセルを踏み、クラッチから足を離した瞬間、エンジンがプスンと停止した。
 エンストだ。なにしろ、マニュアル車に乗るのは教習所以来だ。無理もない。

 それからしばらくエンストを繰り返して、ようやく車が前へと進んだ。
 国道へ出ると、調子に乗って少しスピードを出してみた。アクセルを踏むと、エンジンの回転数が気持ちいいほどスッと上がり、車体が後ろに沈むのがわかる。軽四やミニバンでは味わえなかった感覚だ。
 隣を走る車を次々と交わしていくのは、堪らなく気分が良かった。
 目指すのは海だ。あの雑誌のように、夕焼け空をバックに高速道路を駆け抜けるつもりだった。
 信号待ちで車を止めると、右手に建つマンションが目に入った。
 昔はここにスーパーがあった。結婚したばかりの頃、妻と二人でよく買い物に来た店だ。ここだけじゃない。妻は所謂「ハシゴ」というのが好きで、できるだけ安い物を求めて一日でいろんな店を一緒に回らされたものだ。
 運転は二人交替でするのだが、妻は運転が決してうまいわけではなく、よく車をぶつけた。その度に落ち込むため、慰めるのに随分苦労した。
 昔を懐かしんでいると、後ろからクラクションが鳴った。
 慌てて車を発進させる。
 しばらく走って高速道路に乗った。
 これから目指す海も、家族四人でよく行った場所だ。
 出発したての頃は子供たちも機嫌が良いのだが、車に乗っている時間が長くなってくると、二人とも退屈して狭い車内で騒いだ。
そう言えば、ミニバンが新車のときにジュースを零されて、怒ったことがあった。
 子供たちは随分しょげていたっけな。今思えば、そんなに頭に来ることでもなかったのに。
 道に迷って、妻と喧嘩したこともあった。事前に地図で経路を確認していたのに、渋滞を避けようと私が違う道へ入ったのが原因だ。
 ゴールデンウィークと盆休みは、毎回どこへ行っても渋滞に巻き込まれた。息子や娘がトイレをしたくなってよく困った。サービスエリアで「トイレはいいか?」と確認したにも関わらず、後になってそんなことを言う。
 一番参ったのは、行き先まで半分のところまで来て、妻が忘れ物をしたので戻ってくれと言ったときだ。もちろん、大喧嘩になり、しばらく口を利かなかったほどだ。

 車に乗っていた妻と子供たちの顔が、私の頭の中に浮かぶ。その時に見た三人の表情を今でも鮮明に思い出すことができる。
 憧れのスポーツカーに乗れて、嬉しくて仕方がないはずなのに、なぜ楽しめないんだろう。満足だという気持ちはどこにもない。
 太陽が西へ向かって、少しずつ傾き始めていた。
 帰りはちょうど夕方になるが、例えどんなに綺麗な夕焼け空が見えても、何も感じない気がする。

 今になってようやくわかった。
 私はスポーツカーなんて好きじゃないって。

<了>

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~ Comment ~

NoTitle 

面白かったですけれど、少し寂しく思いました。
せっかくのスポーツカー、楽しんでほしかったな・・・。

山西 サキさんへ 

今回、その寂しさを描きたかったので、とても嬉しいです。
感想ありがとうございました。

ちょっぴりお久しぶりです♪ 

作品一つ一つ、自分に重ねて拝読してしまいます、いつも。

憧れは、もしかしたら最初の内だけで、やがて現実的な幸せの中にある、心のよりどころになっていたのかも知れませんね。
いつか、と言う夢があるから、この現実も生きていける・・・なんて。

私が若い時、廃車寸前のフォルクスワーゲン・サンタナに乗っていたんです。もちろん交差点や渋滞時にエンストは当たり前♪
それに外車ってお金がかかるし~で、結局は廃車。。
でも今思えば、もっと大切に乗ってあげれば良かったと後悔しています。

感染性胃腸炎で寝込んでおりましたが、復活です!
私の田舎もすっかり春めいて、元気になりました♪

kotanさんへ 

夢や憧れって大切ですよね。
そして実現したり、近づいてしまったりすると、「思ったほど」ってこともよくあったりします。
そう考えると、夢や憧れはそのままでいいのかもしれない。

私はニュービートルが好きで欲しいのですが、やっぱり外車を買うのは覚悟がいりますね。
今は軽に乗っていますが、家族が増えたので、次は国産のミニバンで考えております。
定年したらニュービートルに挑戦しようかなあ~。

更新しても来てくれなかったので、寂しかったです。なんて。笑。
胃腸炎だったのですね。もう治られたということで安心しました。
春、心躍る嬉しい季節ですね。
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