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「忙しい人たちへ(掌編集)」
忙しい人たちへ①

『キッカケをください』

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「あれ? 野上じゃん」
 堤防の上から俺が名前を呼ぶと、野上は慌てた様子で振り返り、目の前を流れる川に向かって何かを放り込もうとしていたのを止めた。
 野上と俺は、同じ高校のクラスメイトだ。
 と言っても、それほど仲がいいわけでもない。
 傾斜のついた芝生を駆け降りて、野上のそばへ行くと、彼女は手に持っていたそれを後ろに隠した。
「それ、何だよ?」
「別に」
「田辺には関係ないよ」と、野上は首を横に降る。一つに束ねた後ろ髪が揺れる。
「もしかしてさ、チョコか?」
 俺の言葉に野上は顔を赤くする。
「知ってて聞いたの?  意地悪なんだね」
「いや、それは誤解」と、俺は慌てて否定した。
「リボンの付いた箱がチラッと見えたんだ。今日はバレンタインだから、もしかしたらって」
「そっか。そうだよね」と、野上は呟くように言って、隠していた箱を見せた。右掌に乗る小さなもので、赤い包装紙に銀色のリボンが結んである。
「受け取ってもらえなかったのか?」
「うん。好きな子がいるからって」
 野上は寂しげな目でチョコの箱をじっと見つめる。
「一年の時から好きでさ、覚悟を決めるのにすごく時間が掛かったんだよ。チョコだって手作り。でもね、失恋するのは一瞬」
「空しいよね」と、野上は笑ったが、表情で強がっているのがわかる。今にも泣き出しそうだ。
「それでチョコを川に捨てるつもりだったのか?」
 野上は唇を噛んで、黙って頷く。「田辺には関係ない」と言っていたのに、本当は誰かに聞いてもらいたかったに違いない。
「ショックだよな」
「うん」
「でもさ、川に捨てるのは良くない」
「そうね。川が汚れるよね」
「うん。それに勿体ないじゃん」
「食べられるもんね」
「いや、そうじゃなくてさ」
「ん?」と、野上が首を傾げる。
「野上の気持ちが込もっているからだよ」
 俺の言葉に、野上はハッとしたような表情を浮かべ、「ありがとう」と、照れ臭そうに笑った。
「田辺とは今まであんまり話したことなかったけど、結構いい奴なんだね」
 そんなふうに言われると、俺も恥ずかしくなる。それに次の頼みごとがしにくくなる。
 少しだけ話題の方向を変えてみる。
「けどさ、女子はいいよな」
「何が?」
「バレンタインっていう告白のためのキッカケがあるから」
「どういうこと?」
「告白する勇気がない奴にとっては、バレンタインみたいに背中を押してくれる何かがあるのはいいよなってことだよ」
「なるほどね」と、野上は頷いた後、あはははと実に楽しげに笑った。
「それって田辺のことでしょ? 結構気が小さいんだね。男だったらさ、バレンタインに頼らなくても告白くらいできなくちゃ」
「そりゃそうだけど……やっぱりフラレるのは怖いよ」
「ふーん。好きな子、いるんだ」
 野上が悪戯っぽい目で俺の顔を覗き込んでくる。幼い子供のような表情が可愛らしくて、ドキッとしてしまう。
 俺は慌てて目を逸らす。
「まあな」
「それじゃあ、頑張らないと」
「そうだな」
「私さ、そろそろ帰る。ありがとう。何か田辺と話して、少し元気が出た」
「じゃあね」と、背中を向ける野上を慌てて止めた。
「あっ、野上」
「何?」
「もし良かったらさ……」
「うん」
「そのチョコ……俺にくれないか?」
 思ってもみない言葉だったのだろう。
 野上は目を丸くしている。
「でもこれは田辺に渡すつもりで作ったんじゃないし……悪いよ」
「どうせ川に捨てるつもりだったんだろ?」
「そうだけど……」
「さっきも言ったけど、勿体ないよ。せっかく野上が作ったんだし」
 野上は何も言わずに下を向く。
「それとも俺にやるくらいなら、ここの鯉にやるほうがマシか?」
 意地の悪い言いように受け取られないよう、「もしそうなら諦めるよ」と付け足して俺は笑ってみせた。
 野上はしばらく悩むような表情を浮かべた後、渋々といった感じで、俺にチョコを差し出す。
「そこまで言うのなら、あげる」
「へへ、ありがとう」
 野上のチョコを受け取ると、かすかに彼女の温もりを感じた。
「あんたってさ、ちょっと変わってるよね。人にあげるつもりだったチョコが欲しいなんて」
「そうか?」
「まっ、いいけど。でも私がチョコをあげたことは内緒にしておいてね」
「わかってる」
「あと、私がフラレたこともね」
「もちろん」
「じゃあ、また」
 そう言って手を振った野上の顔は、河原で見つけたばかりのときより、ずっと明るいものになっていた。
 小さくなっていく野上の背中に、今はまだ言葉にできない気持ちを、俺はそっと伝えた。

(本当はさ、野上の作ったチョコだから欲しかったんだよ)
 
 本命でも義理でもないけど、もらったからにはお返ししろよ。

 掌に乗せた小さなチョコの箱を見つめて、俺は自分にそう言い聞かせた。

<了>

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~ Comment ~

バレンタイン~♪ 

かわいらしい作品!
女子高出身の私には、羨ましいな~。
作品の中でいくつかのキッカケがありますね。
告白のキッカケも素敵だけど、切ない気持ちを晴らすキッカケも良いけど・・・田辺君の奥にある想いを呼び起こしたキッカケが何より最高♪

バレンタインはどうでしたか?
我が家は特に何もなく・・・過ぎてしまいました。
何もなく、普段が一番サイコー!何て、言い訳ですかね。。
バレンタインにときめく遠い過去でも思い出そうかな~。

また遊びに来ますね♪

kotanさんへ 

いえいえ、共学でも勇気のない私は、いつも仲良さそうにしている男子と女子を羨ましそうな目で見ているだけでした。
バレンタインってキッカケのある女子をいいなって、その時は本当に思っていました。

ウチもこれと言って特に。です。
カミさんと母から市販のチョコをもらったくらいです。笑。
会社の女性社員はハナから眼中にないようですし。

そんな私だったので、バレンタインの記憶は苦いものしかないです。><。

また来てください~♪
 

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鍵コメさんへ 

あー! まさか読んでいただいたとは……。
まだ前編にコメントがなかったので、大丈夫だろうと思っていました。
某コンテストに出すつもりなので、非公開に変えてました。

まだ締め切りまでに時間があるので、「公開」に戻しておきます。
スミマセン。汗。
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