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相方よ

『相方よ』 -最終回-

 ←『相方よ』 -3- →『キッカケをください』
 しかし私たちの目標は永遠に実現しないものとなった。
 まさに夢にも見ない不測の事態が起きた。
 大村が交通事故で亡くなったのだ。
 葬儀には、校長と担任、クラスメイト全員で出席した。
 棺で眠る大村に向かって私は心の中で声を掛けた。
(アホか、お前。なんで死んどんねん。一緒に漫才師になるって約束したやろ。こんなことしても、誰も笑うてくれへんわ)
 大村は何も答えてくれなかった。
 私にも当然友達が何人かいた。皆、大村よりも付き合いが長くて、仲のいい者ばかりだった。
 大村を友達だと思ったことは一度もなかった。大村は単なる友達という言葉ではいい表せない、特別な存在だったからだ。
 葬儀が終わって、斎場を出ようとしたところで、大村の母親に「畠山君」と声を掛けられた。
「文化祭の漫才、見せてもろうたよ」
「はい」
「あの子、えらい喜んどったんよ。やっとええ相方に巡り合えたって」
 目を赤くし、鼻を啜りながら話を続ける大村の母親の姿に、私は胸が詰まり、ただ「はい」と返すことしかできなかった。
「あの子が言うたように、畠山君と漫才しているときは、ホンマに生き生きしとったわ。二人で漫才師になろう思うてたのにな……ゴメンね、ありがとうね」
 大村の母親がハンカチで目元を抑えるのを見て、私はついに堪えきれなくなって、涙を零した。

 小


 その後、私は受験勉強を始めた。大村がいないのであれば、タレント養成学校へ行っても意味がないと思ったからだ。
 しかし精神的なダメージは大きく、翌年は浪人生として過ごすことになった。
 次の年にどうにか四年制の大学に合格し、卒業後は一般企業に就職した。
 漫才に関しては、テレビで見る以外は全く無縁の生活を送ることとなった。

「こいつら、漫才師や言うとるけど、大しておもろうないな」
「そう?」
「その証拠にトーク番組とかの司会はやってへんやろ? ホンマにおもろい奴はそういうのも任せてもらえるはずや。その場の思いつきで皆を笑わせることができるからな」
「ふーん」
 頭が固くて、お笑いというものにほとんど興味のない妻は、私がそんなふうに語っても、理解ができないというようなリアクションを返すだけだった。ボケてもツッコんでくれないし、自分からボケることもない。容姿もそこそこで、家事もそつなくこなすが、私にとってはやはり物足りなかった。
 大村の遺志を継いで、もう一度漫才師を目指したこともあったが、彼以上の逸材は見つけることができなかった。
 
 しかし私の目の前に、その大村に匹敵する男が現れた。
 こいつとならきっと漫才師になるという夢……いや、目標を共に実現することができると私は確信した。
 まだまだ子供だが、みっちりと鍛え上げれば、モノになる。
 そう考えた私は、彼に「お笑い」というものを一から仕込んでいった。
 時間は随分とかかったが、彼は私の期待に見事応え、一人前の漫才師を目指すのに恥ずかしくない力を身につけた。
「これはいける」と思い始めたときに、また私の邪魔をする者が現れた。
 
 妻だった。
「いい歳して、何を夢みたいなこと言うてんの」
「歳は関係ないやろ。それにこれは夢やない。夢はいつか覚めてしまう現実味のないものやけど、俺らにとって漫才師になることは、努力すれば成し遂げられる目標や」
 妻は溜息を零しながら、首を横に振った。
「そんなもん、いったいどれだけの可能性があるねん」
「やってみなわからんやろ」
 あの時と同じだ。
「可能性は決して高くはないやろ。そりゃあんたはその僅かな可能性に賭けてるんかもしれへんけど、あの子はどないするの?」
 妻の言う「あの子」というのは、相方のことだ。
「あんた一人で盛り上がってるだけちゃうの? ホンマにあの子は漫才師になりたいって思ってるんか? 趣味でやってるだけかもしれへんやろ」
「それは俺がちゃんと確認する。先にお前の意見だけは聞いとこうと思ってな」
「私は反対や」
「あいつが望んでててもか?」
 私の問いかけに、妻はしばらく返事をしなかった。即答をしない分、母よりはマシだったかもしれない。
「先にあの子に確認して。話はそれからや」
 そう言って、妻は話を切り上げた。
 
 私は早速彼にその気があるのかを尋ねてみることにした。
 これまで漫才をしてきたのは、知り合いや身内の前、町内会の飲み会の余興というごく小さな場所のみだったが、彼は一度も「イヤだ」と言ったことはなかったし、私の目から見ても楽しんでいるように見えた。
 しかし本気で漫才師を目指すとなれば、どうだろうか。
 妻が言うように、彼にとってはあくまで趣味でしかなく、他にやりたいことがあるのかもしれない。
 もしアイツの答えがそうなら、私は諦めるしかない。
 私を漫才に誘った大村の心境がその時になってわかった。
 
 彼の部屋で、私と彼は小さなテーブルを挟んで、向かい合せに座った。改まった雰囲気に、彼は少し緊張気味だった。
 そしてそれは私も同じだった。
「お前、本気で漫才師を目指す気はあるか?」
「なんや唐突に」
 彼が戸惑ったような表情を浮かべた。
「俺が昔、漫才師を目指してた話は何度かしたよな?」
「うん。一緒に漫才をしてた人が事故で死んでもうて、諦めたんやったよな?」
「そうや。諦めたつもりやった。でもな、お前という才能のある人間に会うて、もう一回漫才師を目指してみたくなったんや。お前、漫才嫌いか?」
 彼はすぐに答えなかった。静かに下を向き、あれこれと考えを巡らせているようだった。
しばらくして彼が口を開いた。
「好きやで。やってておもろい。せやけど……本気で漫才師になるかって言われると、正直、自信はないな。俺って、ホンマにおもろいんかなあって」
 昔の自分を見ている気がした。
「さっきも言うたけど、お前には才能があるんや。皆の前で漫才やったこと、思い出してみ、よう笑ってくれてたやろ?」
「そりゃ、そうやけど……」
そこまで言っても、彼は首を縦には振らなかった。
「何か他にやりたいこととかあるんか?」
「いや……まだ今はわからん。大学出たら、とりあえず就職しようかなって思ってる」
「そうか……それやったら、大学卒業するまで俺にチャンスをくれ。もしその間にお前がやりたいことを見つけられたら、そっちを目指してくれたら構へん」
 苦肉の策だった。しかし彼の人生を決める資格は、私にもない。
 ただ、彼に私の気持ちだけはちゃんと伝えておこうと思った。 
「俺はお前やから一緒にやりたいねん。お前以外の奴とやるつもりはない。お前に断られるんやったら、諦めるしかないんや」
 かつて、私が大村からもらった言葉だった。
 彼は私の目を真っ直ぐに見る。
 これでもノーだと言われたら、私は何と言えばいいだろう。
「もしうまくいったら、アイドルと結婚できるかも知れへんで」
 私がそう言うと、彼は鼻を鳴らした。
「ふん。そんなことで俺が転ぶと思ったら……」
 そこで彼は、床にワザとらしく転んだ。
「転んどるやないかい!」
 それが彼の答えだった。
 こうして私と彼は、漫才師を目指すことになった。
 
 小


 漫才師を目指すと決めた二人にとっての初舞台が、この夏祭りの余興だった。
 司会者がステージに上がり、私たちの紹介を始めた。
 いよいよ出番だ。
「そしたら、いつものやるぞ」
 私の言葉に、彼が景気良く「おう」と答える。
「日本で一番おもろいのは?」
「俺らや」
「世界で一番おもろいのは?」
「俺らや」
「宇宙で一番おもろいのは?」
「俺らや」
「この世で一番おもろいのは?」
「俺らや」
「よし。それを証明してやろうや」
 二人揃って、勢い良くステージへと駆け上がると、観客の大きな拍手が私たちを迎えた。
 胸が高鳴っていた。
 アガリ症はいくつになっても、何度場数を踏んでも、直りそうもない。しかしそれは緊張のせいだけではない。それ以上に、再びこの場所へ帰って来れたことに興奮しているのだ。
「どうもー、モン☆ペアレンツです」
 声を合わせて自己紹介を済ませ、まずは彼が話し出す。
「いやあ、皆さん、このクソ暑い中、僕らの漫才にお集まり下さってありがとうございます」
これまでにない大きな舞台にも関わらず、彼のしゃべりに淀みはない。
「僕らね、えらい歳の差あるように見えるでしょ? 実際、歳の差は三十なんですよ。どういう関係に見えます? 親子なんですよ」
 次は私の番だ。
「私が息子の弘志です」
「そう。僕が父親の……なんでやねん! 逆や逆! ボケとんのかい」
「そら、この歳になったら、ボケもするで。足が震えとるのも、緊張しとるからなんか、歳やからなんかわかれへんわ」
場内が湧く。
 そこで私は観客の中に、妻の姿を見つけた。
 思わず笑みが零れる。
「勝手にすればええ」と、半分ヤケクソ気味に言っていたが、ちゃんと観に来てくれていたようだ。
「僕がなんで漫才始めたか言うとね、高校のときに、大村いうおもろい奴がおったんですわ」
「ほう。そりゃまたエライ古い話やな。どんな奴やったん」
「天パに黒縁の丸眼鏡掛けてたわ」
「なんや、生まれながらにして芸人のような男やな」
「そうやろ? そいつに誘われたんがキッカケや。お前には才能がある言うてな。ほんでマクドのテリヤキバーガー奢ってもらった」
「安っ!」
「ポテトとコーラもついてた」
「それ、バリューセットや! お買い得や!」
「あと、スマイルもつけてくれたわ」
「無料やがな!」
 息子の右手が、私の胸をバシッと叩くと、再び場内が笑いに包まれた。

 大村、見てるか。
 俺、コイツと漫才師目指すことにしたけど、ええよな?
 
 どれだけ耳を澄ましても、大村の「なんでやねん!」という声は聞こえてこなかった。

<了>

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~ Comment ~

お疲れ様でした! 

連載、楽しかったです!
素晴らしい相方を見つける事ができて良かった~♪
大村さんが亡くなったのはとても驚きで残念でしたが、それでも諦めきれない夢を抱き続けて、最高の相方を見つける事ができました。
自分の息子に才能を見いだせるって、本当に素敵な事だと思います。
言いたい事をガンガン言われそうですよね、息子さんに!

私も10代の頃はバレリーナを目指して日々レッスンをしていました。
でも19歳になった時、自分には才能がないと、続けていても無駄なのだと思い、パッタリと長年続けていたバレエを止めてしまいました。

努力と才能、どちらも必要なのは、漫才師もバレエも一緒なのだと思います。

素敵なお話をありがとうございます!

kotan さんへ 

そうですね。大村の死はとても残念でした。
でも息子も彼と同じくらいお笑いのセンスを持った青年に育ちました。
きっと大村も許してくれると思います。

kotanさんはバレエを……スゴイですね。
努力だけではどうにもならないことってありますもんね。
私にも心当たりがあります。

今回も最後までお付き合いくださってありがとうございました。
まだまだ続けていくので、これからもよろしくお願いします。
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