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相方よ

『相方よ』 -3-

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 文化祭が終わったことが、私たち三年生は進路について真剣に考えるきっかけとなった。早い者は二年の終わりから大学や公務員試験に向けて勉強を始めていた。
 私も四年制の大学へと進学するつもりだったが、大村は本気で漫才師になることを望んでおり、タレント養成学校へ行かないかと私を誘ってきた。そこは卒業生の多くをお笑い芸人や漫才師として輩出している、言わずと知れた有名校だった。
 大村の気持ちはわかるが、私はすぐには「わかった」とは言えなかった。
 もちろん、「人前で話すのが苦手だから」や「うまくいく自信がないから」といった理由からではない。
 悩みの種は両親だった。
 私の両親は決して厳格な人たちというわけではなく、「自分の好きなことをやればいい」といつも言っていた。
 しかし漫才師になりたいとなれば、話は別だろう。人気が出るまでは随分と貧しい暮らしをしなければならないらしいし、仮にデビューできても、その後ずっと続けていけるかどうかも定かではない。
 苦労や不安が付きものであることは、誰の目にも明らかだろう。
「お前が決めた道なら」と、子供を応援してくれる親もいるが、少なくとも私の両親は、普通に大学を出て、会社員になることを望んでいた。もちろん、会社員になってもすぐに辞めてしまったり、会社自身が倒産してしまったりすることもある。つまりどちらが正しいかなんてわからない。問題は一般的な可能性なのだろう。
 両親の希望に従って安心させたい気持ちもあったし、一方で大村を落胆させたくない気持ちもあった。
 それだけではない。あんなに引っ込み思案だった私が、大村と漫才をしているうちに、自分がどこまで通用するかを試してみたいと思うようになっていたのだ。
(とにかく一度話してみよう)
 私は覚悟を決めた。

「そんなもんあかんに決まってるやないの」
 それが母の答えだった。「なあ、お父さん」という問いかけに、父も黙って頷いた。
「確かに皆、お金ようさん稼いで、ちやほやされて華やかに見えるけど、あんたはそこしか見てへんやろ。あそこまでなるのにどんだけ苦労するか、わかるか?」
 はっきり言ってわからなかった。そう言う母だって、きっとわかっていなかったはずだ。
「せやけど、あんたのやりたいことやったらええって、いつも言うてるやん」
「そりゃ、もちろんそうやけど、漫才師なんて……そんな苦労することが目に見えてることを、お父さんもお母さんも賛成できへんわ。夢みたいなこと言うとらんと、もっと現実的なことを考えや」
 吐き捨てるように母は言って席を離れた。そこで話は打ち切りになった。父は最後まで無言で頷いているだけだった。
 
 それ以降も、二度、三度と私は両親を説得しようとした。しかし結果は同じ、ノー以外の答えはもらえなかった。
 次は大村にそのことを告げるという、気の重い仕事を果たさなければならなかった。大村の進路にも関わることのため、翌日に話をした。先伸ばしにすれば、余計に言い辛くなるとわかっていたからだ。
 私も本気で漫才師を目指したかったこと、何度もしつこく食い下がったこと……くどくどとしゃべり過ぎると、言い訳じみてしまうと思ったため、できるだけストレートな言葉を選んで謝った。
「そうか。まあ、親の言うことは無視できへんもんな」
 気にすんなやと、大村は笑って私の肩を叩いた。
 思ったよりあっさりと引き下がったため、何だか拍子抜けした感じだった。

 翌日、夕食を終えて自分の部屋で宿題をやっていると、父が尋ねてきた。
「ちょっと話があるんやけど、入らせてもらってええか?」
 とても珍しいことだったので、少し驚いたが、拒む理由もなかった。父はベッドに腰掛けて、「お前も座れ」と、私に椅子を勧めた。
「お前、ホンマに漫才師になりたいんか?」
「えっ?」
 父の意外な問いかけに、私はすぐに言葉が出てこなかった。その件はすでに解決……というか、終わってしまったはずだった。
なぜ今更そんなことを尋ねるのか。私にはまるでわからなかった。
「どうや?」
 父にも何か思うところがあったのだろうか。ここは正直に答えるほうが得策だと感じた。
「なりたい。俺、大村と漫才やるまで人前で話すのとか苦手やった。でも今ではそれが楽しくて仕方ないねん」
 父はいつものように黙って頷くだけだった。
「おかんは夢みたいなことって言うけど、やってみなわからんし……自分がどこまでできるか試してみたい。それにもし上手くいかんかったとしても……なんていうか、何かしら成長できる気がするねん。だから……えっと……何やろ……」
 もっともっと父に伝えたいことがあるのに、思うように言葉が出て来ず、とても歯痒かった。
 黙っていた父が口を開いた。
「確かにお前の言う通りかもしれんな。俺が思っている以上に、お前は成長してるみたいやしな」
 そう言って微笑む父の目は、とても優しいものだった。
「実はな、昨日、大村君に会うたんや」
「えっ、大村に?」
「そうや。家の前で俺が会社から帰ってくるのを待ってたんや」
 それは私の全く知らないことだった。今日も大村と話をしたが、アイツはそんなことを一言も言わなかった。
「どうしてもお前と漫才がしたいって言いに来たんや。それができへんのやったら諦める。他の奴とやる気はないって……えらいお前のことを買ってくれてるみたいやな」
 かつてアイツが私に言った言葉だった。
「僕らが見ているのは夢やない。夢はいつか覚めてしまう現実味のないものや。僕らにとって漫才師になることは、努力すれば成し遂げられる目標やって、そう言うてたわ」
 私が上手く言い表せなかったこと……アイツはきっと何の予行演習もなしにさらりと言ってのけたに違いない。
 やっぱりアイツには勝てない。
 そう思った。でもそれが堪らなく嬉しくて、私は自然と笑みを零していた。
「ええ友達やな」
 父はすっと立ち上がり、私の肩を叩いた。
「お前の漫才を見るの、楽しみにしてるわ」
「えっ……、ほんならええんか! 大村と漫才続けても……」
「お前らの目標やろ?」
「せやけど、おかんが……」
「お母さんのことは俺にまかせとけ」
 そう言って、父は目を細くした。
 
 母が父の説得をすんなりと承諾したのかどうかはわからないが、私は晴れて漫才師を目指すことができるようになった。
 もちろん、それも全て大村のおかげだったことは言うまでもない。
 私と大村は手を取り合って喜んだ。二人とも「絶対に漫才師になれる」と、信じて疑わなかった。

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