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願い集うとき

『願い集うとき』 みんなの願い -後編-

 ←『願い集うとき』 みんなの願い -前編- →『時間ができたら』
腹ごしらえを終えた隆文と陽太は、先程の広場でサッカーをしていた。まずは陽太が苦手とされるドリブルから始め、今はパスの練習をしている。
 隆文は陽太のパスを右足で受け止め、「よし」と頷いた。
「次はドリブルをしながらのパスだ」
「うん」
「とにかく今はボールを取りこぼさないことに集中するんだぞ」
「うん」
 練習と言っても、しごきのような厳しいものではなく、隆文の口調も優しいため、陽太は楽しんでやっていた。
「行くぞ」
 隆文の掛け声で陽太は走り出したが、隆文は動かなかった。陽太も少し走って足を止める。
「どうしたの? お兄ちゃん」
 隆文が遠くを見ている。陽太も同じ方向へと視線を移す。
 二人の女性が、樹木を一本ずつ順に眺めながら歩いている。ちょうど親子ほどの歳の差だろう。
 隆文は気になったので、ボールを陽太に渡して、二人のそばへと駆け寄った。陽太もボールを手に持ち変えて、隆文に続いた。
「どうかされましたか?」
 隆文が突然話し掛けたため、、女性二人は驚いた表情で、一斉に振り返った。
「ハウチワカエデという木を探しているんです」
 若い女性のほうが少し戸惑ったように答える。
「ハウチワカエデか……駅前のほうの出口辺りにモミジは植わっているけど、ハウチワはなかったな」
「そうですか……」
 返事をしたのは若い女性だか、隣にいる年上の女性が落胆するのが、隆文にははっきりとわかった。
「どのくらいの大きさのものがいいんですか?」
「大きさには特にこだわらないです」
 今度は年上の女性が答える。
「ここじゃなくてもいいのなら、植わっている場所を知っていますよ」
「本当ですか?」
 女性二人の顔がパッと明るくなる。
「ええ。今は紅葉の時期でどこも人がいっぱいですけど、そこはこことそう変わらない程度の、小さな公園ですから、気楽に見れますよ」
「良かったですね。和枝さん」
 若い女性が目を細くする。一見すると、しっかり者で気が強そうだが、その笑顔は親しみの湧く優しげなものだった。
「少し遠いので、良かったら僕が車で案内しますよ」
「いいえ、場所だけ教えていただけたら……」と、和枝は遠慮した。
「いいじゃないですか。連れて行ってもらいましょうよ。私も紅葉が見たいなって思っていたんです。皆で行けば楽しいですよ。きっと」
 若い女性の声が弾んでいる。
「それに悪い人には見えないし」
「ねっ」と、女性が陽太を見て微笑む。
 黙って頷く陽太の姿に、和枝も安心したのだろう。「樹里さんがそう言うのなら」と、固い表情を崩した。
「それじゃ、お願いします」
 樹里が頭を下げると、和枝もそれに倣った。

小

 それから十分ほどして、隆文が紺色のミニバンに乗って戻ってきた。
 助手席に陽太、後部座席に和枝と樹里が乗り込んだ。
「これ、皆で分けて下さい」
 隆文が暖かいお茶の入ったコンビニのレジ袋を差し出す。三人がそれぞれ順に礼を言って、お茶を受け取る。
 気の利く人だなと、樹里は改めて隆文に対して好印象を抱いた。
 車が静かに走り出す。
 隆文の言う公園はここから車で三十分ほどだ。
「お二人は兄弟なんですか?」
 樹里が尋ねる。
「いいえ、つい先程知り合ったばかりなんです」
「そうなんですか?」
「この子が一人で遊んでいるのを見て、かわいそうなんでサッカーの練習に付き合ってやることにしたんです」
「本当はもっと複雑だけどね」
 陽太がわざとらしく不満げに口を挟んだので、樹里と和枝が笑った。
「複雑ってどんなふうに?」
 和枝にそう聞かれて、陽太は自分のことを話し始めた。忙しい父親のこと、日曜日は遊び相手がいないこと、隆文と知り合った時のこと。
「そうなの。陽太君はお父さんのこと、嫌い?」
 陽太の話を聞き終えた和枝が、優しい顔で尋ねる。
「嫌いじゃないけど、もう少し構って欲しいかな」
 陽太が口を尖らせる。
「寂しいのね」と、和枝はしみじみとした口調で呟く。
「隆文さんって優しいんですね。そんな陽太君の遊び相手になってあげるなんて。ねえ、和枝さん」
 樹里が同意を求めると、和枝が「そうね」と頷いた。
「でもあなただって優しい人よ。私が一人でハウチワカエデを探していたら手伝ってくれたんだから」
「改めてそう言われると、少し照れ臭いです。木を眺める和枝さんがどこか寂しげに見えたんです」
「僕も陽太に対して同じ気持ちでした。何となく放っておけないと言うか……そう言えば、和枝さんはなぜハウチワカエデを探しているんですか?」
「前に住んでいた家に植わっていたの。大きな敷地じゃないから、木はそれ一本だけだったんだけどね」
「もしかして特別な意味があったんですか?」
「ええ。娘の誕生の記念に植えたのよ。その名前にちなんで」
「楓ちゃんですか?」
「そう」
 樹里が目を細くする。
「いい名前ですね」
「でもね……」と、和枝は表情が曇らせて、娘が亡くなった時のことを語った。三人はそれに、静かに耳を傾けた。
「不思議なことに、あの子が亡くなると、木も育たなくなってね。しばらくして枯れてしまったわ」
 和枝が少しだけ笑う。
 その表情にはどんな思いが込められているのだろう。
「それからはカエデやモミジの木を見るのが辛くなって……紅葉を見に行くのもずっとやめていたの」
「そうだったんですか……でも、それならどうしてまた?」
 三人の疑問を、隆文が代表して言葉にする。
「主人も亡くなってしまったし、いよいよ独りで生きかなくてはならないからね。悲しい過去とも向き合って、強くなるっていう覚悟かしら」
 和枝の、切なくも強い決意の言葉に、車内がしんと静まり返った。
 沈黙を破ったのは、陽太だった。
「一人じゃないよ」
「えっ?」
「今日、三人も友達ができたじゃん」
 無邪気な陽太の言葉に、和枝が微笑む。
「そうね。ありがとう」
 車内を漂う少し重たい空気が軽くなるのを、隆文も樹里も感じた。

小

 たどり着いたのは、川沿いの住宅街のそばにある公園だった。シラカシやタイサンボク、ヤマモモといった常緑樹をメインに、ハナミズキやサルスベリなどの落葉樹がアクセントで植えられている。
「あそこに一本、イロハモミジに紛れてハウチワカエデが植わってますよ」
 隆文の言うように、公園の隅、シーソーの向こう側に、紅や黄色に色づく葉を付けた木が何本か見える。
 他には見物人もおらず、じっくり見ることができそうだ。
 一番始めに木に近寄ったのは、陽太だった。落ちて間もないと思われる落ち葉を拾い上げて、仰ぐ真似をする。
「本当に団扇みたいだね」
 その姿を見て、和枝が涙ぐみながら笑う。
「楓も同じように遊んでいたわ」
 娘のことを思い出し、辛くて泣いているわけではない。どちらかといえば、娘と過ごした時間を懐かしむ気持ちから浮かべた涙だ。
 少し離れた場所からその様子を見ていた樹里も胸を熱くした。
「連れてきてあげて良かったよ」
 隆文が樹里にそっと囁く。
「そうですね。それにしても、ここにハウチワカエデが植わっているってよく知っていましたね。余程印象的だったんですか?」
「いえ、そうじゃないんです。この公園の木は僕が管理しているんです」
「えっ?もしかして植木職人さんですか?」
「そうです」
「へえ、スゴい!素敵じゃないですか!」
 樹里が体を乗り出してくる。
「そっ、そうですかねえ……」
 思ってもみない樹里の反応に、むしろ隆文のほうが戸惑った。
「でもね、そんな仕事大丈夫?って言う人もいるんですよね」
 隆文は、昨日真由に言われたことを樹里に話した。経済的なこと、年齢的なこと、肉体的なこと……ただし、プロポーズして、フラれてしまったことは内緒だ。
「そんなことがあったんですか……でも、今の仕事は隆文さんが誇りを持ってやっているんでしょ?」
「そうですね」
「だったら気にすることはないですよ。自分の仕事に胸が晴れるって立派です。それに比べたら、私なんて……」
 樹里が小さく萎んでいくのが、隆文にはわかった。
「仕事のことで悩んでいるんですか?」
 樹里が黙って頷く。
「話してみたら?」
 いつの間にか和枝がそばに立っていた。二人の話を聞いていたようだ。
「それだけでも随分と楽になるわよ」
 その優しい顔に、樹里は母を重ねる。
「じゃあ、聞いてもらおうかな」
 樹里は、うまくいかない仕事について話した。好きで始めたこと、自分には向いていない気がすること、母に見栄を張ってしまったこと。
「辞めたい気持ちもあるけど、もう少し頑張りたい気持ちもあるんです」
「樹里さんが頑張りたいのは、仕事が好きだから?それともお母さんに対する意地かしら?」
 和枝の問いかけに、樹里が答えるまでには少しだけ沈黙の時間が必要だった。
「好きじゃなくなりかけているかもしれません。ある意味、母への意地のおかげで続けられている気もします。でもそれ以上に……」
「それ以上に?」
「悔しいんです。このまま終わりたくないって」
「だったら続けるべきよ。辞めるのは、この仕事が好きじゃないって思ったときでもいいんじゃないかしら。見栄や意地だけで続けていくほどつまらないことはないでしょ?」
「そうですね。ありがとうございます。どうするべきか迷っていて、自分では決められなくなっていたんです」
 樹里の顔がパッと明るくなる。
「あなたは負けず嫌いで、頑張り過ぎるところがあるようね」
「人にはよくそう言われます。あの……和枝さん」
「何?」
「またこうして話を聞いてもらえますか? 仕事意外のことも」
「私、人生経験がそれほど豊富じゃないから、聞くだけになると思うけど……」
「別にアドバイスが欲しいとか、どちらが正しいか教えて欲しいとかじゃないので、それで構いません」
「だったら、いつでも話して」
 和枝の言葉に、樹里は気持ちがすっと楽になるのを感じた。
「ねえ、これ見てよ」
 得意げにそう言うのは、陽太だ。両手一杯に落ち葉を抱えている。カエデやモミジだけでなく、イチョウの葉も混じっている。
「よく集めたな」と、隆文が関心する。
「公園中探し回ったんだ」
「そんなに集めてどうするんだ?」
「こうするんだ」
 隆文にも、樹里にも、和枝にも、陽太が何を企んでいるのかが、まるで予想がつかなかった。
「せーの」の掛け声と共に、陽太が落ち葉を天高く放り投げた。
 全員の視線が一斉に、少し寂しげな秋の空に向く。
 ひらり、ひらりと静かに、ゆっくりと舞い落ちる紅や橙の葉の中に、四人はお互いの顔を見つけ、それぞれの思いを馳せる。
 流れゆく星に願いを捧げた、あの夜のように。

<了>

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