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「忙しい人たちへ(掌編集)」
忙しい人たちへ①

『正義の味方』

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 駅からやや離れた通りに一軒の喫茶店がある。
 店の名は『ザ・ヒーロー』
 店内には、マスターの趣味である、特撮ヒーローのフィギュアやグッズがガラスケースに入れられて並んでいる。壁には大型テレビが据え付けられ、常時ヒーローものの映像が流れている。
 地元のヒーローオタクはもちろん、はるばる遠方からやって来て、仮面ライダーの等身大フィギュア、並びにマスターと写真を撮って帰る者もいる。
 産まれた時からこの街で暮らす若者、本庄隆史も『ザ・ヒーロー』の常連客の一人だ。高校三年生の時に仮面ライダ一1号の存在を知って以来、仮面ライダーシリーズにはまった。ファン歴は十年近くになる。「若いのによく知っているなあ」と、その世代の人であるマスターを唸らせるほどのライダーオタクだ。
 そんな本庄にとってマスターとのおしゃべりは堪らなく楽しい時間だった。休み前の金曜日には必ず、会社帰りにコーヒーを飲みに行く。
 しかし必ずマスターがいるとも限らない。彼は急な外出が多く、店の切り盛りは大抵アルバイトの星と大文字の二人がやっている。
 いつものように、ガラス張りのドアを開くと、「いらっしゃい!」というマスターの景気の良い声が聞こえてきた。
 どうやら今日はマスターと話ができそうだとわかり、本庄は胸を撫で下ろした。
 店内の壁はコンクリートの打ち放し仕上で、テーブルやイスは皆、シルバーを基調としたものを使っている。マスター曰く、無機質な基地をイメージしたらしい。
 午後八時の閉店が間近なせいか、客は中年の男が二人だけ。ポツポツと聞こえる声から察するに、ウルトラマンが話題のようだ。
 本庄はカウンター席に座り、いつものようにブラックを注文した。マスターが「ラジャー」と右手の親指を立てて作業に取り掛かる。ヒーローに憧れて鍛えているせいか、体格はとてもいい。
「最近、仕事はどうだい?」
「まあまあだよ。暇でもないし、忙しくもない」
 話題がいつもヒーローものというわけではない。こういう世間話もちゃんとする。
 しばらくすると、ウルトラマンの話をしていた二人が席を立った。
「お愛想、いい?」
 大文字がレジに向かう。
 会計を済ませると、客の二人は「シュワッチ!」とポーズを決めて帰っていった。まるで子供だ。
 二人が座っていた席を片付け終えたマスターが、改まった口調で「本庄さん、今から少し時間ある?」と訪ねてきた。
「特に用事はないです。うまいもんでも食べに連れて行ってくれるんですか?」
 本庄が冗談混じりに言っても、マスターは笑わなかった。
「ちょっと話があるんだがな」
「構いませんよ」
「少し待ってもらえるかい? 星君、大文字君。今日は上がってくれていいよ」
 マスターにそう言われて、星と大文字は軽い足取りで帰っていった。これからどこかの店にフィギュアを見に行くらしい。
 マスターは二人を見送って、店のドアにかけられた札を「OPEN」から「CLOSED」に変えた。鍵を掛ける音が本庄にも聞こえた。八時にはまだ時間があるが、他人には聞かれたくない話のようだ。
「こっちに移動してもらってもいいかい?」
 本庄はマスターの言葉に従って、テーブル席に移動した。マスターもテーブル席に座り、本庄と自分のカップに、コーヒーを注いだ。
「なんですか、話って?」
「あんたさ、ヒーローにならないか?」
 真面目腐った顔をして何を言い出すのかと、本庄は思わず吹き出した。
「何の冗談ですか?」
「いいかい? 今から言うことは全部マジだと思って聞いて欲しい」
「はあ……」
「実は俺、ヒーローなんだよ」
 本庄は再び吹き出しそうになった。今までヒーローの話は散々してきたが、こういう冗談は初めてのことだった。
 さすがのマスターもそろそろネタ切れか。
「そんなこと言ってもテンション上がらないですよ。子供じゃないんですから」
 マスターは不服そうな表情を浮かべた後、「そうだよな」と一人頷いた。
「わかった。初めから信じてくれと言うつもりはない。とりあえず話を聞いてくれ」
 結末がどこにたどり着くのか、本庄にはわからなかったが、真剣なマスターの眼差しに話くらいは聞いてみることにした。
「公にはされてはいないが、ヒーロー連盟という秘密組織があってな、本部はロサンゼルスだ。世界中のヒーローたちがそこに加入している。もちろん、俺もだ。逆に言えば、加入していない奴は潜りだ」
「そんなにたくさんヒーローがいるんですか?」
「世界中の平和を一人で守るのは無理があるからな」
 これを見てくれと、マスターは地図を広げて、右手の人差し指で大きく丸を描いた。
「だいたいこの辺りが俺の守備エリアだ」
 そこには、本庄たちの住むK市はもちろん、隣のN市とB市の一部も含まれていた。
「一人で手に負えない場合や冠婚葬祭のときは他の者がフォローしてくれるから安心して休める」
 有難い話だ。本当なら。
「それで僕にも加入しろって言うんですか?」
「そうなんだか、連盟には真のヒーローじゃないと加入できないんだ」
「真のヒーロー? どういうことですか?」
「ヒーローのフリをした偽物じゃなく、本当に特別な力を持つ者のことだ」
「マスターにはそんな力があるんですか?」
 マスターは黙って頷く。
「ただし、特撮ヒーローみたいに巨大化や変身ができるわけじゃない」
「だから」と、マスターがズボンのポケットから黒い布を取り出した。大小さな穴が二つずつ。
「マスク?」
「そうだ。連盟では、加入者に変装が義務づけられていて、俺はリザードマンとして活動している」
 確かによく見ると、マスクには鱗のような柄が入っている。ただし、あまりカッコよくはない。
「巨大化や変身ができないなら、マスターにはどんな力があるんですか?」
「身体能力が常人の数倍になっている。不死身とまではいかないが、大抵の病気や怪我は死に至る前に治癒する」
「すごいですね」
 そうは言ったが、本庄は決して信用したわけではなかった。
「でもそういうことなら僕は加入できませんよね? 普通の人間ですし」
「それなら問題ない」と言って、マスターはコーヒーを一気に飲み干した。
「後継者選任制度というのがあって、現職の者は自分の持つ能力の全てを譲る者を選ぶことができる。ただし、その時点でヒーローだった時の記憶は全てなくなる。そうやって俺も前任者から力を授かった」
「どうして辞めようと思ったんですか?」
「疲れたんだ」
「疲れた?」
「確かに体は疲れ知らずだが、年齢はそうはいかない。そろそろ普通の生活に戻りたくなったのさ」
「誰でもいいから、役割を押し付けようってわけですか?」
 本庄は次第に腹が立ってきた。
「本庄さん、それは誤解だ。誰でもいいなら星君か大文字君に頼むさ。俺はあんたにやってもらいたいんだ」
「どうしてですか?」
「星君や大文字君、それにここへやってくる客はただヒーローが好きなだけの連中だ。その証拠に実際の事件のことはあまり話題にしない。でもあんたは違うだろ?」
 そう言われても、本庄にはまるで自覚がなかった。意識はしていない。
「どうすれば犯罪が減らせるかとか、平和な世の中になるかとか、あんたは真剣に考えている。だから俺はあんたを選んだ」
「僕を高く評価してくれるのは嬉しいですけど、痛い目に合うのも怖いのも嫌です」
 自分でもヘタレのような気がしたが、本庄は正直に話すことを選んだ。ヒーローに憧れるのと実際にヒーローになるのはまるで別物だ。
「心配するな。痛みならすぐに慣れるし、恐怖も消える。何より体中で燃えたぎる正義の炎があんたを放っちゃいない」
 そう言われると、本庄は自分にもやれそうな気がしてきた。ただどうしても気になることがある。
「給料は?」
「ゼロ」
「ゴメン。無理」
「本庄さん、金の問題じゃなくて……」
「問題ですよ。建前だけじゃヒーローなんてやれません。他を当たって下さい」
「誰でもなれるわけじゃない。あんたは選ばれたんだ」
「マスターにでしょ?」
本庄は冷たく言い捨てて席を立った。
「そうだ。肝心なことを言ってなかった」
「まだ何か?」
「福利厚生はしっかりしている。健康保険もあるし、ヒーロー年金というのもある。新年会も忘年会もあるし、二年に一度慰安旅行もある」
「全額支給で?」
「積み立てだ」
「やっぱり無理です」
 本庄は軽く手を挙げると、出口に向かった。これ以上は相手になれない。
「そうか! わかったぞ」
 マスターがバンとテーブルを叩く。
「あのトカゲのマスクが嫌なんだな? あれは俺がやっていただけで、別にあんたが合わせる必要はない。カンガルーでもラッコでも……」
「はい、はい。続きはまた今度ね」
 本庄がドアの鍵を外そうとすると、店の前に黒いワンボックスカーがやってきて、後輪を浮かせるほどの急ブレーキで止まった。
 後部座席の窓が静かに開いた。
 その瞬間、マスターが本庄に向かって怒鳴り声を上げた。
「伏せろ!」
 マスターの声が本庄に届くより先に、車の窓から目出し帽の男が身を乗り出し、マシンガンを乱射し始めた。
 銃声が響き渡る。フィギュアの飾られたショーケースのガラスが割れ、マスターの愛したコレクションが粉々に砕け散る。
 突然のことに避けることができなかった本庄は、無数に打ち込まれる銃弾の格好の餌食となり、マリオネットのように激しく体を揺らした。
 マスターは自らの体に銃弾を浴びながら、本庄に駆け寄った。後ろから本庄の体をがっちりと受け止めると、マシンガンに背を向けて奥にあるカウンターを目指した。的を絞らせないために左右に体を翻しながら走る。
 銃撃は一向にやまない。弾丸を全て打ち尽くすつもりだろう。
 銃弾がマスターの右足の踵を直撃した。思わず地面に膝をつく。動きの止まった的ほど、狙い易いものはない。
 マスターは立ち上がるより先に、銃弾を集中的に背中に受けて地面にひれ伏した。それでも体は本庄に覆い被さる形になっていた。
 そこで銃撃も止んだ。目出し帽の男が甲高い声で笑った後、車は走り去っていった。

 しばらくしてマスターはゆっくりと体を起こした。筋肉が体内に入り込んだ弾丸を外へと押し出していく。あの程度のことでは死にはしない。
 命が危ないのはむしろ本庄のほうだ。至近距離から全身に銃弾を受け、傷は酷いなんてものではない。微かに息をしてはいるものの、死んでいるのとほぼ変わりがない。
「すまない。本庄さん……俺がついていながら……」
 マスターがいかに常人を超越した力を持っていようと、他人の傷を癒すことはできない。
 しかしたった一つだけ本庄を救う手がある。
 普通なら誰でも躊躇う選択だが、マスターに迷いはなかった。
「本庄さん、あんたはやっぱりヒーローになる運命にあったようだな」
 血だらけの本庄の胸に、マスターはそっと右手を当てた。

小

 誰かに呼ばれた気がして、本庄は目を覚ました。床一面に散らばるガラスの破片と壊れたフィギュア。硝煙と鼻を衝く火薬の臭いが、まるで戦場にいるような気分にさせる。
 本庄の記憶は、店を出ようとしてマシンガンで撃たれたところで止まっている。
 服の至る所に穴が開き、周りは血で赤く染まっている。もしこれが銃弾の跡ならば、すでに死んでいるはずだが、血は止まり、傷もない。それどころか、僅かな痛みさえない。
 自分の身に何が起きたのか、本庄にはわからなかった。
 後ろを振り返ると、マスターがうつ伏せで倒れていた。
「マスター!」
 激しく体を揺すってみるが、返事はない。首に触れ、脈を取る。指先に血管の膨張と収縮が伝わってこない。
 そんな馬鹿な……大抵の傷は死に至る前に治る。マスターはそう言っていたはずだ。
 本庄ははっとした。そして全てを悟った。
 自然と涙が溢れ出る。
 よく見ると、床に零れたコーヒーで文字が綴ってある。

『Go! Fight! You're the  Hero』
 
 そう。今やるべきことは泣くことではない。
 本庄の中で沸々と湧き上がるものがあった。マスターのズボンのポケットを探って、トカゲのマスクを取り出した。 
「後は僕に任せてください」 
 そう言い残して、店を出た。
 道路に立つと、見えるはずのない、遥か遠くを走る黒いワンボックスカーが見えた。距離はおよそ四十キロ先。中には若い男が二人、煙草を吸いながら、如何にも機嫌が良さそうに豪快に笑っている。
 追いつける自信があった。
 何も怖くはない。それ以上に奴らが憎い。
 
『体中で燃えたぎる正義の炎があんたを放っちゃいない』
 
 本庄はようやくマスターの言葉を理解した。
 マスクを被り、拳をギュッと握ると、全身に力が漲るのがはっきりとわかった。

<了>

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