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「忙しい人たちへ(掌編集)」
忙しい人たちへ①

『約束を守りたくて』

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「わかりました。それで、提出のほうなんですけど、いつ頃がよろしいでしょうか?」
 少し緊張して、受話器の向こうの相手からの返事を待つ。
『うーん。そうですね。できるだけ早くでお願いします』
 答として一番厄介なパターンだ。すぐに取りかかったほうがいいのか、それとも本当にこちらのできる範囲の最速なのか。曖昧にすると危険なので、こういう場合はハッキリと期限を聞くのがベストだ。
「明日でも大丈夫ですか?」
『ああ、全然構いませんよ』
 その言葉にそっと胸を撫で下ろす。とりあえず今日じゃなければ、それでいい。
「失礼します」と、受話器を下ろすと、先程の図面の続きを描き始めた。
 突然の電話で多少時間はロスしたものの、今のペースで行けば、何も問題はない。
 マウスを握り、パソコンの画面を睨めつけるようにして、線を描いていく。どんな仕事であれ、効率をあげるのに必要なのは、集中力だ。
 ようやくノッてきたところへ、また邪魔が入った。
「山村君、悪いんだけどさ、佐竹邸の平面図と立面図印刷してくれないかな?」
 二つ年上の営業マン、東谷だ。
「この前出して図面ケースに入れてますよ」
「そうなんだけどさ。俺、うっかり原紙を職人さんに渡しちゃったんだ」
 うっかりなんていうのは嘘だ。

「コピーするの面倒だし、また山村に出してもらえばいいか」

 そう考えたに決まっている。なぜなら今まで何度もこういうことがあったからだ。文句を言ってやりたい気持ちはあったが、今日に限っては、ぐたぐたとつまらない言い訳を聞いている時間が勿体ない。早いところ、図面を渡して外出させよう。
「わかりました。今回はコピーして持っていってくださいよ」
「ありがとう。助かるよ」
 心の籠っていない礼は無視して、佐竹邸の図面を開く。当然のことながら、今描いている図面は中断せざるを得ない。僅かな時間なのだが、蓄積していくと結構なものになる。
 印刷ボタンを押して、はい。おしまい……には、ならなかった。
 窓際に置いたコピー機がピピピピと鳴いている。
 紙詰まりだ。
「東谷さん、ちょっと見てき……」
 そこまで言って、すでに東谷の姿がないことに気が付いた。
 いったいどこへ行ったんだ。
 こうなったら自分で直しに行くしかない。いつもなら面倒臭さからノロノロと立ち上がるが、今日ばかりは俊敏に動いてコピー機の元へと向かった。ディスプレイの表示に従って、用紙の詰まったトレイのドアを開く。ローラーに噛まれたA2用紙をゆっくりと引っ張ってみたが、取り除けたのは半分までだった。「絶妙に離さない」とばかりに、ローラーが残りの部分にがっちりと噛みついている。
 こんなときに限って!
 こういうときはイライラしたら負けだ。
 落ち着いてローラーのロックを解除する。ビリビリに破れた紙にトナーが付着していて、指にもそれが付く。「手を洗う」というタイムロスがまた一つ増えた。
 舌打ちを抑えてコピー機を復旧させる。先程データを送った図面が自動的に出てきた。
 そこへ煙草の臭いをプンプンさせて、東谷が戻ってきた。
「図面まだ?」
 いつか絶対仕返ししてやる。

 図面を渡して東谷を追い出すと、元の作業を再開した。頭の中で、時間配分を組み直してみた。予定より遅くはなりそうだが、まだ許容範囲だ。
「よし!」と、改めて気合いを入れ直したところへまた電話がかかってきた。
 今度は工事担当の国松さんだ。
「ちょっと今から言う品番の照明の寸法調べてくれないか?」
 国松さんは、僕より歳も経験も遥かに上なのでノーとはなかなか言えない。
 ケータイを使ってメーカーのホームページで調べてくれれば早いのだが、彼のケータイはスマホではなくガラケーのため、それは難しい。本人曰く、「あんなややこしいもん、俺が使えるわけないだろう」ということで、頑なにガラケーを使い続けているのだ。そのおかげで、わからないことがあれば、事務所にほぼ常駐の僕に調べてもらうという厄介な習性が身に付いている。この状況から逃れるためには、さっさと調べて答を返すしかない。
「わかりました。品番を教えて下さい」
「えーと……」
 受話器を肩と頭で挟んで、キーボードに手を伸ばし、国松さんの言う品番を検索サイトで探す。入力を終えてエンターキーを押すと、 その照明の掲載されたページがすぐに開く。
 いつもなら……。
 なぜか今日は開かない。
 もう一度挑戦してみたが結果は同じ。
『ページが見つかりません』という無情な答え。
「ダメです。ネットがつながらないです。カタログで調べて折り返します」
 そう言って、電話を切った。
 今日は本当にツイテいない。

 寸法を確認して、国松さんへの連絡を終えると、事務の女の子から声を掛けられた。
「山村さんが電話中に峰さんから電話がありましたよ」
 またまたまた邪魔が入った。
「用件は?」
「木調タイルのサンプルがあったかどうか確認して電話下さいって」
 くそっ! どいつもこいつも。
 怒鳴りたい気持ちを堪えて、三階のサンプル置き場に走った。

 再び今の図面作成に集中するのに、随分と時間がかかった。
 予定はすでに大幅に狂っている。この物件のアポは明日だ。必ず今日中に図面を完成させる必要がある。納期の延長はできない。
そう考えると、僕自身がしている約束の時間には間に合いそうにない。
 仕方なしに電話を掛けることにした。
『もしもし?』
「ゴメン。今日、遅くなりそう。仕事が思ったより手間どっちゃってさ」
 俺のせいじゃないけど。
 そう言いたいのをぐっと堪える。
「悪いけど、先に始めておいてくれないか?」
『何時になりそう?』
「わからないけど、なるべく早く切り上げるよ」
『仕方ないね。頑張って』
 言葉ではそう言っていたが、彼女の落胆ぶりが声を通して伝わってきた。なるべく早くとは言ったものの、実際はそれほど簡単じゃない。
 腐っていても仕方がないので、とにかく全力を尽くすことにした。

 午後六時を過ぎる頃になると、営業や工事の連中がぞくぞくと帰ってきた。そしてまた新しい仕事が増える。
 図面の変更や新規物件についての打ち合わせだ。特に工事中の物件についてはすぐに対応しなくてはならない。最近の客は優柔不断で、工事中でも平気で変更を言ってくる。
 それが終わってから作業に戻る。少しずつだが、図面は確実に完成に近づいてはいる。
「山村」
 声を掛けてきたのは社長だ。
「上嶋邸はどうだ?」
 社長が言っているのは、朝からやっている図面のことだ。
「まだ途中ですが、何とか今日中にはできます」
「そうか……とりあえず今できているところまで見せてくれ」
 今の時点で修正を言われるのは嫌だか、でき上がってからやり直すよりはマシなので、途中の図面を印刷して、社長と打ち合わせをした。
 予想通りいくつか修正が出た。また帰る時間が遅くなる。

 午後十時。僕を除く事務所内の全員が退社した。社長も例外ではなく、「図面ができたら、俺の机に置いておいてくれ」と言い残して帰っていった。
 ようやく静かに仕事ができる。ただ、もう約束は守れない。
 今日は息子の秀哉の誕生日だ。三歳になる。
 家族揃ってお祝いのつもりだったが、計画は台無しだ。秀哉はもう寝ているだろう。
 やる気も集中力もすっかりなくなった。しかし投げ出して帰ることもできない。
 とりあえず、気分転換にコーヒーを飲むことにした。

 やる気がないのに、やらなければならない。これほど悪循環を生み出す条件はないだろう。
 そのせいばかりではないが、結局、図面が完成したのは午前三時過ぎ。そのまま会社に泊まろうかとも思ったが、それをやったら負けのような気がしたので、タクシーで帰ることにした。
 
 家に着く頃には、辺りがぼんやりと明るくなり始めていた。
 ウチは決して広くはないマンションなので、静かにそっと玄関ドアを開けて中に入った。
 テーブルの上には唐揚げやポテトといったパーティーの定番メニューが、僕の分だけポツンと置いてあった。
 今更、晩御飯というのも遅すぎる。いや、早すぎるか。
 でも、せっかく用意してくれたんだし、少しだけでも食べておこう。
 麦茶を入れるために、冷蔵庫を開けると、苺のケーキが手付かずで残っていることに気が付いた。『しゅうやくん たんじょうび おめでとう』と書かれたチョコもそのままだ。
「おかえり」
 振り替えると、照明の眩しさと眠さからか、細い目をした妻が立っていた。
「仕事、大変だったのね」
「ゴメン」
「いいのよ。身体は大丈夫?」
「うん。大丈夫。それよりケーキ食べなかったのか?」
「うん。秀哉にケーキ食べようかって聞いたら、『イヤ、パパ、一緒』って言って食べなかったのよ」
「えっ……」
「他の料理はちゃんと食べたのに、ケーキだけはイヤだって」
 思わず、目頭が熱くなる。
「そうか……」
 改めて約束を守れなかったことに責任を感じた。
 冷蔵庫を閉めて、秀哉の眠る部屋へと向かった。起こしてしまわぬように静かにドアを開け、ベッドに近寄る。
 小さな体を上下させて、気持ち良さそうに寝息を立てている。
 まだ話せる言葉は少ないのに、一生懸命に自分の思いを伝えた秀哉。
 その成長が堪らなく嬉しい。
 ケーキ、みんなで食べたかったんだよな。
「秀哉、ゴメンな」
 秀哉の頭をそっと撫でると、くるりと寝返りをうって、横向きから仰向けに姿勢を変えた。起こしてしまったかと慌てたが、その心配もなかった。
「明日、一緒にケーキ食べような」
 そう囁くと、秀哉が「うん」と小さな声で答えた。

<了>

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