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「忙しい人たちへ(掌編集)」
忙しい人たちへ①

『水際に立ち』

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 後部座席のチャイルドシートに座る、息子の大地が窓の外を指差し、「うー、うー」と自分なりの言葉で何かを伝えようとしている。
 海が見えたからだろう。
 夏になれば、さぞかし海水浴客で賑わうであろう、この辺りも、今はほとんど人気がない。
「そろそろだよな?」
 俺の問いかけに、助手席に座る妻の真奈が黙って頷く。

 小

「祖父に会って欲しい」
 真奈が突然そんなことを言い出したのは、一週間前の日曜日の夜遅く、大地が眠った後だった。
 あまりに神妙な顔つきで話すので、何か命に関わることだろうかと思った。彼女の祖父に会ったのは結婚式の時だけだが、随分とご高齢の様子だったため、そう言われても不自然ではなかった。
 真奈は静かに首を横に振った。
「会って欲しいのは、母の父なの」
 真奈の母方の祖父母は随分前に亡くなっているはずだ。それどころか、母親自身も、真奈が幼い頃に事故で亡くなり、真奈は父親に男手一つで育て上げられたのだと聞いた。
「今まで嘘をついていてゴメン。祖父は生きているのよ。ただ、事情があって会わせることができなかっただけ」
「事情って?」
「驚かずに聞いて欲しいの」
 真奈の言い回しに思わず緊張した。
「私の祖父は人魚界の王なの」
 何の冗談だろう。彼女はそんなことを言うタイプではないはずだ。それでも、つい尋ねてしまった。「冗談だろ?」と。
 真奈は「私も冗談であって欲しい」と言って、少しも笑わなかった。
「それじゃ、真奈も人魚なのか?」
「いいえ、私は人間と人魚の混血」
 真奈の話によると、彼女の母親はその人魚界の王とやらの娘で、興味本位で人間界に来た時に、一人の男と恋に落ち、子供を身籠った。それが真奈であり、男というのが彼女の父親らしい。
「母が亡くなったのも事故のせいじゃない。祖父に殺されたのよ。人魚界の恥だってね」
 嘘か真かわからぬ話だが、「殺された」という言葉にゾクっとする。
「君とお父さんは?」
「命だけは取られずに済んだわ。ただし、父は条件付きよ」
「条件?」
「私を一人前に育て、子供を産ませること。そして二人を人魚界に引き渡すことも約束させられたらしいわ」
 真奈と大地を渡せだと……。
 そんな条件を「はい、そうですか」と、承諾できるわけがない。
「断ればどうなる?」
「あなたと父は殺されて、私と大地は人魚界へ連れていかれる。同じことよ。従うしかない」
「そのジジイは、なぜそこまで真奈たちにこだわる? 自分の後でも継がせるつもりか?」
 真奈が険しい顔つきのまま、「いいえ」と首を横に振る。
「今、人魚たちは絶滅の危機に瀕しているらしいわ。子供を産んでもうまく育たない。皆、幼いうちに死んでしまう。人間が海を汚したせいだって祖父は言っていたそうよ。つまり棲家を失いつつあるってことね。そこで目をつけたのが、私のような混血なの」
「どういうことだ?」
「あなたは気付いていないかもしれないけど、私には人魚の特性があるのよ」
「特性?」
「水中でも地上と同じように呼吸ができることや誰にも教わらなくても泳げるようになったこと……他には、魚介類なら何でも生で食べられることかしら。そうそう、飲み物は水だけ、それも塩水よ。私がいつも塩を持ち歩いているの、知っていた?」
 彼女の問いかけに首を横に振るしかなかった。確かに酒やジュース、お茶を飲まないのことに違和感を抱いていたが、そんな理由があるなんて思ってもみなかった
「私のおかげで、混血ならば、陸上での生活が難しくないことが証明されたわ。ただ、水中での生活については未知数だから、それも知っておく必要がある」
 胸の中に、徐々に込み上げてくるものがあった。
「そのために真奈が必要だと」
「そういうことよ。それに彼らにとって人魚の血が途絶えてしまっても困る。より人間の血が濃くなった大地も必要なのよ。どのくらい人 魚の特性が薄れているか知るために……つまり実験のサンプルとしてね」
「もうよせ!」
 思わず声を荒げた。
「なぜそんなふうに平然と話せるんだ!」
 真奈の淡々とした口調に苛立った。
「家族がバラバラになるんだぞ。真奈、お前はそれがわかっていて俺と結婚したのか! 大地を産んだのもそのためなのか!」
 俺が鋭く尖った言葉をぶつけても、真奈の表情は変わらなかった。
 彼女はそんなに薄情な人間だっただろうか。
 それとも全てが芝居だったというのか。
「今まで一緒に過ごしてきた時間は、嘘だったっていうのか?」
 そんなはずはない。
「そうかもしれないわね。まあ、悪く思わないで」
 真奈の言葉で、俺は反射的にテーブルを叩いて立ち上がった。静かな部屋にバンという低い音が鳴り響く。
「よくもそんなふうに……」
 そこまで言って、俺は口を噤んだ。
 真奈の頬を涙が伝うのがわかったからだ。
 隣の部屋から大地の泣く声が聞こえてきた。「とにかくそういうことよ」と、真奈は涙を拭いながら席を立ち、大地のそばへと行った。
 閉じられたドアの向こうから真奈が大地をあやしているのがわかる。
 優しく、温かい、愛する子供に接する母親の声だった。

 小

「あれね」
 真奈が指差したのは、水面からなだらかな曲線を描いて空へと伸び上がる岩だった。先端は人魚の尾びれのように二つに割けている。
 その岩の近くの海岸に、人魚界の使者とやらが迎えにやって来るらしい。
 海水浴場からは遠く離れてしまったせいか、どこにも駐車場がない。適当なところで車を路肩に寄せて降りた。侵入防止というにはあまりに頼りない、申し訳程度の低いフェンスを跨いで砂浜へと足を踏み入れた。
 初めて見る海に大興奮の大地は、まだたどたどしい足取りで波打ち際まで一目散に駆けていった。寄せては返す波の動きに合わせて、笑いながら行ったり来たりを繰り返している。
 人魚の血筋なのか、大地は水を怖がらない。頭から水を被っても平気だし、泳ぐこともできる。ただし、バタ足ではなく、魚と同じで体をくねらせて前に進む。今、考えれば、なぜ俺はそれを可笑しいと思わなかったのだろう。
「キレイね」
 真奈がポツリと呟く。
 雪原のように真っ白な砂浜と、映画に出てくるような美しく青い海。
 それでも人魚にとっては汚れていて、生きてはいくことができないという。
 お互いの特性を活かしながら共存していく道はないのか。
 もしそのために真奈や大地が役に立つのなら、今日の別れは仕方がないのかもしれない。
「真奈と大地を引き渡せば、じいさんは人間を許してくれるのか?」
「白紙に戻せってこと? さすがにそれは無理じゃないかしら」
「やっぱりそうだよな」
 諦めに近い笑みが零れる。
「それでも大事な家族を奪われるんだ。少しは人間のことを好きになってもらいたいな」
「どうかしら。お父さんの話じゃ、頑固者のクソジジイらしいから」
 真奈は「クソジジイ」というところで語気を強めて、クスッと笑った。「ねえ」と視線は海へと向けたまま、改まった口調で俺を呼んだ。
「覚えていて欲しいことがあるの」
「なんだ?」
「何があっても私たちは家族だってこと」
「家族……」
「人間も、人魚も、混血も関係ない。それだけは絶対に変わらないわ」
 真奈の顔をそっと見ると、力強い表情をしながら涙を流していた。波打ち際で遊んでいた大地が俺のほうへと駆け寄ってきた。
 両手を上げてだっこをせがむ。
 最近、ようやく自分の意思を伝える術がわかってきたようだ。そっと抱え上げてやると、大地は満面の笑顔を見せた。
 その瞬間、俺の中で何かが弾け飛んだ。
「真奈」
「何?」
「逃げるぞ」
「えっ? ちょっと……」
 真奈が言葉を紡ぐのを気にも留めず、俺は大地を抱えたまま、車に向かって走り出した。前を向いていても、真奈が追ってくることがわかった。
 後部座席のドアを開けると、慌てぬよう自分に言い聞かせながら、大地をチャイルドシートに座らせた。
「いったい……どういうことなの?」
 真奈が息を切らしながら、そう尋ねてくる。
「どういうことも何も、そのままだ。逃げるんだよ」
 大地のシートベルトを締め終えて振り返ると、真奈が目を丸くしていた。
「逃げるって……そんなことしたら、殺されるわ」
「そうだろうな」
「そうだろうなって……」
「とにかく乗れよ」
 戸惑う真奈に構わず、俺は運転席に乗り込んだ。納得がいかないという表情をしながらも、真奈も助手席に座った。彼女がシートベルトを締めたのを確認もしないまま、俺はすぐに車を発進させた。
「どうしたのよ。急に!」
「嫌になったんだよ。顔も見たことのないジジイの言いなりになるのが……何の抵抗もせずに、俺の大事な家族を奪われてたまるか。男として、夫として、父親として、お前たちを守ってやりたくなったんだ」
「そんなの……無理だよ。絶対に殺されるわ」
 真奈が今にも泣き出しそうな声を出す。
 例えそうなったとしても悔いはない。
「もしかして男としてのプライドとか、そういうつまらない物のため?」
「そうかもしれない」
「馬鹿馬鹿しい。私の気持ちは考えてくれないの?」
「真奈の気持ちは確かに受け取ったよ。これがその答えだよ」
「そんなの……ただのワガママだよ」
 真奈は膨れっ面でプイッと横を向き、それ以上は何も言わなかった。
 大地がまた窓の外を指差して、「うー、うー」と騒いでいる。
 海が見える。
 先程までの穏やかさを失い、白波を立てて激しく荒れ狂う海が……。

<了>

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