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名探偵と呼ばないで

『名探偵と呼ばないで』 -終-

 ←『名探偵と呼ばないで』 -2- →『メッセージ』
 テレビを見たり、会話を楽しんだりと、殺人犯に狙われているかもしれないことを忘れたように皆、騒いでいたが、午前零時を迎える頃には眠気を訴える者が出てきた。日中のスキーで疲れているのだろう。
「全員が起きている理由はありませんから、交替で仮眠をとりましょう。オーナー、この階に布団や毛布の予備はありますか?」
 俺の質問に、オーナーが「ございます」と丁寧に答えた。
「では僕のグループとオーナー夫人のグループで取りに行きましょう」

 布団と毛布の予備は、一番手前の客室横にある、戸棚の中に入ってあった。
「肇ちゃんは眠くないの?」
「うん。心配いらないよ」
 もちろん、嘘だ。しかし立場上、というか配役上、俺が一番最初に寝るわけにはいかない。あくまで探偵として最低限の役割は果たさないと。
「みんなが寝静まってからが一番危険だからな」
 名探偵はツライぜ。
 
 とりあえず、僕のグループ以外の三グループに仮眠をとってもらうことにした。
 あれほど騒々しかった部屋の中が急に静かになった。「眠ってもいい」と言われるのを待っていたかのように、皆、あっという間に寝息を立て始めた。
 風が窓を叩く音が妙に大きく聞こえる。
 オーナーもうつらうつらとしていて、今にも眠ってしまいそうになっていた。
「オーナーも良かったら少し休んでください」
「いいえ、そういうわけにはいきません」
 私はまだ大丈夫ですよと言わんばかりに、オーナーがシュッと背筋を伸ばす。
「後は僕にお任せください。それともオーナーまで僕を疑うんですか?」
「いや、そういうわけでは……」
「だったら、お休み下さい」
 オーナーは「申し訳ありません」と、何度も謝った後、ソファで横になった。
「美咲は大丈夫か?」
 隣に座る美咲に視線を向けると、やはりオーナーと同じようにうとうとし始めていた。
「美咲も少し休めよ」
「でも……」
「気にしなくてもいいよ。どうしてもと言うのなら、後で代わってくれればいい」
 美咲はしばらく考え込んだ後、「じゃあ、コーヒーをもう一杯淹れてあげるね」と言って、台所へ向かった。
 
 余程眠かったのだろう。美咲はコーヒーをテーブルに置くと、すぐ横になって眠ってしまった。
 やれやれだ。ようやく俺も一息つくことができる。
 座ったままの姿勢でソファに身を埋めると、安心のせいか、今までにない激しい睡魔が襲ってきた。「まだ眠るわけにはいかない」と、美咲の淹れてくれたコーヒーを、熱さを堪えて一気に飲み干した。
 それにしても誰か早く目を覚まして交替してくれないだろうか。
 皆が寝ている中でテレビをつけることも不味い気がしたし、ケータイでネットを見ることもできない。少し体を動かそうかとも思ったが、重くなり始めたのは瞼だけではなかった。全身が気だるくて、力が入らない。
 ホンの少しだけ眠ろう。五分……いや、三分程度だ。そんな短時間では、犯人だって何にもできないはずだ。
 自分への甘さも手伝って、とうとう容赦なくやってくる眠気に屈した。

小

 体が浮いているような感覚がする。ふわふわとしていて、随分と気持ちがいい。
 ここは夢の中だろうか。
「思ったより重たいな」
 頭の上から男の声が聞こえた。「重たい」とは何のことだろう。
「体中の力を抜いているからね。きっと」
 次は女の声。足元から聞こえる。
 俺はひょっとして、誰かの手によってどこかへ運ばれているんだろうか。
 抵抗を試みるが、体が思うように動かない。意識ははっきりとしているのに、声も出せない。目を開くこともできない。
 ドアの開く音と同時に、耳を切り裂くような、鋭い風の音が気聞こえた。体中に感じる冷たさは、間違いなく雪だろう。
「こっちはもう離してもいい?」
 また女の声だ。
「ああ。ここからは引き摺って行く。どうせ、痕は雪が消してくれるからな」
 ドサッという音と共に、両足の踵が雪の上に落ちた。今度は万歳の姿勢で、体を引き摺られているようだ。
 こいつら、俺をどこへ連れて行くつもりなんだ。
 相変わらず体は言うことを聞かず、正体不明の男女の為すがままになっていた。

「よし、この辺りで一度降ろそう」
 男の声が聞こえたかと思うと、今度は頭を雪の上に打ち付けた。 
 オイルライターの蓋を開ける音がした。
「くそっ、うまくいかねえな」
どうやら男は煙草に火をつけたいらしいが、風のせいかうまくいかないようだ。「諦めたら?」と女は呆れたように言う。それきり、ライターの音は聞こえなくなった。
「それにしても、名探偵の孫も大したことねえな」
「そうね。けど、一杯目のコーヒーで眠らなかったのはコイツだけだった」
 まさか、あのコーヒーには睡眠薬が……確か、あのコーヒーは……。
「おだてられるとすぐ調子に乗る勘違い男だからね。そういうところがウンザリなのよ。今までの事件だって、私の力があったから解決できたっていうのにさ。いつも俺一人のおかげだって顔されちゃ、堪んないわよ」
 やっぱり美咲が……嘘だろ?
 男のほうがふんと鼻を鳴らす。
「そんな名探偵さんも、まさか自分だけが狙われているとは思ってもみなかっただろうな」
 何だって! じゃあ、あの殺人予告は……。
「そういえば、明ってあなたの友達は? 死んだフリでもしてもらってるの?」
 男のほうは本郷か。
「いいや、明なんて初めからいない。あれは俺の変装だ」
「変装?」
「客の少ない時間に、俺が明としてチェックインし、しばらくして窓から外へ出た。時間をずらして再チェックインし、明が死んでいると騒いだのさ」
「じゃあ、部屋には遺体どころか、何もないの?」
「そういうことだ。こいつが遺体を確認するっていったときは少し焦ったがな。お前が機転を利かせてくれたおかげで助かった」
「あんたが何だか動揺しているように見えたからね。でもコイツはうまく誤魔化せたけど、警察はどうするつもり?」
「明は、自分を容疑者から外すため、一番初めに殺されたフリをしていたのでは? ということにすればいい。本当の狙いは銀田一で、皆殺しの殺人予告はダミーだった。目的を達成した明はそのまま逃亡した、という筋書きさ」
 横腹を軽く蹴られる感覚がした。
「俺がコイツの代わりに推理ショーを披露してやるよ」
 本郷が高らかに笑う。
「さて、そろそろ、こいつを投げ落とすか。手伝ってくれ」
 再び体が持ち上げられた。力を振り絞り、必死にもがこうとしてみたが、やはり結果はこれまでと同じ。
「いいか? 一、ニの三で放り投げるぞ」
 体が左右に揺さぶられている。
 くそっ、万事休すか!
「いち……にの……さん!」
 ふわりと宙を舞うのがわかった。
 スキーのジャンプってこんな感じなんだろうか。
 そんな能天気な考えが浮かんだ。
 そして次の瞬間、背中を激しい痛みが襲った。
 後はただひたすら、下へと滑り落ちて行くのみ。まるでパチンコ玉のように、右へ左へと体を弾かれ、どこが痛いと感じる暇さえないほど、次々に体のあらゆる部分を何かに打ちつけた。

 どのくらい滑ったのかはわからないが、ようやく落下は止まった。もちろん、立ち上がることなんてできない。
 意識は朦朧としている。
 ただ一つ、「俺は死ぬんだろうな」という気はした。
 しかし、これでこの物語は終わった。
 主人公の探偵が殺され、犯人の一人がその恋人という、推理小説として決して受け入れられないであろう結末だが、とりあえず、俺にとってはそんなことはどうでもいい。
 これで無事現実世界に帰ることができる。
『リアルノベラー』に関しては、買った店に持って行って、「この不良品のせいでエライ目にあった」と文句を言ってやろう。商品の交換はもちろん、併せてお詫びポイントくらいつけさせてやるつもりだ。

小

 白い何かが見える。
 もちろん、雪なんかじゃない。人工的に作られた白……天井だ。そしてここはベッドの上。
 俺は現実世界に帰って来たんだ。
 上半身を起こそうと試みるが、うまくいかない。
 おいおい、まさか睡眠薬が利いているなんてことはなしにしてくれよ。
 もう一度、体に力を入れてみる。全身に激痛が走る。
 どうやら小説世界に長居をし過ぎたせいで、頭が二つの世界を区別できなくなったらしい。
 とりあえず、頭だけを動かしてみる。
 思いも寄らぬ光景に、生唾を飲む。ゴクリと喉が鳴る。
 
 ここは俺の部屋じゃない。
 だとしたら……まさか……。
「おっ、気が付いたか?」
 顔中を毛で覆った男が、俺の顔を覗き込んでいる。
「あの……」
 俺が再び体を起こそうとするのを、男が止めた。
「しばらく無理はせんほうがいい。酷い怪我をしているからな……それにしてもあんた、あんなところで何してたんだい? 俺が偶然通りかかったから死なずに済んだけどよ。あのままだったら確実に死んでたぞ」
 俺に感謝しろよと言わんばかりに、男は満足げな笑みを浮かべている。
 沸々と込み上げてくるものがあった。
 痛みのことなど忘れ、勢い良くベッドから立ち上がった俺は、男の頭を思い切り平手で叩いていた。
「余計なことすんじゃねえ!」
 
 物語はまだ終わらない。

<了>

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