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名探偵と呼ばないで

『名探偵と呼ばないで』 -2-

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 一ヶ月前、『リアルノベラー』という商品を家電量販店で購入した。メーカー希望小売価格九万八千円のところを、限定五台に限り九万円で販売するというので、会社をサボって開店の二時間前に店頭に並んだ。
 発売前から目を付けていたが、高額ゆえに手が出せずにいたのだ。会計を済ませてレジで商品を受け取った瞬間、誰にも見つからぬよう、拳をギュッと握った。
『リアルノベラー』は、読者自身が主人公になって、小説の世界に入り込むことのできる、新時代のブックリーダーだ。
「読むより体感せよ!」がキャッチコピーで、大きさや外観はスマホと似ており、小説のデータはネット上でダウンロードする。タッチパネルで読みたい……というより、体感したい作品を選んで、イヤホン型の装置を耳に着ける。特殊な信号が耳から脳へと送りこまれ、催眠状態に陥る。わかりやすく言うならば、あらかじめ内容の決まった夢を見るようなものだ。
 体感中でも時計機能が付いているため、実際の時刻を忘れてしまうことはない。集中したい場合にはオフにもできる。
 しおり機能も付いており、中断したくなったら、その意思を示せば、そこで現実世界へ帰れるようになっている。

 ところが……俺の『リアルノベラー』のしおり機能が壊れてしまった。
 友人の勧めでこの作品を体感し始めたのはいいが、いくらしおりを挟もうとしても挟めず、現実世界に帰れなくなってしまったのだ。
 おまけに壊れたのはしおり機能だけではない。通常、台詞は自分で考える必要はなく、筋書き通りのものが勝手に話せるようになっているのだが、それもうまくいかない。つまり、物語を自分で作るようになってしまったのだ。
 アマゾンのレビューは五つ星だったし、故障し易いなんてことはどこにも書いていなかった。どうやら運悪く不良品を掴んでしまったらしい。

「それで犯人の目星は付いているのかね?」
 遠山社長が怪しげな目で俺を見る。
「今の時点ではまだ」
 それはそうだろう。現場は愚か、遺体すら確認していないのだから。だが俺は犯人を見つけるつもりなどない。
 
 しおり機能を使う以外に現実世界へ戻る方法が二つある。
 一つは誰かに催眠状態を解いてもらうこと。ただし、一人暮らしの俺には無理な話だ。
 もう一つは物語を最後まで体感する、つまり小説を終わりまで読むことだ。
 それにしてもよりによって推理小説とは……どうせなら官能小説が良かった。

「そんなことより、皆さんの身を守ることが先です。いくら探偵でも、殺人が起きることを望んだりはしませんから」
 なかなか尤もらしい台詞だと、我ながら感心する。
「先程も言ったように、ここで全員が集まって朝が来るのを待ちましょう。何かをする……例えば、トイレや自分の部屋へ行きたい場合は、必ず複数で行くようにして、絶対に一人では行動しないでください。今からグループ分けをします。十二人なので、三人ずつ四つのグループに別れましょう。これには身の安全を守ることと相手を監視すること、両方の効果が期待できます」
「おい、お前。名探偵の孫だが何だか知らねえがよ……」
 また本郷だ。全く面倒臭い奴だ。なぜ犯人はコイツを一番に殺してくれなかったんだろう。
「さっきから随分指図してくれるよな?」
「指図のつもりはありません。もし本郷さんが僕より良い案をお持ちなら、それに従います。皆さんだってそうですよね?」
 本郷以外の全員が頷く。二十二の目が一気に彼を見る。
「ちっ、勝手にしろ」
 本郷は拗ねたようにそっぽを向いた。
 よし、これで当分は静かにしてくれるだろう。
「私たち三人は決定よね」
 女子高生の一人がそう言った。
「いいえ、できることなら一人は男を入れたほうがいいでしょう」
「どうして?」
「やはり女性だけというのは心配ですから」
「そんなの嫌よ。だって、その人が犯人の可能性もあるわけでしょ?」
「そうよ、そうよ」と他の二人も加わってくる。
 くそっ、どいつも、こいつも。
「わかりました。あなたたち三人は同じグループで結構です」
 いざとなれば、俺が一緒に行動すればいいだろう。
 
 残りは特に不服が出たり、揉めごとが起きることなく決まった。
 オーナー夫人、圭太、結衣。
 遠山夫婦と本郷。
 そしてオーナー、美咲、俺。
 以上、三人ずつを同じグループに分けた。
「グループだなんて大袈裟に言いましたが、早々、何かをすることはないので気楽に考えて下さい。とりあえずは皆さん、緊張をほぐすために雑談でも楽しんで下さい」
「それじゃあ、私がコーヒーでも淹れます」
 美咲がそう言ってソファから立ち上がると、「それなら私が」と、オーナー夫人も立ち上がった。
「私も手伝います」と、結衣も続いた。
「いいえ、気にしないでください。台所さえ貸していただければ、大丈夫ですから。奥様も結衣さんも座っていて下さい」
「でも……」
「いいから、いいから。二人とも顔が真っ青ですよ」
 オーナー夫人と結衣がお互いの顔を見て苦笑する。それでも二人が納得していない様子でいると、美咲が僕の腕を肘で突いてきた。
「えっと……ここは美咲に任せて下さい。コーヒーくらいなら淹れられますから」
「ちょっと、肇ちゃん。くらいならって、どういう意味?」
 美咲が鋭い目で俺を睨む。
「あっ、いえ、深い意味はございません」
 俺と美咲のやり取りに、重苦しかった空気が少し和んだ。
「銀田一さんがそう言うのなら」と、夫人と結衣はようやくソファに腰を落ち着かせた。
 俺も後はのんびりしようと思っていると、遠山社長が再び例の件を蒸し返してきた。
「ところで銀田一君。犯人探しはどうするのかね? 私が思うに、犯人を捕まえることが一番の安全に繋がると思うんだが……」
 全くしつこいオッサンだ。この分じゃ、彼の会社の従業員は随分苦労しているに違いない。
「そのためには、まず明さんの遺体と現場の確認が必要です」
 とりあえず真剣にやるつもりはないが、適当にやっているフリくらいはしないとな。
「お前、明を晒しものにするつもりか?」
 そう言ったのは、もちろん、本郷だ。
「いいえ、そういうわけでは……ただ、推理のためには」
「お前の推理なんか必要ねえ。それなら殺される前に何とかしろ!」
 ナイス! 本郷。
「本郷さんがそう言うのなら……」
 やめておきましょうと、言おうとしたのだが、遠山社長がまた余計なことを言う。
「それは無理というもんじゃないかね、本郷君。宿泊客の中にあの殺人予告のことを知っていた者はいなかったんだからね。止めることは不可能だ。だが、彼は遺体と現場さえ見せてくれれば、必ず犯人を捕まえると言っているんだ」
 いやいや、そんなことは断じて言っていません!
「ここは彼に任せてみてはどうかね」
 本郷が黙り込む。
 頼む、言ってくれ! もう少し俺にとって有利な意見を。 
「それなら私が確認します」
 そう言ったのは、美咲だった。
「本郷さんがどうしても肇ちゃんを信用できないというのなら、代わりに私が現場と遺体を確認します」
「美咲、大丈夫なのか?」
「大丈夫。私だって今まで何度も殺人現場に居合わせたわ。肇ちゃんと一緒にね。もちろん、本当は死体なんて見たくないけど……」
 そうは言いながらも、美咲の目に確かな強い意志を感じた。さすが名探偵の孫の恋人だ。だが、あくまで俺の恋人ではない。
「本郷君、女性がここまで言っているんだ。どうかね?」
「……わかりました」
 よし。これはチャンスだ。
「それでは本郷さん、俺と美咲を部屋に案内して下さい。他の皆さんはこちらで待機していて下さい」
 本郷はソファから立ち上ると、無言でロビーを出て行った。俺と美咲も慌ててそれに続く。
 
 明が死んでいる部屋の前まで来ると、本郷がドアノブに手を掛けた。
「待って下さい。本郷さん」
「何だよ」
 その口調にも目つきにも敵意が剥き出しだ。
 なぜ俺はここまで憎まれる。
「遺体の確認はこれでオッケーです」
「どういうことだ?」
 本郷だけでなく、美咲も目を丸くする。
「遠山さんには、遺体も現場も、僕が確認したことにして、後は推理中だと言っておけばいいでしょう。お友達をこんな形で亡くしてしまった貴方のお気持ち、お察しします。あなたが言うように、僕がもっと優れた探偵だったら、明さんは死なずに済んだんです。申し訳ありません」
 俺は神妙な顔を作って、本郷に向かって深く頭を下げた。もちろん、芝居だ。
「お前……」
「それに、美咲に遺体の確認なんてさせたくないしな」
「肇ちゃん……」
「さあ、みんなのところに戻りましょう」
 先に戻り始めた俺の名を本郷が呼んだ。
「銀田一……」
「どうかしましたか?」
「……ありがとうな」
 俺はただ、ふっと笑って本郷の言葉に応えた。
 これでよし。

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