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名探偵と呼ばないで

『名探偵と呼ばないで』 -1-

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「殺人予告だって!」
 ロビーに集まった、ほぼ全員が声を揃えた。 
「どうしてそういうことを早く言わないんだ」
 眼鏡を掛けた小太りの中年男に責められ、初老の男性が「申し訳ありません」と深く頭を下げる。このペンションのオーナーだ。
「ただのイタズラだと思っておりましたし、皆様に余計な心配をお掛けすまいという配慮のつもりでした」
 オーナーがもう一度頭を下げると、隣にいる夫人も黙ってそれに倣った。
「それがわかっていれば、こんなところに泊まりはしなかった。なあ、絹代?」
 小太りの男が再びオーナーを責める。彼はどこかの中小企業の社長で、遠山という名だ。最初に顔を合わせたときに名刺を渡された。絹代というのは彼の妻だそうで、夫婦揃って体型が同じだ。指輪やネックレスなど、体中に着けた装飾品の数々が、「夫の会社は儲かっていますのよ」と言いたげだ。
「本当に勘弁して欲しいわよ」
 絹代が顔をしかめる。
「私たちだってそうよねえ?」
「うん。最悪」
「やめておけば良かった」
 口々に騒ぐのは女子高生三人組だ。先程まで食器がカワイイだの、木の香りがいいだの、このペンションのことを褒めっ放しだったくせに。
「肇ちゃん、私、怖い……」
 隣に座る恋人の美咲が、俺の腕にギュッとしがみついてくる。胸の膨らみを感じて、思わず鼻の下を伸ばす。
 いやいや、今はそんなことを考えている場合ではない。
 このペンション『スノーラウンジ』は、オーナー夫婦の優しい人柄、きめ細やかなサービス、自然素材を使った料理、そしてゲレンデまでの距離の短さなどが評判で、スキーヤーたちにとても人気がある。シーズンになると予約が殺到するが、如何せん部屋数が少ないため、実際に泊まれるかどうかは抽選の結果に依る。
 俺はそんなことに拘るつもりはなかったのだが、「どうせなら」と美咲が勝手に予約をしていたのだ。そして運良く……というより、運悪く「殺人予告」の届いた日に泊まるというハズレを引いてしまった。
 しかし本当の意味での不運は、そこじゃない。

「最悪なのは明だろ。ちゃんと教えてくれていたら、アイツは死なずに済んだかもしれないのによ」
 眉間に皺を寄せ、突き刺すように鋭い目つきでオーナーを睨むのは、本郷という男だ。年齢は俺や美咲と同じで二十代だろう。
 そう、もうすでに殺人予告の被害者は出ていた。

小


 本郷と明は友人同士だが、スケジュールが合わないため、このペンションには別々でやってきたらしい。
オーナーの話によると、先にチェックインしたのは明で、時刻は午後五時頃。一階の一番奥の部屋へと案内した。
 本郷が到着したのは、それからおよそ二時間後。
 俺も含めて、今日の宿泊者たち全員がロビーに集まり、夕食後のコーヒーと会話を楽しんでいた頃だ。ただし、その中に明の姿はなかった。オーナー夫人が、夕食ができたことを知らせにいったのだが、「起こさないでください」の札がドアにぶら下がっていたため、声は掛けずにおいたらしい。
 俺たちに軽く会釈をして部屋へと向かった本郷が、青い顔をしてすぐに戻ってきた。
「明が殺されている……」
 和やかだったロビーの空気が一瞬にして凍りついた。
「冗談だろ?」や「悪ふざけはやめてよ」と、皆口々に本郷の言葉を否定した。それに対して本郷は、「俺だって何度も確認したんだ。でもマジで死んでいるんだよ」と半狂乱になって叫んだ。本郷の話によると、明はベッドの上にうつ伏せで倒れており、首にはロープのようなもので締められた痕が残っているらしい。
「警察を呼ぼう」と言ったのは、美咲だった。彼女の勝気な性格は知っているが、これほどまで度胸が座っているとは思わなかった。その一方で時折、俺の腕にしがみついたり、怖いと漏らしたりもする。いったいどちらが本当の美咲なんだろう。
 しかし、そこでまた一つ問題が起きた。
 電話が繋がらないのだ。オーナーから子機を受け取り、念のために俺も確認してみたが、通常聞こえるはずの「プーッ」という音が聞こえなかった。どこかで断線しているのは間違いない。
 嫌な予感がした。
俺の心情を代弁したのは、遠山夫人だった。体の震えで、ネックレスやブレスレッドがしゃらしゃらと音を立てた。
「もしかして犯人が電話線を……」
 再び空気が凍りつくのを感じた。
 オーナーが申し訳なさそうな顔をして、「実は今朝、ポストにこんなものが……」と、エプロンのポケットから白い封筒を取り出した。一番近くにいた俺がそれを受け取った。宛名も送り主も書いておらず、当然切手も貼っていなかった。直接投函されたと考えるのが自然だ。中には便箋が一枚。
 俺は恐る恐るそれを開いて、ワープロで打たれた文字を皆の前で読み上げた。

『今夜、このペンションに泊まる者を皆殺しにする』

「殺人予告のようです」
「殺人予告だって!」 
 ロビーに集まった、ほぼ全員が声を揃えた。

小

 そして今に至る……。
「オーナーばかり責めないでください。ただのイタズラだろうって言ったのは俺なんです」
「私だって内緒にしておくことに賛成しました」
 大学生のアルバイト、圭太と結衣がオーナーを庇う。
「殺人予告が知れ渡って、売上が減ると困るもんなあ」
「何だと!」
 嫌味を言う本郷に噛みつく圭太を、オーナーが嗜める。
「圭太君、お客様に失礼だよ」
 渋々といった感じで引き下がった圭太の肩を、オーナーは軽く叩き、「ありがとう」と小さな声で礼を言った。
「そんなことより今は警察への連絡が先じゃないのか? 電話線が切られているのならケータイを使えばいいだろ」
 少々苛立った様子の遠山社長が、上着の胸ポケットからケータイを取り出した。
「ちっ、圏外か」
「ここは結構な山奥ですからね。ケータイはどこのものでも使えないと思いますよ」
 圭太がそう言うと、宿泊客全員が自分のケータイを確認する。それぞれの反応から、彼の言葉が嘘ではないことがわかる。もちろん、俺のも例外なく圏外だった。
「最悪じゃん。地元の友達に写メしようと思っていたのに」
 女子高生の一人が口を尖らせた。今はそんな場合ではないというのに、能天気なものだ。
「それなら直接警察へ行くか、近所のホテルか旅館で電話を借りるかだな」
 遠山社長が貧乏ゆすりを始めた。
「申し訳ありませんが、それも難しいと思います。この辺りは夜が更けるに連れて荒れ易く、大雪になることが多いのです」
「ご覧ください」と、オーナーがカーテンを開いた。確かに昼間の天気の良さが嘘のように、ビュービューという風の鳴る音と共に激しく雪が降り注いでいる。人が殺されるという異常な事態に動揺して、天候のことにまでは気が回らなかった。恐らく他の者も同じだろう。
「こんな状態ですので、車での外出でも控えたほうがいいでしょう」
「それじゃ、何か? 私たちはここに閉じ込められたも同然というわけか」
 オーナーがバツの悪そうな顔をして頷く。
「冗談じゃないわよ! 殺人犯が外をうろついているかもしれないっていうのに」
 遠山夫人が金切り声を上げると、「私たち、まだ若いのに!」と、女子高生三人も同じように悲鳴を上げる。
 とにかくみんなを落ち着かせなくては……それが俺の役目だ。
「いや、犯人はこの中にいるのかもしれません」
「何だって!」
 全員の視線が一斉に俺のほうを向く。
「じゃあ、俺たちのうち誰かが明って奴を殺したって言うんですか?」
 圭太が掴みかからんばかりの勢いで、俺のほうへと身を乗り出す。
「ふざけんじゃないわよ!」と遠山夫人。腕組みをして眉間に皺を寄せる本郷。オロオロといっそう落ち着きをなくすオーナー。美咲はまた俺の腕をギュッと握ってくる。
 胸の感触が……じゃない。混乱させてどうする。
「あっ、いや、この中というのは、『この建物の中に』という意味も含めてです」
「どっちにしろ、危ないですよね」という冷静な結衣の言葉に、オーナー夫人も頷く。
 全くもってその通りだ。もう少し気の利いたことを言わなければ。
「先程オーナーが仰ったように、この寒さと悪天候の中、外で犯行の機会を窺っていると考えるのは難しいです。建物の中の状況もわかりにくいですしね」
 今の台詞はなかなか説得力があっただろう。
「犯人がどこかに潜んでいるか、あるいは今、ここにいる人たちの中に犯人がいるか、いずれの場合にしても、全員が集まっていれば、犯人は手出しができないんじゃないでしょうか」
 決まったな。誰も文句はあるまい。このまま朝を迎えて、めでたし、めでたしだ。
「どうでもいいけどよ。自分は犯人じゃないみたいな言い方だな。お前、一体何者なんだよ?」
 ソファに腰掛け、腕を組んだ姿勢の本郷が、あからさまに敵意を含んだ目で俺を見た。
 残念ながら俺は犯人じゃない。なぜなら……。
「肇ちゃんが犯人のわけないじゃない」
 美咲だ。
「だって肇ちゃんは、あの銀田一勘介の孫なんだから」
「銀田一……」
「勘介だって!」
「あの名探偵の?」
 余計なことを言うんじゃない!
 すぐそこまで出た言葉を飲み込み、「ええ、まあ、そんなところです」と答えた。
「それなら安心だ」とオーナーが心底、安心したような表情を見せる。女子高生三人は「誰、それ?」とお互いの顔を見合わせている。
 素性がバレてしまったことは、俺にとって何の得にもならなかった。犯人からしてみれば、探偵など厄介な存在以外の何物でもないはずだ。つまり、次に狙われる可能性が高いのは俺なのだ。
 こんなところで死ぬわけにはいかない。
 何とかしてこの物語を完結させなければ、俺は現実世界に帰ることができないのだ。

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