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【  2012年03月  】 

『美しき幕引き』 第十八回

美しき幕引き

2012.03.31 (Sat)

 「ここに来る前のことだがな……俺はカミさんを殺されたんだ」 的場は視線を畳の上に落とした。山田は言葉が出なかった。「強盗だよ。そのとき、俺は息子を連れて出ていて、家にはカミさんは一人だった。俺が帰ったときには、もう息をしていなかった。そいつはたった十数万の金を奪って逃げちまった」 山田はどうにか言葉を絞り出した。「その犯人は?」「未だにつかまっていない。元々、人の少ないところだったからな。目撃者はい...全文を読む

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『美しき幕引き』 第十七回

美しき幕引き

2012.03.30 (Fri)

  そんなある日、アコースティックギターの音色が山田の耳に届いた。曲名は思い出せないが、ビートルズのものだというのはわかった。 誘われるように一階へ降りると、椅子に座り、ギターを奏でる的場の姿が目に入った。的場が弦を弾く度に、美しく繊細で、温かみのある音が心へと響き渡った。山田は知らぬ間に目を閉じていた。  山田に気が付いて、的場が演奏をやめた。「どうした?」「あっ、すみません」「別に謝る必要はない...全文を読む

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『美しき幕引き』 第十六回

美しき幕引き

2012.03.29 (Thu)

  午後八時過ぎに、「出稼ぎ組」のほぼ全員が店に集まった。皆、好き放題喋りまくり、食べまくり、飲みまくった。 長い間、人目を避けて行動してきた山田には久しぶりに味わう雰囲気だった。飲み会は嫌いではない。酒は強いほうだ。 全員に程良く酔いが回った頃、的場が立ち上がった。「みんな、すまない。ちょっと聞いとくれ」 皆が会話をやめて、的場に視線を集めた。的場に目で合図を送られ、山田も立ち上がった。「この人は...全文を読む

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『美しき幕引き』 第十五回

美しき幕引き

2012.03.28 (Wed)

  夕食を終えると、的場は山田を二階に案内した。「この部屋を使ってくれたらいい」 六畳の和室にはテレビやステレオ、エアコンなどの家電、そしてタンスが一つ置かれていた。窓には濃いブルーのカーテンが掛けられていて、この部屋を誰かが使っていたことは明らかだった。「ここは息子の部屋だった」 そう話す的場の顔は険しい。詳しい事情を尋ねても良いものかどうか、山田が悩んでいると的場が先に口を開いた。「息子はもう帰...全文を読む

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『美しき幕引き』 第十四回

美しき幕引き

2012.03.27 (Tue)

 「何ならうちの店を手伝ってくれんかね?」「えっ……」「ここはそれ程繁盛しているわけじゃないが、週末には出稼ぎの男たちが帰って来て忙しくなる。カミさんはとうに死んじまったし、見ての通り、俺は足が悪い。近頃じゃ、一人でやるには荷が重くなってきてね」 そう言って、店主は自分の右太股をぴしゃりと平手で打った。「上の部屋が空いているし、住み込みで働いてくれると有難いんだがな」 この男は自分の正体を見抜いている...全文を読む

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『美しき幕引き』 第十三回

美しき幕引き

2012.03.26 (Mon)

 「警察に追われているような気配は感じなかったんですか?」「それもなかったな。テレビや新聞を見る機会もあったが、どこにも俺のことは出ていなかった。もちろん、偶然、そのときは取扱われていなかっただけかも知れんがな」 山田の事件に限ったことではない。 マスコミが騒ぐのは事件後の僅かな間だけで、新しい事件が起こると、話題はすぐにそちらへ向かう。 その結果、古い事件は風化し、人々の記憶から消えていく。 現に...全文を読む

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『美しき幕引き』 第十二回

美しき幕引き

2012.03.25 (Sun)

  どこへ向かうのかは決めていなかったが、なるべく人口の少ない町、あるいは村を探すつもりだった。電車やバスなどは使わず、移動は常に徒歩で行った。 人の目が気になって仕方なかった。 いつ誰が自分の正体に気が付くかと思うと、まるで落ち着かなかった。すれ違う者たちにそっと視線を送ってみると、時折目が合った。 しかしそれだけだった。振り返って見るところまでは行かない。 そんな状況にあっても、やはり腹は減った...全文を読む

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『美しき幕引き』 第十一回

美しき幕引き

2012.03.24 (Sat)

  その事件は喜多もよく憶えている。 閑静な住宅街で起きた凄惨な殺人事件。現場には女性一人とその娘、そして強盗と思われる男の遺体。 珍しいケースに世間は騒然となり、警察は行方不明の夫を容疑者として捜査を開始した。 男の遺体があまりに酷い状態だったため、夫が随分凶暴であるかのように当時のメディアは報じた。『キレると手が付けられない』、『家庭内で日常的に暴力が振るわれていた』など。 挙句の果てには『死ん...全文を読む

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『美しき幕引き』 第十回

美しき幕引き

2012.03.21 (Wed)

  フローリングの床一面に広がる血の海、そこにひれ伏す妻と娘、山田に気付かず、部屋の物色を続けるひょろりとした体型の男。白いTシャツの上にグレーのパーカーをはおり、青いジーンズを履いている。 男は山田に気が付くと、バツが悪そうに、そして不気味に「ヘッヘッヘッ」と笑った。年齢は二十歳過ぎくらいだろう。「うおおおっ!」 体を流れる血という血が頭へ昇った山田は雄叫びを上げて男に飛びかかった。学生時代に柔道...全文を読む

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『美しき幕引き』 第九回

美しき幕引き

2012.03.20 (Tue)

 「俺のやったことは正しいからさ」 山田の表情が険しいものへと変わった。殺人の核心を突こうとする度に繰り返された光景だ。「僕にはずっと疑問でした。もしあなたのしたことが正しいのなら、なぜ逃げる必要があるのですか?」 山田が口を噤んだ。しかしこれまでとは違い、銃口を喜多に向けたりはしなかった。 山田自身、その矛盾に気が付いていたのだろう。返す言葉が見当たらないようだ。 しばしの沈黙の後、山田が口を開い...全文を読む

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『美しき幕引き』 第八回

美しき幕引き

2012.03.19 (Mon)

 「山田さんは時効を迎えたらどうするつもりですか?」「そいつはずっと決めてある」 山田は嬉しそうだ。恐らく随分と前から決めていたことなのだろう。「人目も憚らず、腹いっぱい飯を食って風呂に入る。何より先にそれがしたい」「そんなことですか?」「つまらないか? 人間が本当に望むのはそれほど大したものじゃない。そういうありきたりの平穏こそが有難いものだって、この十五年でわかったのさ」「金はあるんですか?」「...全文を読む

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『美しき幕引き』 第七回

美しき幕引き

2012.03.18 (Sun)

 『真面目が一番』 そう言う人間は多い。 しかし喜多にしてみれば、「真面目」というのは何の取り柄にもならない。 毎日、決まった時間に仕事に出て給料を貰っていれば、世間はその人物を「真面目」と見なす。つまり「真面目」というのは基本中の基本であって、当然あるべきものに過ぎない。 企業が求めているのはそれ以上のものだ。「新人に与えられる仕事は大したものじゃない。真面目にコツコツでも通用する程度のものです。...全文を読む

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『美しき幕引き』 第六回

美しき幕引き

2012.03.16 (Fri)

 「明るくなって暗くなれば、一日が終わったと判断できるだろ?」「確かにその通りですね。それで明確な日付がわかるんですか? 本当に後二日で時効ですか?」「もちろんさ。今日は九月十四日、木曜日。違うか?」「……合ってます」「そうだろ?」 山田は誇らしげだった。「すごいですね。二月だってあるわけだし、どこかでズレてもおかしくない」 喜多は無邪気に驚いたが、タネを知る山田にとっては単純なことだった。「答えはこ...全文を読む

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『美しき幕引き』 第五回

美しき幕引き

2012.03.15 (Thu)

 「この家の裏手から山を下っていくと、大きな川があってな。そこで採れる魚を食ったりもする」「そんなに簡単に採れるんですか?」「ガラクタを寄せ集めて仕掛けを作った。後で見せてやるよ」 山田が得意げな表情を浮かべた。時折垣間見える歯は意外に白く、汚れてはいなかった。オリジナルの歯ブラシでも作ったのだろうか。人間、その気になって知恵を絞れば何でもできるものだと、喜多は感心した。「水もそこから汲んで飲む」「...全文を読む

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『美しき幕引き』 第四回

美しき幕引き

2012.03.13 (Tue)

  ◇ ◇ ◇  この村の家は全て木造のため、どこも似たような腐敗ぶりだった。 しかし完全に倒壊したものはなく、家としての骨格はしっかりと保ち続けていた。先人より受け継いできた技術力の高さを山田は実感した。 一軒の家で、壁に掛けられたままの黄ばんだカレンダーを見つけた。七月二十五日に黒いマジックで丸がつけられており、「まーちゃんが泊まりに来る日」と書かれてあった。 子供の字だった。夏休みに入り、親戚の...全文を読む

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『美しき幕引き』 第三回

美しき幕引き

2012.03.11 (Sun)

  しばらく無言の時間が続いた。 静かだった。聞こえてくるのは、鳥のさえずりと、時折吹く風が木の葉を揺らす音だけだ。 変化に乏しいこの状態に慣れてしまっているのか、山田は退屈した様子もなく観賞価値など微塵もない庭をただじっと眺めている。 喜多はその逆で、落ち着きなく立ったり、座ったりを繰り返した。違う部屋を見てみたい気持ちもあったが、山田がそれを許してくれるとは思えなかった。やれそうなことと言えば、...全文を読む

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『美しき幕引き』 第二回

美しき幕引き

2012.03.09 (Fri)

 「……見習いのカメラマンで、撮影の下見に来ただけです」「撮影? こんなところ、写真に撮る価値なんてないだろう?」 男は怪訝そうな顔をした。「僕の先生は潰れた病院や駅、遊園地、マンション、それにここのような民家といった廃墟を専門に撮影している写真家なんです」「あまり良い趣味とは思えんな」「御存じありませんか? 廃墟は被写体としてとても人気があるのです。役割を終えて捨てられたものは、風雨にさらされ、姿を...全文を読む

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『美しき幕引き』 第一回

美しき幕引き

2012.03.07 (Wed)

 【幕引き】 一.芝居で幕を開閉する役目の者。 二.ある出来事などを終わりにすること  目の前に現れた十段を超える石の階段に、喜多ははうんざりとせずにいられなかった。これまで傾斜がきつく、凹凸の激しい山道を散々登ってきたというのに、まだ先があるというのだ。 もちろん、引き返すつもりもない。 何度か屈伸をして覚悟を決めると、喜多はゆっくりと階段を登り始めた。石の表面にはぬめぬめとした苔が付着しており、...全文を読む

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【独り言】再開します。

独り言(雑記)

2012.03.06 (Tue)

 みなさん、こんにちは。ヒロハルです。自分の中であったゴタゴタが解決したので、明日から連載を再開します。私としては、ほんの少しだけ休みつもりだったのですが、皆様が思った以上に、長期休暇をとる者に対するようなコメントを下さったので驚きでした。しばらくは再開しないほうがいいのかと思ったり。笑。次回作のご案内です。そこそこ、長いお話になると思いますが、どうぞお付き合いください。<タイトル> 『美しき幕引き...全文を読む

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【独り言】しばらく休みます

独り言(雑記)

2012.03.01 (Thu)

 皆さん、こんばんは。ヒロハルです。今日はちょっとしたお知らせです。しばらくの間、連載のほうは休ませていただこうと思います。その間は過去の作品でも読んでいただければ幸いです。皆様のところへの訪問とコメント返しはぼちぼちとやらせていただく予定ですので、そのときはまたお相手してやってください。よろしくお願いします。...全文を読む

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